社務日誌 7
ちょっと小休止。
神社の出勤・休日事情です。
できる巫女さん、家田さんの一日。
小休止なんで短いです。
「紘香ちゃん、ちょっと本殿にいるから、あと、お願いね」
「かしこまりました」
作業着姿で本殿の掃除にとりかかろうという、祢宜は、社務所番になる家田に一言、声をかけて出て行った。
昨日までの祭りの後。
しん、とした境内に、人は見当たらない
家田は、離れた所にある神楽殿を見て、ほうっと息をついた。
昨日の仮面の舞人と葵の二人舞。
社務所を離れるわけにいかなかった彼女は、見ることはかなわなかったが、あの東が興奮気味に話していたから、素晴らしいものに違いなかったのだろうと、想像する。
「扇の巫女、かあ」
葵は練習していたのだろうか、舞を。
勤務日はバイトだから、少なかったし、家で亜実に習っていたりしたのだろうか。
家田は葵に感心していた。
違う土地から来て、扇の巫女に選定されて。6年ぶりに来て、その事実を告げられて、それを素直に受けて。
しかもなかなか真面目にきちんと仕事をこなしている。
一度、倒れた時があって、東に止められたにも関わらず、社務所で作業をしたがっていた様子は記憶に新しいが、元々、勤勉な性質なのだろう。
(私も頑張らないと)
そう思うのは、家田が10月の秋の例大祭で、舞を舞うからだ。
巫女舞、と言われるものになる。
家田ができるのは、浦安の舞、と豊栄の舞。
例大祭ではその年に舞うのをどちらにするか、宮司か祢宜が選び、それを数週間前から練習することになっている。
場所によっては子供に教えて可愛らしく踊らせているところもあるが、型をきちんととれば、優美で可憐な舞となる。
祢宜に教えてもらい、バイト時代から、舞ってきた。秋の例大祭は毎年あるものだから、完全に忘れてはいないけれども、復習は必要だ。
いつもは9月位から舞の稽古を始めれば、問題なく当日を迎えれる計算だが。
今年は8月から始めないと、と家田は考えている。
そろそろ後継者を作りたいのだ。何人か登録している巫女を選んで、教えながら、自分も稽古しようと思っている。
贔屓にするわけではないけれど、葵に教えてもよいか、とも思う。
しかし、前から勤めてくれてるバイトから選ばないと、軋轢を生む可能性もある。
舞を覚える、というのは、巫女の間ではちょっとしたレベルアップのステータスだ。
舞を覚え、普段着ることのできない装束を身に着け、祭りに舞う。
仲の良い巫女同士の中でも、舞をする、しない、で、何かは出てくる、はず。
葵の人柄から、おそらくそういうことは起こらないとは思うが、巫女長として、筋道は立てないといけないと考えてはいるのだ。
(出勤表チェックしとこうか)
しばらく夏の大祭の予定に追われていて、自分たちや、助勤者、バイトの巫女たちの出勤予定を立てておくのを見合わせていたことを思い出す。
しばらくは大安以外はさほどいそがしくはないはずだ。
これから来る、8月。神社は閑散期だ。
この間に正職員には消化しきれていない公休や有休を交代で入れてもらうことになる。
神社に休日はない。職員は交代で月7~8日ほどの公休を取っている。
たとえ、大祭の翌日でも、全員で揃って休めるという事はない。
とはいえ、今回は、恵まれている方だ。大祭の翌日が、仏滅。
吉日でない日に、祈祷や外祭が入ることはほとんどない。
今日の出勤者は家田紘香、ただ一人。
それを祢宜がサポートするような形で、あとは軒並み休みの形を取っている。
そういう所で言い直すと、神社の宮司宅にきちんとした休みはない。
宮司家族は、休日のない神社と一心同体だ。
出勤者が退勤した後の電話対応も、時間を問わない突然の参拝者の相談や用件も宮司家族が全部請け負う。
宮司家族にとって、それは当たり前のことだ。
今日も一応は宮司夫妻は休日、となっている。
それでも、祢宜は一人出勤してきた家田に心を使い、声をかけてくれ、家の用事、自分の用事として、本殿の掃除に行っているのだ。
家田は尊敬する祢宜の為にも、一歩進んだ仕事を目指して、社務をこなすべく、心がけている。
明日は大安だから、外祭の準備も必要だ。
家田は明日も入れると9連勤になり、それを終えた後に、連休を2日分入れることにしている。
大きな行事や、正月などの時期には、1週間を超えてしまう連続勤務日が出るのは、ここではあたりまえの事。
でもその分、有休や連休は比較的自由に取らせてもらえるから、不足はない。
(バイトの巫女さんを夏休み中に呼んで、舞を稽古する時間が取れるか、祢宜さんと相談しよう)
ひととおり、出勤表をチェックすると、家田はそんな風に考えた。
マグカップに入れた緑茶を飲みながら、次にパソコンを立ち上げる。
家田は、今回の夏の大祭を終えての礼状を氏子総代達に送付する手配をしはじめた。
並行して、明日の地鎮祭の関係業者との確認の電話対応も。
大祭翌日の一人出勤の家田はこうして社務に明け暮れた。
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