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25 千早とかもじと

ううん、サブタイトル苦しいですね。このまま夜神楽いってくれたら題名もしっかりできたんですが。

力及ばず。

いつもお通りいただくかた、ありがとうございます。

今回もよろしくお願いします。

大きく足を広げて腰を落とす。

持っている榊を下方に振りかざし、桐原さんの視線が榊の葉を捉えている。

すうっと再び自分の目の前に捧げ持ち、ぴたり、と足の動きが決まっていく。


踊ると思ってもみなかった人が、こんなにも、はまるように舞う姿は目が離せない。

一瞬、その目が私と合ったような気がして、思わず、そらさなくてもよいその視線を外してしまう。

すると、宮司さんや住谷さん、嘉代さんが、それぞれの感慨を持ったような態で桐原さんを見守っているのに気付いた。

舞人役をするはずだった、正歩君が急に動けなくなったのだ。

困惑や不安もある中で、桐原さんがどういう経緯で踊ることになったのか、わからないけれど、

うまくつなげて良かった。

後ろを振り返ると、正歩君もほっとしたように頷いていた。


「葵さん、先に社務所に戻りましょう。父たちが退出するとき、我々がいても邪魔になりますから」

「そうだね」


ふと、参列者の席を見ると、サキナミ様が微動だにせずに前を向いているのが見えた。

あれ?

何か、変だ。

サキナミ様の体が薄く透き通ったように、感じる。

と、そこで雅楽の音が止まる。舞が終わったようだ。

(あ・・・)

音が止まったと同時位に、何かが目の前を通り過ぎたような気配を感じた。

(サキナミ様?)

そう、サキナミ様の気配だった。もう一度、サキナミ様の方を見ると、いつものように悠然とした姿でこちらの方をちらりと見てくる。

正歩君がそれに対して会釈をすると、サキナミ様はにこやかに微笑んでいた。


「桐原さん、踊らされてたんですね」


正歩君が申し訳なさそうにつぶやく。


「え?どういうこと?」

「サキナミ様ですよ。舞が終わったと同時に桐原さんの体から、サキナミ様の気配が飛び出してきましたから。多分、サキナミ様に呼び出されて、同化して、踊っていたんでしょう」

「え?」


同化って何?サキナミ様と桐原さんって何ができるの?


「桐原さん、昨日、サキナミ様の事思い出していたみたいですけど、あの人、サキナミ様に選ばれた人ですからね」

「それって扇の巫女みたいに?」

「う~ん、ちょっと違うかな。・・・ごめんなさい、私が教えられるのは多分、ここまでなんですよね。後はサキナミ様かうちの母に聞いてください」


ごめんなさい、と手を合わせて拝まれても、今、聞かされたことが謎すぎてどうにも応えようがない。社務所の前に着くと、祢宜さんが待ち構えていて、正歩君のけがの事を心配していた。


「大丈夫だったの?」

「母さん、ごめん、心配かけて。サキナミ様に直していただいたから、大丈夫」

「そう、舞の方は?桐原君が慌てて着替えて行ったけど」


聞けば、私が本殿に向かうと同時に、桐原さんが、朝日舞に使う装束に似た色合いの狩衣を羽織り、飛び出していったそうだ。


「それも、ばっちり。かっこよく踊ってたよ、桐原さん」

「あら、じゃあ正歩がいない祭りの時は今度お願いしようかしら」

「冗談じゃないですよ!」


嬉しそうに祢宜さんがはしゃいでいると、低い声が背後から響いた。

桐原さんだ。もう本殿を引き上げてきたようだ。見れば、宮司さん達も儀式殿の入り口から中に入ろうとしている。


「祢宜さん、今回は、臨時ですよ、臨時。御方様からの命がなければ、私はやりません。

やったこともないのに、どんだけ緊張したか」

「ふふ~ん、でも踊りは完ぺきだったんでしょ。サキナミ様のお陰で」


祢宜さんには、全部お見通しのようで、先ほど正歩君が言ってた事につながる言葉をかけていた。


「それとこれとは別です!まったくいらん汗かきましたよ。正歩、今度は草履で滑るような真似、するなよ。仮にも神職の息子がそれじゃ、残念すぎる」

「ごめんなさい。でも私もいいもの見せてもらって勉強になりましたよ」


桐原さんの愚痴に、きれいな微笑で正歩君は謝った。

ほほえましく二人を見守っていると、桐原さんの目と目が合う。


「葵ちゃん、どう、俺、かっこよかった?」


緊張したとか、臨時だとか言ってたくせに、いつもの桐原さんの口調が戻ってきて、私は思わず笑ってしまった。


「なんだよ、笑うなんて。」

「ごめんなさい、あんなに素敵に踊ってた方が、降りてきたら、やっぱり、いつもの桐原さんでほっとしました」

「・・・俺じゃないみたいだった?」


一瞬、真摯な瞳で桐原さんが私を見る。声も少し低くなる。

気にしてるのかな、サキナミ様と同化?してたこととか。


「いえ、桐原さんでしたよ、ただ舞が素敵だったので、びっくりしましたけど」


思ったまま告げると、そうか、と小さく答えて、桐原さんは着替えるからと、中に入っていった。正歩君も自分も着替えてくる、と、それに同行する。

それを見送って、社務所に戻ろうとすると、祢宜さんに呼び止められた。


「葵ちゃん、夜の神楽の方、聞いてると思うけど、巫女装束で御方様の随員をお願いね。

今の巫女装束の上に千早っていう服を重ねてもらうから、6時には参集殿の客間に来てね」

「は、はい」


あああ、忘れてた。それがあったんだ。

いや、忘れてないけど、無用にしたい緊張する予定は考えたくなかっただけで。


「あと、これから昼ごはんね。氏子会から、お弁当が出るから、それもらって食べてね。

午後は素人演芸会とか、神輿とかだから、直接あなたは関係ないけど、問い合わせや社務所の用事があったら、お願いしますね」

「わかりました」


そういえば、さっき、昨日最初に暴れだした太鼓連のおじさんが弁当を運んできてくれたっけ。神社の職員さんの分ですよって。怖そうな人だったけど、優しかったな。


「葵ちゃん」

「はい」


祢宜さんが再び私の名を呼ぶ。ゆっくりと、あの正歩君に似たきれいな笑みを浮かべて、私の手をとった。


「扇の巫女ってだけで、スカウトしちゃったけど。あなた、よく動いてくれるから、助かるわ。それだけじゃないけど、色々、ほんとにありがとう。」


わ・・・。何、それ。そんな風にお礼いってもらえるなんて。

なんか嬉しくて泣きそうなんですけど。

私は呆然と祢宜さんのきれいな指先を見ていた。


「引き続き、よろしくね。杜之学院に入っても、バイトは来てね」


いや、まだ編入手続きすらしてないんですけど、決定事項なの?

この人、しっかり、きっちりタイプなんだけど、自分のペースに巻き込むの、宮司さんと一緒だなあ。

うう、さっきの感動して流れそうだった涙を返して。


「はい、じゃとりあえず、ごはん食べてきて。午後からまたよろしく」


祢宜さんはニコニコしながら、その場から去っていった。多分、宮司さん達の着替えの手伝いをするのだろう。

あれらの衣装は、うっかりクリーニングには出せないから、数日皺が伸びるように陰干しして、それから当て布をしてアイロンがけをするんだそうだ。

もう今日から陰干しをすると聞いていたから、すぐに衣装を受け取りにいくに違いない。


昼食後は引き続き、社務所番だった。午後は比較的祈祷もなく、後藤さんや桐原さんは時折、境内の神輿の方に様子を見に行ったり、演芸会の連絡に走ったりしていた。

私は、というと、頒布台の前にいて、お守りの頒布。時折、勉さんが来て、よくわからないけど、色々かまわれた。

一番大変だったのは土屋さんかもしれない。大祭の日の参拝者用にたくさんの貼り付けタイプの御朱印を用意していたのに、きれいさっぱり無くなってしまった。

無くなってからは直に朱印状に書いたりして、一時期は並ぶようにもなってしまって、私も印を押すだけは手伝ったりした。


そして、夕刻。

私は千早をまとうために、参集殿へと向かった。

白衣に緋袴が、今の姿だ。これに、先日の衣装合わせで出した、千早を羽織る。

胸元から垂れている明るい朱色の紐で前面を結び、完成だ。

祢宜さんが丁寧に着つけてくれた。

着つけ終わると、私を上から下まで見つめて、顎に拳をあてて何やら考えている。


「う~ん・・・なんか物足りないわね。・・・そうだ、かもじ、つけちゃおうか」

「かもじ?」

「ちょっと待ってて。」


祢宜さんは衣装の入っていた、たとう紙の横にあった箱をごそごそ何か探している。


「あった!」


黒くて細長い布地だ。先っぽにヘアゴムがついている。


「これをね、髪に見立てて、結ぶのよ」


私の髪は肩に届くか届かないかぐらいの長さだ。それを簡単にしばり、その上から元の髪を隠すようにその黒の布地をあてて、しばる。

長髪の髪を細くまとめたように、一見して見える。

加えて、白の固い紙で作った熨斗のしについてるような飾りを髪飾りのようにつけていく。


「うんうん、いいとこの巫女さんって感じだわ。よいよい」


満足げにうなずいた祢宜さんは私を姿見の鏡の前まで連れて行った。


「どう、ね、なんかよいでしょう?」

「・・・は、はい」


なんか驚き。髪を後ろでしばって、イミテーションな布をつけただけなのに、すごく雰囲気が違う。羽織っている千早もそうさせているんだろうけれど、なんだか、大人っぽい自分がいる。自然と背筋が伸びる。この姿に恥じないように動きたい。


「じゃあ後はサキナミ様と客間で待っていて。時間になったら、一緒に神楽殿にいってもらうからね」

「わかりました」


客間に向かうと、サキナミ様、だけ、と思っていたのに、桐原さんもいた。


「お、葵も準備ができたか」


サキナミ様が私の姿を見てうなずく。桐原さんが口を開けたまま、呆然と私の方を見てる。

雰囲気が違いすぎますか?似合わないかな。


「葵ちゃん、きれいだ。すごく。それにその髪型をしていると、なんだか・・・・」


桐原さんがゆっくりと、まるで、私の存在を確認するように近づいて、かもじに触れる。


「かもじ、か、でも、いいね、すごくいいよ、似合ってる」


桐原さんが、何故か泣きそうな顔になっているようにも思えて、私は一瞬戸惑った。

なんだかよくわからない空気感をぬぐうように、私は、別方向の話を振る。


「ところで、桐原さんはなぜ、ここに?」

「・・・・うん?」


何故か、桐原さんの動きが固まった。

なんだ、なにかまずいことでもあるのかな?


「葵。急遽、だが、桐原に夜の神楽も舞ってもらう。私が憑依するから大丈夫だ」

「え?」


驚いて桐原さんを見ると手で顔を覆いながら、もだえていた。


「無理だよ、無理!サキナミ様。10分弱で終わる朝日舞と違うでしょ。いくら、あなたが俺と同化したって、俺の意識で動くんだもの。緊張で死ぬ!」

「お面はつけているのだし、問題ない。すでに決まったことだ。お前も了解したはずだったが」

「それしか選択肢がないんでしょう!?」


面白そうに桐原さんを見つめるサキナミ様を、恨めしそうに桐原さんが睨む。

なんだか私が知らないうちに色々決まったことがあったみたいだ。





巫女さんの髪型って前髪は後ろにすべてなでつけるか、前髪はおろすか、どちらかがありますよね。

後ろ髪は必ず縛るようです。

よく漫画などだと長い髪のままの人とかいますけど、結ぶのが基本。

長く伸ばしている人はいるけど、それは肩までの髪などだと、かえって結べなくて、すっきりしないので、

見てくれが悪いから、ショートにするか、むすべるように伸ばすかするのが、巫女さんの髪マナー。

ミディアムは難しいです。

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