35 帰る場所
このところ、また新たに読みに来てくれている人の気配を感じています。ありがとうございます。
どうぞよろしくお願いします。
やれやれ、と帰路に向かう途中で、電話が鳴った。
「ん?」
・・・桐原さんだ。仁の顔をちらりと見て、ちょっとためらいが出たのは置いておこう。
多分だけど、さっきの事件に絡んで連絡してきてるような気がする。
サキナミ様辺りがもう察してくれて、心配してるような感じがする。
「葵っ!」
もうどこから声出してるんですか。電話なんだから、そんなに大きく声出さなくても。
思わず、スマホを顔から遠ざける。
「はいはい、聞こえてますよ、桐原さん」
「葵!大丈夫なのか!」
ほらね、思った通りだ。めちゃくちゃ心配させてる。多分。
うん?今の声、桐原さんだったけど、なんか、違和感あるなあ。
もしかして・・・。
「桐原さんと、・・・サキナミ様?」
「そうだ」
今日は土曜日。桐原さんはもれなく幸波神社に出勤中の模様。
そして、サキナミ様は遠くにいながら、私に何かあったのを察して、桐原さんの体に入ってきて、とにかく、電話しろと指図してきたそうだ。
サキナミ様との念話、のような会話は、今はできない。
サキナミ様の治める領域内、幸波神社の守りの力が及ぶ範囲内がその領分だ。
扇は私自身を守ってくれるらしいけど、距離があれば、サキナミ様の力が大きく作用することはできないらしい。
折しも、桐原さんは休憩室で休憩中で。つけていた、テレビのニュースで立てこもりの事件を見ていたとか。
そうか、ニュースになってたんだ・・・。
それを見て、サキナミ様は全てを察知して、桐原さんにも大体は伝わっていたみたいだ。
「心配かけてごめんなさい、大丈夫です、こちらで知り合った仲間に手伝ってもらって、解決しました。」
「仲間?季子から聞いた。見えぬものが見えるようになったそうだな」
声の感じと気配から、ほぼサキナミ様の主導権でしゃべってる感じがする。
『・・・久しぶりだな。相模の欅。まさかサキナミ様というのがお前とはな』
「・・・その気配・・・もしかして、風早か」
かまいたちが、片目をつぶりながら、私を見る。・・・え?もしかしなくてもサキナミ様とかまいたちって知り合い?
『お主の巫女には世話になった。気に入ったから、葵と一緒にそっちに行こうと思う』
「そうか、来てくれるなら、ありがたい。私も力が衰えて、色々難儀しているのでね」
『・・・若木を見つけたのではないのか』
「それは・・・」
話が見えない。
「あのう、かまいたち、サキナミ様?」
遠慮がちに割って入ると、サキナミ様たちは電話を挟んで、若干慌ててくれた。
「すまない、すまない。こちらのことだ。風早がいるなら、心配ない。大事がなくてよかった」
『俺とサキナミは昔からの友垣だ。よく旅の途中に寄らせてもらっていたんだ』
「そうなんだ。風早ってかまいたちの名前?」
私がかまいたちに尋ねると、かまいたちは頷いた。
『随分昔の名前だよ。最近はかまいたちって呼ばれてる方が慣れてるけれど。』
へえ、なんかカッコいい名前だな。かまいたち、で慣れちゃったけど、サキナミ様が風早って呼ぶなら、それで呼んでもいいのかな。
「・・・葵、しばらくそっちに泊まりなのか?」
あ、これ、桐原さん自身だな。なんか同じ声なのに気配でわかるって面白いな。
「え?今日帰るつもりですが」
「え!?姉ちゃん、日帰りなの!?」
仁が私の言葉に驚いた声をあげる。
「今の男、誰?」
うん?桐原さんの声が少し低くなった。どうしたんだろう。
「あ、弟の仁です。日帰りって言ってなかったから驚いたみたいで」
「・・・弟くんか。で、こっちに何時くらいに帰ってくる?」
「え?う~ん幸波町には18時くらいに着けるように帰りたいんですけどね。」
なんだかなあ。幸波町に「帰る」ってことが、すごく自然な事に少し驚く。
実家はこっちなんだけど。
「18時か。じゃあ、駅に迎えに行くよ」
一言、思いがけない声をかけられて、私は一瞬、何のことかと自分の中で考えてしまった。
「え?」
「駅で待ってるから」
「・・・一人で帰れますけど」
思わず、そう答えてしまうと、かまいたちが電話を奪った。
『色々大変そうだな、迎えにきてくれ。』
「え?かまいたち、いいよ。神社だってそのまま行けばいいんだから。サキナミ様にもすぐ会えるよ?」
勝手に返答されて、戸惑う私にかまいたちは盛大にため息をついた。
『・・・こういう時は好意にあまえとけ。俺もサキナミと一緒にいるこの男に会ってみたいしな。よいかな、桐原、とやら』
「ああ、ありがとう、かまいたち?風早?どっちで呼んだ方がいいんだ?」
『どちらでも』
「では、私も待っている。気をつけてな」
あ、声の気配がサキナミ様になった。忙しいな、桐原さんの体も。
電話を切ると、仁が興味深々にこちらを伺う。
「神社の人?」
「うん、まあそうだね」
言ってから、なんだ、その微妙に不完全な肯定、と思ったけれど、嘘はついてない。
神社の人、だ。だけど、仁の興味は少し違うところにあったようだ。
「・・・姉ちゃんの、彼氏?」
「違うっ!」
いや待て待て。どうしたらそうなる?サキナミ様はお仕えしてる神様だし、桐原さんは先輩で友達だよ?桐原さんの好意は聞いてるけど、私はそもそも、そういう事考えたことないし。
「ふ~ん、そうなの?それにしちゃ、随分リラックスして会話してたみたいだったから」
「そういうものじゃない?だって、信用してる仲だし」
「・・・信用、ねえ」
なんかあるでしょ、と言わんばかりの仁の視線が容赦なかったけど、だからといって、納得いく可能性を求めて、前世の話をする気もない。余計に混乱するだろうから。
私は一旦、家に帰るよ、と仁を促し、実家に戻った。
ほんとに日帰りなの?と再確認もされたけど、転校手続きに必要な書類を両親に見せ、書いてもらうと、私はさっさと帰ることにした。
仁が部屋から出てきて、理由も知らずに、父も母もほっとしたような顔をしている。
正直、私だけここを出て行くのは、なんとなく仁に悪い気もした。
仁はそれを察してか、私の肩をたたいて、にこやかに見送ってくれた。
「姉ちゃんのお陰で、カスミンとレンカちゃんもそばにいてくれることになったし、こっちは心配しないで。俺もため込まないで、姉ちゃんに連絡してもいいかな?」
「もちろんだよ」
私は仁の肩を叩き返した。
そして郷里を離れて、3時間後。
幸波町の最寄り駅についた私が、改札口に着くと、肩周りにふわふわしていた、かまいたちが、頭上にふわっと移ってきた。
「かまいたち?」
何事か、と思わず歩みをとめた途端、目の前が塞がれた。
私は驚きで、もっていた手持ちの鞄を落としてしまう。
「お帰り!」
身動き、できない。私は桐原さんに抱きしめられていた。
「きり、はらさん」
「・・・電話の時もそうだった、名前!」
少し体を離して、睨むような顔で、桐原さんが私の顔を覗き込む。
「実家に帰って、忘れたの?俺の名前は!?」
ああ~うん、そうだ、そうだったね。
「由岐人、さん」
今はサキナミ様は神社なのだろう。さっきのように同化した感じがない。
私がそう、感じているのを察したのか、由岐人さんは片目をつぶって、笑った。
「サキナミ様、心配してたぞ。神社、寄ってくだろう?」
「はい」
「それから、そこにいるのが、かまいたちさん、だね」
由岐人さんの目線の先にかまいたちがふわふわしてる。かまいたちはそのままクルリ、と体を回して、頷いた。由岐人さんはサキナミ様の力を体に入れるようになってから、こういう不思議な体験はとても自然に起きていると、前に聞いていた。もともと、サキナミ様にも遠慮のない人だけど、すごく自然にかまいたちに接してる。
『初めまして、だな。よろしく頼む』
「よろしく」
サキナミ様の力を感じてるのだろうか、かまいたちは、不思議そうに、由岐人さんの体の周りをくるくると、飛び回っていた。




