22 雨の流したもの
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サキナミ様が本殿前につく。
それにも気づくことなく、派手な喧嘩が土煙を上げて、行われていた。
いや、こんな喧嘩、テレビや漫画の話だと思っていたのに。
・・・あるんだ。呆気にとられてしまう。
殴る時って、音、なるんだ。ひゅんって言うし、どがって当たってるね。
もう額から血を出してる人もいるし、口びる切っちゃってる人もいるし、散々だ。
もうこれ、どうすんの?
「葵、何があっても祈っていておくれ。この者たちの心が落ち着き、祭りが無事に始まれるように、と」
サキナミ様が今から祈れという。だけど。祭りが無事に?この状態で?
もう警察来ちゃうんじゃないの?私は不安を抱えながら手を前で合わせて祈った。
どうか争いが収まりますように。みんなが穏やかになりますように。
嫌なことが解決しますように。
私も祭りをきちんと努めますから、どうか、祭りが無事に始まりますように。
必死で祈っていると、サキナミ様が大きな声で、太鼓連と囃子連に呼びかけた。
「静まれ!!!小童ども!」
え?サキナミ様、そこにいるのは結構いい歳のおじさんたちばっかりだよ。小童ってそんな声掛けしたら、逆ギレされちゃうよ。
余計な雑念が入り、気を取り直して、また祈る。
と、しーん、と喧嘩の騒がしい怒鳴り声やざわざわした音が一瞬で消えた。
え?何?何が起こったの?
そおっと目を開いてみると、太鼓連も囃子連も喧嘩の手を止めて、ぼおっと、サキナミ様を見つめていた。中には、何が起こった?と周りの様子に戸惑っているおじさんもいたけど、ほとんどのおじさん達が、まるで、恐れをいだいているような顔で、サキナミ様の方を見ていた。
腰を抜かしている人もいる。
「・・・サキナミ様だ・・・」
「顔もお姿も昔と変わらねえ、あら、サキナミ様だ」
「夢か」
「あれは何年前だった?俺たちが小学生の時だ!」
「ほんとにサキナミ様?」
ザワザワと確認するような声があちこちで聞こえてくる。それを満足げに見ているサキナミ様がニヤリ、と笑った。
「おぬしらが裏山で秘密基地を作って、そのまま大雨が来て、土砂崩れになり、救ってやったこと忘れたか!」
ひえ、と小さな声がいくつかする。心当たりのあるおじさん達はみな、さっさとひれ伏した。
対象外のおじさん達もいたのだろう。その方々はハテナマークを顔中につけながら、一緒に地面に膝をつけている。
「柏木の小童も、栗谷の小僧も、田中、望田、塚原、もいるな。何より、勉!お前がいながらなんだ、この体たらくは!みな、気持ちを納めよ。よいな、そなたらは、これより、祭を務める者、だ。これより、恵みの雨を与える。しからば、そこからはしっかり為すべきことを成せ」
そう言うと、サキナミ様は両手を天に向けてかかげた。
私の方を見ると、続けて祈るように合図をしてくる。
ポタ、ポタ・・・・。
雨?
空を見上げると晴天だった空の今、この一部分だけ、黒い雲が寄せられている。
今、本殿の上だけが雨雲。
そして、周囲は快晴。
な、なにこれ・・・。天気雨、でもない。不思議だ。
そっちに出ていろ、とサキナミ様が合図するので、私は晴れの部分に移動した。
目の前の見えない線から、雨、だ。こんなことがあるのか。
やがて、ザザーっとたたきつけるような雨が本殿前の太鼓連と囃子連の人たちの前に降りかかった。
楽器が濡れちゃうんじゃ、と心配したが、そこは避けて雨が降りかかっている。ちゃんとサキナミ様、避けてくれてるんだ。
「こんなものだろう」
あらかた、皆が濡れていくのを見守って、サキナミ様がこちらを振り返った。
「葵、宮司に頼んで、タオルを持ってきてやれ。皆、濡れている。雨が収まれば、皆、落ち着いて、持ち場に着くはずだ。今の雨で部分的な記憶が消えることになっている。だが、何かしなければならない、という気持ちに追われて、やることはやるはずだ。」
「サキナミ様、ありがとうございます」
「なに、昔、少し灸をすえてやるつもりで、私の姿を見せながら、助けた者たちがいるのを知っていたからな、少し出しゃばった。葵もご苦労だったな・・・それから、由岐人!」
振り返ると、桐原さんがこわばった顔でこちらを見つめていた。
「お前もタオルを持ってくるのを手伝ってやれ。」
「あ、あんた・・・」
桐原さんは震える手をサキナミ様の方に伸ばした。
「・・・この雨を、俺は知ってる」
「そうだな」
「サキナミノミコト・・・あなたは・・・6年前に、俺の命を救ってくれた?」
あ、こないだの話だ。桐原さん、思い出したんだ。
「そうだった、かな」
サキナミ様はじっと桐原さんを見つめ返した。
「・・・あの場に・・・葵ちゃんもいた、よね?」
え?何のこと?桐原さんが真剣な目で私を見てくる。
知らない。6年前、確かに私はこの地に遊びには来てたけど。
桐原さんを知らないもの。
「その話は後だ。とりあえず、宮司に報告を。タオルを持ってきてもらわないと。そろそろ、彼らも正気に戻るぞ」
まだ何か聞きたそうな桐原さんを遮って、サキナミ様が支持を出し、参集殿へと戻っていった。
雨を降らせていた部分的な黒雲が散り、小雨になっていく。
呆けたようにその雨に濡れていた太鼓連と囃子連の人たちは、はっと我に返り、自らが濡れていることにざわめく。
「うん?天気雨か?」
「俺たち、何してたんだ?」
「びしょぬれじゃねえか!!」
私と桐原さんは慌てて、タオルを取りに走る。雨に濡れた人たちからは「サキナミ様」の言葉が一つとして出なかった。喧嘩の事も抜けている様子だ。
「恵みの雨だよう!神様が埃を洗い流してくださった!さああ、体拭いたら、お礼の囃子と太鼓を聞かせようよう!!」
勉さんが大きな声でみんなに声をかける。こちらと目が合うと片目をつぶってニコリ、と笑った。あ、勉さんは、何があったのか、覚えてるみたい。
「ちょっと大丈夫?タオル持ってきたわ!お天気雨だったの?みなさん、風邪ひかないように、体拭いてください!」
祢宜さんが(多分サキナミ様に言われたのだろう)、たくさんのタオルをもって駆けつけてくれた。私と桐原さんで手分けしてタオルを渡していく。
おじさん達に、さっきの剣呑な様子や、怒りで拳を振っていた様子など一切なくなっていた。
気が付けば、けがをしたり、血まみれだったはずの人もいたのに、それもすっきりと無くなっている。全部雨が洗い流したんだ。すごい。傷まで治すなんて。
いつの間にか、赤い夕陽の色が西の空を染めていた。真上の空は夕闇が迫っていた。
合図した者がいなかったのに、誰かが笛を吹いたのを皮切りに、皆がそれに重なるようにして、音が入っていき、囃子が始まる。その合いの手のように、地鳴りを伴う大太鼓の音が響いていく。
トンカラ、トンカラという囃子の小太鼓の音も心地よいし、響く大太鼓の音も安心感があって、とても素敵だ。
後から宮司さんに聞いた話だけど、囃子連と太鼓連はいつもライバル意識があってぶつかる要素が少しでもあると、すぐに喧嘩になりやすいらしい。大抵、総代長の勉さんが未然に防ぐのだけど、今回は囃子連にいるお兄さんと、太鼓連にいる弟さんという兄弟同士のちょっとしたいがみ合いも加わって、数日前から揉めていたそうだった。その話も兄弟のどちらからともなく仲直りする話になり、落ち着いたそうだ。
ともあれ、よかった。
これで、宵宮祭が無事、始まる。
星が一つ、空に輝き始めていた。
境内の周りに出来たどこかの屋台が風船を膨らませたりしているのだろう。ぶううん、という音が聞こえてくる。
甘いにおいや、美味しそうな匂いもしてくる。人も増えてきたような気がする。
「葵ちゃん、社務所に行こう。お守り頒布の手がなさそうだ」
桐原さんに誘われて、私はお守りの頒布番にあたることにした。それと入れ替わるように、儀式殿から狩衣姿の宮司さんと白衣白袴の正歩君が出てくる。
「桐原君、葵ちゃん、なんか色々大変だったね」
「全くです」
宮司さんはサキナミ様から聞いたのだろう、私たちを労ってくれた。桐原さんが肩を竦めてそれに応える。
「それじゃあ、私と正歩は本殿に行ってくる。しばらく向こうにいるけど、私たちが戻るまで、社務所お願いしますね。私たちが戻ってきたら解散」
笏をパタパタと動かしながら、宮司さんが言う。
「明日が本番だからね。早めに帰るようにしようね」
「葵さん、後で一緒に屋台周りませんか?私、顔が利くからサービスしてもらえますよ」
正歩君・・・神社の坊ちゃんだなあ。そら、顔も利くでしょうけど。いや、それ以前にその顔でサービスしてもらってるのかも!?相変わらず美しい白衣姿の正歩君です。
宮司さんは早めに帰れって言ってるし、どのくらい回れるかわからないけど、行ってみたい気はするなあ。屋台って閉店時間なんてあるのかしら。
二人が本殿に向かうのを見送って、続けてお守り頒布役をしていると、屋台のいい匂いがとても気になってきた。勤務中は食べられないし、ちょっと辛い。
「お腹すいたでしょ?」
桐原さんが楽しそうな顔で私の事を覗き込む。
う~ん、ばれてる。
「ちょっとまっててごらん。二人のファンクラブから差し入れがくるから」
「ファンクラブ?」
「ほら、ほら、来たよ」
桐原さんが肩をつついてきた目の先に、クレープを4、5本抱えたクレープ屋さんのお兄さんが社務所前にやってきた。
「桐原さんお疲れ様です」
「うん。紘香ちゃんにわたせばよい?」
「はい!お願いします!!あ、もちろん、桐原さんも、そちらの巫女さんも召し上がってください!では!」
クレープ屋さんはそう言うと、クレープを私たちに押し付けて去って行ってしまった。
「ね」
桐原さんがおかしそうに笑う。
「あれは紘香ちゃんのファンクラブ。あったかいうちに食べてきなよ。紘香ちゃんに言って、二種類くらい紘香ちゃん用に、休憩室に置いておいたらいい。あとは職員ご自由にになるからさ。今、俺がここやっとくから食べといで」
「え?いいんですか?」
すごく美味しそうだ。お言葉に甘えて、休憩室で食べてこようかな。そう思って、クレープを抱えて社務所を出ようとすると、大きな紙包みを抱えた誰かとぶつかった。
わ、この紙包み、あったかい。
「あ、ごめん、葵ちゃん?ちょうどよかった。これ、休憩室に持っててくれない?大量の今川焼もらっちゃったから、みんなのお茶うけに」
嘉代さんだ。え、その包み全部今川焼なの?もらっちゃったってどういうこと?
「東を姐御、と慕う今川焼屋がもうひとつのファンクラブ。すごいだろ?」
窓越しに桐原さんに解説されてしまった。
クレープに今川焼、ものすごいボリューミーなおやつが揃っちゃったけど、夕飯食べてないし、ちょうどいいや。休憩がてら、食べてきてしまおう。
私はホクホク、と休憩室に豪華なおやつを並べ、美味しく出来たてをいただいた。
境内を囲むように並ぶ屋台のみなさんは、いつも秋の例大祭と元旦の折に来る方々らしい。
馴染みの店の人がほとんどで、神社の職員さん達とも親しくしている、とのことだ。
夏の祭りは6年に1度の事だけど、こうして、皆集まってきているのだ。
結構おなか一杯になった状態だったのに、正歩君と終業後に屋台を回ると、イカ焼きやら、串焼きやら、じゃがバターやら、なんだか色々もらってしまった。
もう食べらんないよ。後は八百藤へのお土産かなあ。
ビニル袋いっぱいのお土産を抱えて、帰ろうとすると、サキナミ様からの声が頭に響いてきた。
『お疲れ様だったな』
「はい」
『明日も頼む』
本当は挨拶して帰ろうと思ったけど、参集殿の客間前の部屋が、囃子連と太鼓連の直会の場所になっていたから、遠慮した。直会、というのは、要は打ち上げの飲み会みたいなものだ。喧嘩をしていたことも忘れて、仲良く飲んでいる、と祢宜さんが話していたから、多分、大丈夫だろう。何かあっても隣の部屋にサキナミ様がいる。
「葵ちゃん?」
ふと職員通用口で声を掛けられて、振り返ると桐原さんが立っていた。
「今から帰り?」
「はい」
「今日はもう遅いから、送っていくよ」
頼むから送っていかせて、と八の字になった桐原さんの眉がそう語ってる。
さっきの本殿前の雨の事とか。サキナミ様の事とか。
話したいことがあるんだろうな。
私は笑顔で頷くと、ほっとしたように笑ってくれた。
これで10万文字いったのかしら。第一の目標がこれなので。
もしかしたら数文字足りないとか?
10万文字超えたら、登場人物の説明をプロローグ下に挙げていきたいと思っています。
私の確認作業の為に。。。




