34 立てこもり
いつもお寄りいただくかた、ありがとうございます。
どうぞよろしくお願いします。
ちょっと書きなぐりぎみですが、またおちついたら少しずつ改稿します。
レンカちゃん達が戻ってくると、私はとりあえず、音楽室のある東棟の一階に向かった。この学校は表の玄関のある南棟に職員室と各学年教室があり、東棟は体育館を主とする特別室の建物となっている。特別室というのは、音楽室や理科室、調理室などの教科部屋だ。
東棟の玄関口にはすでに警官と先生方が右往左往しているのが見えた。
私は、南棟と東棟の渡り廊下に入れる、焼却炉近くの裏口から東棟にうまく入ることができた。
「姉ちゃん、まずいっって。警察に任せようよ」
仁がそわそわしながら、でも私を心配してついてきてくれていた。
「うん、ただ暴れるだけの犯人ならいいけど。これは明らかに気持ちを病んでるから、手がかかると思うよ」
先ほどの黒い気配をますます近くに感じて、私がつぶやくように言うと、かまいたちがウンウン、ととなりで頷く。
レンカちゃん達が言うには、音楽室には5人の子供たちが動けずにいること、その前に刃物を持った男がウロウロしている、という事だった。
ここでカスミンのすごい技術というか力が発覚した。
カスミンはやはり水の精霊なんだよね。水の膜を張ったスクリーンのような物を出現させて、そこに自分の見た物や、把握した場所の様子を映し出すことができるみたい。
カスミンは境界人の中でも特に水の力の影響を持つ水界の入り口の精霊で、水の世界との出入りに関わる力を持つ精霊さんだった。水の扉、という役目をもっているんだって。水の力を使って別の場所を映し出す、なんてことは、基本的な簡単な力で、実際は水を入口、扉に見立てて、違う場所に移動したりすることが出来たりもするんだそうだ。
カスミンは得意そうに、水のスクリーンに今の音楽室の様子を見せてくれた。
音楽室は入口が2か所ある。
1か所は通常の出入り口で、東棟の玄関側にある。その出入口近くに犯人はいた。
なんかキャンプとかに持ってきそうな大きな鉈?みたいなのを持ってるなあ。
もう1か所は教員や吹奏学部部員が出入りする入口。通常の出入り口の反対側、そして、体育館の舞台裏につながる裏階段から入れる出口だ。その扉を開けてすぐに、楽器の棚が連なっているから、一見、楽器置き場の扉にも見える。
その近くに私の後輩たちは固まるようにして、いた。ちらちらと、一人がその扉を気にしながら、犯人の様子を伺っている。
逃げよう、としてるんだ。でも、難しいんだろうな。そんなに離れている訳ではない。
それに、五人まとめて逃げるとなって、うまく逃げ切れる保証もない。
何より怖いだろうし、動けないのもあるんだろう。
でも。
なんとかスキをついて、あの子たちが無事に逃げたら。
そして、あの黒いモヤを消せれば、落着するはず。
「姉ちゃん。カスミンとかレンカちゃんとか、あと、風の精霊さんだっけ?」
「かまいたちね」
「・・・かまいたち・・・か。うん、その子たちは目くらましみたいなのはできないの?」
「目くらまし?」
「この部屋に飛び込んで助けにはいけないけどさ、なんか犯人の目をごまかせるようなことができれば、そのすきに逃げてもらえるじゃない?」
仁の言葉に私は3人の境界人の事を順にみる。
『私できるよ~お花の力で、周りを霞にしちゃう』
霞にしちゃうと、言ったものの、そう名乗り出たのはレンカちゃんだ。
う~ん、あなたは見たまんま花だもんね?でもそういうことができるんだなあ。
「と、なると、合図で、犯人の目をくぐって、逃げて、と吹奏楽部に言う人も必要だね」
「う~ん、犯人に分からずに、逃げる合図ができればなあ」
私たちは今、東棟の1階から、2階の体育館の裏階段下に移動して、様子を探っていた。体育館には先生たちと、多分刑事さんたちなんだろうな、そういう人たちがいる。
う~ん・・・と、目の前に体育館の舞台袖に置かれたままのアルトリコーダーがあるのが目に入った。
・・・あれだ!
そっと音を立てずにそれを取り寄せ、私は自身を奮い立たせようと、うん、と力強くうなずいた。
「・・・ねえ、ちゃん?」
嫌な予感がする、と言わんばかりの顔で、仁が私の顔を覗き込む。
「レンカちゃん、あそこの体育館の人たちから私たちが見えなくなるようにすることはできる?」
『うん!できるよ』
「ちなみにこれからこれで、曲を吹くけど、かまいたち、曲をここから吹いているように、わからなくするのってできる?」
私がそう言ってアルトリコーダーを掲げると、かまいたちがニヤリ、と笑った。
『風で音の源をわからなくするのだな、たやすいことだ』
「ついでに、その曲を音楽室に届けることは?」
『問題ない』
「レンカちゃん、こちらを見えなくしてから、私の笛の音が始まったら、音楽室の犯人の周りに目くらましを張って欲しい」
『何するの、何するの?なんだかワクワクするね』
「私の後輩たちなら、多分分かる。逃げてくれるはず」
仁がごくり、と喉を鳴らして、私の顔を見つめ続ける。
「姉ちゃん・・・」
「大丈夫、うまくいくよ。かまいたち、お願い、なんかあったら、私と一緒に、あの黒いモヤをはらってくれる?」
『いいだろう、やってみろ』
みなが無事に逃げられれば、もしかしたら、祓う出番はないかもしれないけど。もしも、もあるかもしれないし。
そこまで話をして、私はレンカちゃんに我々、というより私と仁の姿が見えなくなるように目くらましをかけてもらった。
う~ん、予想はついたけど、ピンクの煙幕みたい。
これ、皆に見えたら厄介だな。犯人が動揺したら困るし。
「レンカちゃん、このピンク色、みんなには見えてるのかな?」
『残念だけど、見えないかも、見せたいけど、私の姿も見えちゃうとやだから』
「じゃあさ、じゃあさ、音楽室に閉じ込められてる子供たちには見えるようにしてくれない?」
それを合図に、あの子たちが逃げるタイミングを察してくれれば一番いい。
『注文多いなあ』
レンカちゃんがぶつぶつ、と服の花ビラ状の裾をひっぱりながら応える。
「レンカちゃん、お願いできる?こんなにできるんだもん、できるよね、すごいよね、れんかちゃんって」
思わぬところで、仁が口を挟んできた。完全によいしょモードだ。ああ、そういえば、この子、近所の小さい子なだめたりしてよく遊んであげてたっけな。なんかそれに近い。
けれど、途端に、ぱあっとレンカちゃんの顔が明るくなる。
『いいよ~』
「ありがとう、レンカちゃん、じゃあお願い」
私からももう一度お願いすると、レンカちゃんは快く応じてくれた。
よし、ではやろう。
私はアルトリコーダーで、ある曲を演奏し始めた。
『ひと足お先に』、だ。
映画「アラジン」、に出てくる曲の一つで、最初の方に主人公のアラジンが町中を逃げ回る痛快な曲だ。
これは私たちが在学中にメドレーで演奏した一節。後輩たちも大好きだった。
多分、分かるはずだ。
逃げて、という意味だと。きっとわかるはずだ。
笛の曲が響き渡り、それに動揺する先生たちや警察の人たちの声がどやどやする。
と、同時に上の音楽室から
「うるせえぞ!なんだ、この笛の音は!」
犯人らしき声が響く。
気づいてくれたかな、後輩たち。
ひと足お先に、さあ逃げてきて!私は必死に曲をつないだ。
私は階段を見た。
そっと、そっと音を立てないように。犯人の気がそれた、と逃げてきた後輩たちの姿がある。目くらましと笛の音で察してくれたんだ!よかった!
「早く、体育館へ!先生たちがいるから、行って!」
思わずさけぶと、五人が私の姿を探すようにきょろきょろとあちこち見渡すのがわかった。
残念ながら、今の私はあの子たちからは見えないんだよね。
「早く!行きなさい!」
もう一度声をかけると、五人は体育館へと走っていった。ほっとして、その背を見送る、とその一人がこちらの方向に頭を下げる。あ、クラリネットの直の後輩だ。
「逃げのタイミング、教えてくださって、ありがとうございました!」
「わかってくれると思ったわ、早く行きなさい」
体育館で、五人の無事を喜ぶ先生と、慌てて状況を把握しようと、動き出す警察の姿が見える。・・・よし、じゃあ潮時かな。
『葵!』
かまいたちが叫び、私の前にたちはだかった。強烈な風が巻き起こる。
ガチン、と鈍い音がして、今、まさにこちらに投げられたような、あの犯人の鉈が、床に刺さっていった。
「・・・か、かまいたち、ありがとう」
風で守ってくれたんだ。う、足がすくんだ。
でも、そこに犯人が仁王立ちで立っている。
目くらましは解けている。
凄い形相でこちらをにらんでる。人質を逃がしたんだと思われてる?
黒い霧が大きく広がって、背中がぞわぞわする。
どうしよう。
う、動けない。私、すごく今怖いみたい。足の先が震えてる。
「仁!警察の人をこっちに呼んで!」
って私も足がすくんでるのに。仁は腰抜かしてるよ。ああ。
どうしよう。
・・・サキナミ様・・・!
『葵、あの扇を出せ!守りの力を感じる!』
かまいたちの声に、はっと我に返ると、私は鞄の中の扇を震える手で出した。
握りしめ、その扇の端を犯人に向ける。
心の中でサキナミ様の名前を呼ぶ。
「・・・かけまくも・・・」
何故か自然と祓詞の枕をいいかけていた。
そうだ、祈りの力だ。あの神社のおみくじさんの黒いモヤを祓った時のように、祓詞に祈りを載せるようにして、神様にお願いするんだ。
神様、どうか・・・この人の心を救ってください・・・。
黒いモヤを祓ってください。神様・・・。
「かけまくも かしこき はらへどのおおかみ つくしのひむかのたちばなのおどの・・・・」
扇がぶるぶると震えた。サキナミ様の力を感じた。そして、それ以上の大きな力も。
これが神様の力なんだろうか。
背中が熱い。何かが、扇を通して、犯人の元に届いてる感じがする。
・・・ていうか、祓詞、もうすっかり覚えてたんだなあ、私。
朝夕のお参りでも聞いてたし、祈祷の時も必ず聞いてたからかな。
お陰で、気持ちが、祈りの心が、うまく言葉にのって、伝わった、と思う。
犯人の身にまとわりついていた大きな黒い霧のようなモヤが、さああっと消えていく。
後始末をするように、かまいたちが残った黒いモヤを埃のようにして、しっぽで祓ってくれた。
と、同時に、ガクリ、と犯人の体は崩れおちた。
やった、と思うと、間もなく、どかどか、と人がこちらに向かってくる気配がした。
やばい、警察だ。わあ、こんなとこ見つかったら、色々聞かれて面倒だよう。
弱った、と私がなんとか仁を立たせて隠れる場所を、と考えていると、かまいたちが、私の袖を引っ張って、意味ありげな表情をする。
『ここにはいられまい、カスミン!』
かまいたちがそう言うと、カスミンがくるり、と回って大きな水の流れで出来た輪を宙に描いた。
「・・・?これ、何?」
『水の輪。違うところにいける。近いとこしかいけないけど。入って』
カスミンに促されて、かまいたち、レンカちゃんがするするっとその輪の中へ入っていく。
私は腰の抜けた仁を何とか立たせると、連れ立って、その水の輪をくぐった。
・・・と、あの城址公園の中に私たちは立っていた。
「すごい!瞬間移動みたい!」
『水の扉のお役目の一つ。違う場所への行き来も僕できる。知ってて近い場所だけね』
カスミンがえへん、と水色の体を反らして語る。
「・・・得難い、体験だね」
げっそりとした表情で仁がつぶやく。レンカちゃんがその頭の上にのって、よしよし、となでていた。レンカちゃんは癒しの力ももっているそうだ。
思いがけない事件に遭遇してしまったけれど、仁についてくれる境界人の役目や力が知れてよかったような気もする。
あの犯人の黒いモヤの心の理由はわからないけれど。
でも、なにはともあれ、みな、無事でよかった。




