33 恩師
いつもお寄りいただくかた、ありがとうございます。
最近やっつけで書いてる感じがするので、また後から改稿するでしょうが。ひとまず。
今回もよろしくお願いします。
「え?これ、国語の課題なの?」
片岡先生が苦笑いをしながら、原稿用紙数枚を私に向ける。
「・・・ええ、まあ」
「へえ」
国語、現代文の課題は読書感想文とかかな、と思ったら詩の提出だった。私が退学、というか欠席扱いになってた間は、詩をやってたみたいで。
じゃあその詩の感想とか?と思ったんだけど、それはなし。自作の詩の提出だった。
正直一番難産だった。
「散文詩、ってことですかね?国語の担当に渡しておきましょう。問題があるようなら、連絡があるでしょう」
いや、問題があっても、もう書き直したくないんだけど。
現代文に引き換え、古典はお気楽なものだった。好きな漢詩を書き写して、訳して、その作者をについて調べる事と平家物語を元に作った問題を数枚。
ちなみに、英語と数学はワークを片付ける課題、他は環境問題についてのレポートを書いたり、江戸時代の文化史についてのレポート、そんな感じだった。
「うん、まあやりきれてるみたいですね。・・・文化史のレポートもちょっと偏った感がありますが、いいんじゃないですか?」
しまった、牢獄につながれた文化人って最後の方ちょっと熱くなって書いたのがばれたかな。
「大丈夫、そうですか?」
「大丈夫ですよ。だいたい、できない課題は出さないですよ。ちゃんと転校させるんだから」
ニヤっと笑って、片岡先生は課題の山をパンパン、と叩く。
「で、両親との話はつきましたか?」
課題よりもこちらを心配してくれたことに、改めて感謝しつつ、私は頷く。
「私も今までがあるから、構えちゃったんですけど、結構あっさりしてて。具合よく、と言ったらなんですが、弟の方がごたついてせいで、あんまりこちらで揉めたくなかったみたいで。簡単に了承は得られました」
「弟さんの方は?大丈夫なの?」
「ええ、それも解決して。ありがとうございます」
今頃、仁は学校できちんと話ができてるだろうか。
「そう、それはよかった、では、このまま五教科の試験にうつりたいと思いますが、よろしいですか?」
「はい、お願いします」
試験用に使わせてもらうことになっている教室に案内してもらい、そこから、5教科の試験が始まった。1教科40分程度の試験で、ご丁寧に、各担当教科の先生が試験監督としてついてくれた。途中休憩も挟んで約3時間半。かまいたちには悪いから、ちょっと外にでてきてごらん、と言うと、あっさり、窓から出て行った。
とりわけ問題はなかったけれど、やっぱり少し緊張した。
終了後、採点の済んだ答案用紙を返された時、国語の先生が「詩はちょっと評価しがたいものでしたが、テストは優秀でしたよ」と余計な評価をしてくれ、困惑した。
英語の先生は少し顔をキラキラさせて、喜んでいた。
私、在学中は英語の試験は苦手で、後ろから数えた方が早い順位だったから。急激に伸びた、と感じたんだろう。私も手ごたえを感じていた。
勉強ができるようになった、というわけじゃないのだけど、住む場所が変わり、仕事もするようになって、公私のメリハリがついたせいかな、集中力はついたんだ。
理解力がついた面ももちろんあったけど、集中力で暗記力は格段に上がった、と思う。
「無事、合格だね。この分なら、編入試験も大丈夫かな。太鼓判押しますよ。推薦状もつけておきますからね。あとは、こちらからの転校手続きをしてしまわないといけないですね」
一通り、答案用紙を返してもらい、各教科の先生から合格をいただくと、片岡先生が、必要書類をもってきてくれた。
これで、あとは編入試験に臨むだけだ。先生は太鼓判だというけど、推薦状までつけてくれるなんて、いたれりつくせりだなあ。ちゃんと頑張らないと。落ちたら洒落にならない。
「山内宮司は元気にしてますか?」
片岡先生が、私が書類を書いてる中で、話しかけてくる。
そうそう、片岡先生、山内宮司の先輩なんだよね。杜之学院の。
「ええ。元気ですよ。」
そうだ、と思い出して、ペンを止め、私は鞄の中から、厄除けの鈴守りを出す。
「先生、これ、よかったら、持っててください。お礼、というわけでもないんですけど。おみやげ渡すのも学校だとアレかな、と思って」
「ああ、お守りですか。ありがとう。使わせてもらうよ」
「・・・あ、でも先生、ご実家神社でしたよね?」
「うん」
うっかりしてた。今頃思い出したけど、先生、実家が神社なんだよなあ。まずかったかも。
「ああ、気にしないで。だって、これは君が願いをかけて、私の為に求めてきたものだろう?
こういうのは、うれしいよ。」
「そうですか?」
ニコニコと、片岡先生は袂のポケットから根付のついた鍵を出して、早速それにつけ始めた。
「ちょうどいいよ、お守りで、鈴つきで。音がなると無くしても分かりやすいから。ありがとう」
「使ってもらってうれしいです」
「こうして神社のお守りを人に渡すってことは、神社でもいい経験させてもらってるんですね」
片岡先生が柔らかい視線で私を見つめてきた。
ほんとに、そうです。
私は、黙って頷いて、笑顔になっていたと思う。
「山内宮司夫妻は頼りになりますよ。何かあったら、すぐに相談しなさい。私ももし、君が杜之に受かったら、先輩になりますからね。元担任としてでも、先輩としても力になるから、頭の隅に入れといてくださいね」
ああ、ありがたい。私は書き終わった書類を出しながら、先生に頭を下げた。
「何から何までありがとうございます。先生のご恩、忘れません」
「・・・重いですねえ、当たり前の事しただけですよ」
なんて先生だ。当たり前なんだ。
片岡先生は短い間の担任だったけど、確実に私の恩師だ。
この出会いに感謝したい。
この学校に来て、よかった。
先生と別れて、校門をくぐる時、そう素直に思えて、自然と涙ぐんだ。
桜の精がふわりと、私の背中にまわり、優しく肩を押してくれた。
一歩。
力強く足が前に出る。
(またおいで)というように、桜の精がそのまま肩をトントン、と軽くたたく。
私は振り返ると、黙って母校に頭を下げた。
ありがとう。
では、行ってきます。
私は、気持ちもあらたに、母校を去った。
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学校を出て、しばらく。
あれ?と思う。
かまいたち、どうしたんだろう。
いない。
川崎までついていく、と言ってたのだから、黙っていなくなるわけはないんだろうけど。
そう思いながら、ぶらぶら歩いていくと、城址公園のあたりまで来てしまった。
う~ん・・・どこだ?
と思ったとたん、キリリ、と頭痛を感じて頭を押さえる。
・・・・嫌な感じがする。こっちの方から。
仁が向かった中学校の方からだ。なんだろう。
『葵!』
かまいたちが慌てた様子で飛んできた。
「どうしたの?迷子になってた?」
『違う!弟御のいる場所に行ってくれ!』
「?何かあったの!?」
かまいたちがとにかく、中学に行けというので、私は小走りで、中学校に向かう。
うわ、嫌な感じが強くなってきた。・・・これ、知ってる。そう、あの黒い気配だ。
前にサキナミ様とも祓い、さっきは仁の足元にいたやつだ。
それよりも、ずっとずっと強い感じがする。
「姉ちゃん!」
「仁!」
仁が、私を見つけて、走り寄ってきた。
「何か、あったの?」
学校の周りは人だかりができている。パトカー、消防車、救急車が並び、騒然としている。
「よく、わからない。凶器持った立てこもりだっていうんだけど。俺も避難するように言われて、訳も分からず出てきたんだ」
「立てこもり!?学校で!?・・・まさか生徒?」
「わかんない。音楽室で、吹奏楽部の子たちが閉じ込められてるみたい」
「え!?」
ちょっと、吹奏楽部って・・・それって私の後輩たちじゃない。
一応ここで、吹奏楽部してたんだから。今、三年生の子たちは私がいた時の1年生だ。
「先生は?」
「わからない」
「・・・そういえばレンカちゃんとカスミンは?」
『俺が様子を見に行くように言った、もうすぐ帰ってくる』
かまいたちが深い息を吐きだした。
『どうする?葵、この気配はなかなか大きな穢れのようだ。誰がどういう風に持っているもんだかわからないが、少し危険すぎる。』
「・・・かまいたち、力を貸してくれる?なんとかできるかな」
『様子がわかればな。なんとかできるかどうかは、・・・わからん』
私たちは、レンカちゃん達がこちらに戻ってくるのを待った。




