表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/113

32 課題提出

こちらに来ていただき、ありがとうございます。


仁は賢い。偏差値ももちろんだけど、察する事と観察力がすごいんだと思う。

だから今回、親にあんな態度とられて、逆にしんどくなってしまったのかもしれない。

だからだろうけど。

気づかれてしまった。境界人の存在に。


かいつまんで、今は神社の手伝いをしてることや、そこで祭神であるサキナミ様の巫女となったりした話を経て、それによって、見えないものが見えてるんだという話もした。

前世の話はちょっと込み入るし、もっと信じがたいことだから、除いたけど。


「興味深いなあ・・・」


そう言って、仁は目を凝らすようにして、私の周りを注視した。


「あ!」

「何!?」

「うん、見えた!ぽわぽわしたのが三つ浮いてるね!」


はっきりした形は見えてないみたいだ。


「う~ん、でも集中しないと見えないな。でもすごいね、その力を姉ちゃん使えるの?」

「まさか。この子たちはついてきてくれてるだけ、のはずだけど。まあ役には立ってくれたね」


私がそう言って3人を見ると、嬉しそうにニコニコしてくれる。


「で、どうするの?川崎に連れて帰るの?」

「・・・好きにさせろって、こういうのよく知ってる神主さんがそう言うんだよ。だから様子見かな」


祢宜さんの言葉を思い返しながら、私は答えた。なんというか、今はなりゆきで連れ歩いてるけど、ちゃんと離れたりするんだろうか。


『俺はついていくぞ。その、サキナミ様、とやらにお会いしたい』


かまいたちが言う。

え?・・・そうなの?


『もともと、俺は流れ着いてここに来た身。どこにいくのも勝手なのさ』

「カスミンとレンカちゃんはどうする?」


かまいたちの言葉を聞いて、思わず他の二人に尋ねた。

一応心構えしとかないと、まずいかも、と思ったのだ。

しかし、答えは意外な物だった。


『ここにいる』

『この子のとこにいる』


ええ?・・・この子って、・・・仁のところに居たいってこと?

え?なぜに??

・・・どうしよう。私が連れ込んじゃったみたいじゃない。

思わず頭を抱えると、仁が怪訝そうに尋ねてきた。


「姉ちゃん、なんか言われたの?」

「・・・うん、風の精霊みたいな子は私についてくって言うんだけど。他の二人が・・・お花の子と、水の力の子、レンカとカスミンって名前なんだけど、その二人があんたのとこに居たいって言うんだよ」


受験生の邪魔になっちゃ悪いし、大体、ここ、二人には向いてないんじゃないかな。気分悪くなったりしないだろうか。ちらりと、父親の顔が浮かぶ。


『あの二人はここの土地神の所縁の者たちだ。この土地を離れることはない。そして、弟御の優しい心にに寄り添いたいと思うんだろう』


かまいたちが頷きながら説明してくれるけど、いや、でもさあ。

仁は文字通り優しいよ?でもだからってそれだけで。


「俺、構わないけど?」

「仁!?」


何を言うんだ、わが弟。あんた受験生でしょ、面倒な時に口挟む親もいるでしょ。どうすんの!?


「姉ちゃんの言いたいことは分かってるよ。だからこそだよ。この子たちの気配はすごく温かい。きっと俺にとって悪いようにはならないよ。どうせ人に見えないんだから、大丈夫だよ。」

「ええ・・・」

『いていいの!?』

『やったー』


私たちのやり取りを見守っていたカスミンとレンカちゃんが嬉しそうにくるくる回る。


「よろしくね、えっと・・・カスミン?レンカ?かな」


仁がそう言って手を差し出すと、二人はそこに飛び乗るように移動した。


「え?」


仁が驚いたように差し出した手の上を見る。


「俺にも・・・見えてる」

「え!?」

『二人の事を認識して、名を呼んだからだ。多分慣れれば、会話もできる』


かまいたちの言う事を仁に伝えると、嬉しそうに目じりを下げて仁は二人を撫でまわした。


「うっわ~嬉しいなあ。そうかあ。話せるようになったら楽しいね!」


こうして、駅前で出会った境界人たちの行き先は決まった。

かまいたちは、私と川崎まで同行。

カスミンとレンカちゃんはまさかの実家待機で仁の預かり。

まさかこういうやりとりを弟とすることになるとは、全く思わなかった。

私が、これから課題を提出に入っていた高校に向かうと告げると、仁もまた思い立ったように中学に行くと言う。

引きこもってしまった分を取り返しに、先生のところにいって、宿題を出してもらうんだそうだ。

・・・真面目だなあ。この子。

でも、もう心配ないかな。

籠ってた理由も自分でわかってたんだし、前に進む気になったみたいだし。

不思議な境界人も見守ってくれてるし。


私は驚く母親を尻目に、仁と共に玄関を出て行った。



高校までは歩いていけない距離ではない。ただ、少し離れているから、在校中は自転車で通っていた。仁の中学、つまりは私の母校でもあるのだけど、そこは高校に向かう途中にある。

私たちは仲良く二人そろって、馴染みの登下校の道を歩いて行った。

今日は土曜日だ。

片岡先生には話してあるから、今日はいるはずだ。中学の方は大丈夫かな、と思ったけれど、今日は運よく土曜授業の日で、先生方も15時ぐらいまではいるんじゃないか、と仁は話していた。

住宅街を抜け、駅前から伸びるまっすぐな商店街に沿って歩くと、古い太鼓櫓が残る城跡後の公園にたどり着く。この公園の裏手が中学だ。

私と仁はそこで別れた。

背中を見送ると、仁の肩にふわふわとカスミンとレンカちゃんが付いて回っているのがなんだか可笑しくて、私は思わずふふっと笑ってしまった。


『弟御、良かったな、悪い穢れから離されたようで』

「あなたが祓ってくれたからでしょう?ありがとう。」

『え?まさか・・・お前、自覚がないのか?』

「え?」

『確かに俺は最後の小さくなったのを消してやったが、あの時の黒いモヤを小さくしていったのはお前だよ』


どういうこと?私何もしてないし、ただ仁と話してただけなのに。扇が働いてくれたのかな。


「私、なにもしてないよ?」

『言葉だよ。弟御と話し、説きほぐしていっただろう?声のかけ方がよかった。言葉の力と、お前さんの弟御を想う力が黒い力を小さくした』

「そういうものなの?」

『そういうものかな』


いまいち、自分の中でどう対処したのかはっきり分かってないけれど、良かったことはできたみたい。私は首をかしげながらも、かまいたちに笑いかけ、よしよし、と高校の方に向かうことにした。



濃い緑の枝葉が来るものを大きく迎えるようにそこに伸びていた。

桜の木だ。

私が1年半過ごした高校の校門にするりと伸びた木を見上げ、私は、思わず、あ、と口にだした。

その桜の木にも何かがいるのが分かった。かまいたちが面白そうに隣で笑う。

桜の精だ。

ふわっと、まるで私にあいさつするように、まとわりつき、そのまま、また木の方に戻っていった。


『あれはこの建物の門番殿だな。』


かまいたちの話だと、この建物の人たちにとても大切にされてきているのがわかる、と。それゆえに人間をすごく好いている桜の木の精霊らしい。

こういう事が私の身近にあったなんて、驚きだ。

気づこうとしなかっただけなんだろうな。そう、私は考えていた。

祢宜さんは私が前世の記憶と共に覚醒した、ような事を話してくれたけど。

それだけのことでもない気がする。


前世のあさ、の時は、境界人の存在は、結構身近に感じられる事だった。

自分が特別だったからじゃない。

周りもごく普通にそれを当たり前に感じたりしていたものだった。

時折、力の特出した人間が、境界人のような存在と会話をしたり、やりとりをして、天気や台地、水や風と共に生きられるよう、指針を示してくれたのだ。


人々の祈りの力がなくなったから、力が衰えた、とサキナミ様は言っていた。

でもそれ以前に人々は、存在を知ろうとしない、感じようとしていないんだ。

人間と共に生きてきた存在なのに。

知らなかった仁が意識したら、見えるようになったように。

本当は薄皮一枚で、見たり見えなかったりできるもののはずなのに。


「私、ここに通ってたのに、全然知らなかったなあ」


桜の木を振り返り、桜の精に敬意をこめて会釈をすると、季節でもないのに桜の香りがふわっと流れてきた。


門をくぐり、まっすぐ事務所へと向かう。今日は土曜日で授業はない。

部活をしている子たちがジャージ姿で走り抜けたり、文化部の子たちが移動している様子が見えた。

中には知ってる顔もあり、指を指されたり、互いに笑みを浮かべて、手を振りあったりした。

・・・今更だけど、ここの学校も悪くはなかったんだよなあ。

私が勝手に頑なになってただけで。

自分の勝手さに自嘲気味になりながら、よく挨拶をしていた事務員さんに声をかけると、「あら?」という感じでニコニコと対応してくれた。


「一色さんね。久しぶり。片岡先生から伺ってます。そのまま社会科資料室に行ってください」

「ありがとうございます」


社会科資料室は、いわば、社会科教員の部屋だ。職員室とは別に各教科の資料室と言う名の教員部屋がある。もちろん資料も置いてはあるが、教科ごとの質問や、プリント等の管理はすべて資料室で行う。教員分の机といす、が置いてあり、職員室より、若干個性的な空間になっている。例えば、片岡先生だと、江戸の古地図が机の台のカバーになっているし、隣の世界史の先生の卓上にはハプスブルク家のエリザベートの肖像画のポスカが飾られてる。


「一色さん、いらっしゃい」


扉を開けると、待ち構えたように、片岡先生が出迎えてくれた。他の先生はいないようだ。


「こんにちわ。今日は課題の提出に来ました」

「うん、十分に間に合ったみたいだね。じゃあ、確認させてもらいましょう」


椅子をすすめられて、私は課題の入った大きな茶封筒を出す。


「ではよろしくお願いします」


私たちが会話を始める中、かまいたちは興味深げに、どこかの国の仮面をつついていた。

それ、地理の先生の趣味だ・・・。




今回も趣味の物書きにつきあっていただき、ありがとうございます。

お運びいただく方、数少ないブクマをしてくださってる希少な方に感謝申し上げます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ