表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
113/113

81 年明け

いつもおいでいただいている皆さま、

ブクマしてくださっている皆さま、本当に本当にありがとうございました。

今回をもちまして、幸波の杜、完結とさせていただきます。


実はまだ書ききってない部分もあり、心残りなところもあるのですが、

私の力不足と、もう一つ、環境の変化にともない、一旦完結としてまとめさせていただこうと思いました。

拙い文ながら、呼んでくださり、いいね、評価をしてくださった皆様に心より感謝申し上げます。

本当にありがとうございました。トロトロと時の流れはおそく、やっと新年を迎えられました。

最後のお願いです。

今回もどうぞ、よろしくお願いします。

由岐人さんは少し早めに来るつもりで、早く来すぎてしまったらしい。

着いて、少し休むつもりで、休憩室にいたら、そのまま寝入ってしまった、と。

私が寝ぐせを指摘すると、慌てて、化粧室の方に飛んでいった。

目覚ましのコーヒーを、と思い、由岐人さんに用意して、私も1杯自分用にいただく。

戻ってきた由岐人さんにそれを進めると、うれしそうに彼は笑った。


「ありがとう。来て早々、いや、起きて早々か、葵に会えるなんてラッキーだったな」


そういうことを、すらっと言えてしまうのは、以前の軟派な由岐人さんの経験からなのかな。

言われて、まんざらでもなくて、私は口元を緩めてしまう。


「葵と初めての年越しだな。担当場所、どこだった?俺、本殿だったんだけど」

「初太鼓が当たって・・・本殿です。太鼓の後、由岐人さんと、振る舞い酒をするように言われてます」

「・・・・初太鼓!?」


驚いたように由岐人さんが応え、その直後、顔を赤くしつつ、口元を押さえて私をちらり、と見てきた。


「・・・葵、その、初太鼓のなんか・・・聞いた?」


はあ。

これ、この反応。

きっと、さっき聞いたやつの事だよね。由岐人さんたら。

もしかして、意識して赤くなってくれてるんだろうか。・・・なんか、恥ずかしいけど・・・嬉しい、な。


「初太鼓の、ジンクス、ですよね?うかがいました」

「・・・そ、そうかあ」


ちょっと、そんなに照れないでくれません?私まで赤くなってきそう。


「・・・嬉しいな。葵と本殿で、新年を迎えられるんだな。最高だな」


由岐人さんは、照れながらも、まっすぐな視線を向けてきた。

ああ。そういう顔、ほんとに好き。

おかしいな、好みの顔でもなかったはずなんだけど。何よりもかっこよく見えるんだよね。


「よろしくお願いします」

「うん」


思えば今年はほんとに色々あった。

色々すぎて、当初こちらに来たきっかけを忘れるほどだ。

二人で並んでコーヒーを飲んでいると、やがて、嘉代さんや、他の巫女さん達もやってきた。

なんか夜にみんなが集まってくるのってワクワクする。

仕事、なんだけどね。

私達はまだお気楽だけど、宮司さん達は、もっと色々大変なんだろうな、とも思う。

時が0時に近づくにつれ、なんとなしに神社全体に緊張感がはりつめていく。


私は作務衣姿から、巫女姿に着替えると、社務所から境内の様子を見守った。

夕方くらいから準備が始まっていた、屋台のにぎやかな音が耳に入る。

儀式殿前の参拝場所、賽銭箱の前にはもうすでに列ができ始めていた。

本殿の方も、同じように列が作られつつある。

現在23時を少し過ぎたころ、長蛇の列、と認定されて、私と由岐人さんは見守りも兼ねて、早々に本殿に向かった。

由岐人さんは本殿での振る舞い酒の係。祈祷をするわけではないので、いつもの白衣袴に紺色の袴を羽織っている。

見慣れない姿に、ちょっとまたときめいてしまうけど、仕事仕事、と言い聞かせた。

私は、以前に着たことのある千早を、華やかだからと、祢宜さんに渡されて羽織っている。

本殿に行く道すがら、『あ、巫女さんだ』なんて声が聞こえてきて、

私は少し背筋を伸ばした。


「葵、由岐人、来たか」


本殿に入ると、小さいサキナミ様が奥の神座から、ひょっこり顔を出した。


「由岐人、よかったのう、葵の初太鼓」

「・・・サキナミ様が何かを働かせたんじゃないですか?」

「あったちまえよううおうおう~」


酔っ払い。酔っ払いが一匹、本殿内にいた。

由岐人さんの問いかけに、サキナミ様の代わりに応えたのは、かまいたち。

べったりと床に体を伸ばしながら、小さな盃のとっくりを抱えてご機嫌に酔っている。


「かまいたち・・・。なんでそんなに酔っちゃったの?」

「お、葵~。だってよううおうおう。祢宜がちょうがつにってくれたのよう、お酒。でねえ、久々にサキナミと飲んでたらもうご機嫌ようおうおうおう。もうこっち、では会えないと思ってたからなあ~」


そうね、サキナミ様が戻ってきて一番くらいに喜んでたもんね。

私も由岐人さんもすごく嬉しかったのに、大泣きして、全部持ってちゃったんだものね。


「葵をよおう、初太鼓にしとけば、さ、歳神さんの力も働いて、きっと幸せになれるからああ、なあ、サキナミは、お前が大事なんよ、わかってるのかああ」

「・・・もう酔っ払いは寝とけ」


サキナミ様がため息をつきながら、小さな笏でコツンとかまいたちを叩くと、かまいたちはスン、と眠りについてしまった。


「さ、まもなく年明けの時間を迎えるぞ。葵、由岐人、私の前においで」


サキナミ様が私たちを手招く。私は由岐人さんと視線を交わしながら、なんだろう、とサキナミ様の前に並んだ。


「二人とも、私のいない間、よう勤めてくれた。

由岐人。私の力と向き合うために、精神を鍛え、よくここまで自分のものにしてくれた。私は戻ってきたが、力はまだ十分でない。この土地の守る術を持つのはおぬしだ。

わからないことがあれば、私に問えばよい。そのために私はここにある。私の力を持つものとして、仲取り持ちの神職としてますますここで研鑽しろよ」


サキナミ様の言葉に由岐人さんが目を見開く。やがて、ふっ、と微笑んだかと思うと、深く深く、頭を下げて、拝した。再び顔を上げた時、由岐人さんは満面の笑みを浮かべていた。


「もとより、そのつもりだ、サキナミ様。足りないことがあったらどんどん教えてくれ」

「まだまだ、足りないことだらけだがな」

「あ・・・傷つくなあ。人間が一生懸命がんばってるのに」

「努力は認めている。よく、やっているよ」


なんだか久々にいい感じのサキナミ様と由岐人さんの会話を聞いた気がする。

口元が緩むのを感じていると、次に私の名を呼ばれた。


「葵」

「はい」

「私が消えたのちも日々祈り続けてくれて、ありがとう」


私の日参はもう私の動きのなかの当たり前になっている。感謝されるほどのことでもないんだけどな。


「お前は私の大切な巫女だ。幸せになってほしいと心より願っている。どのような道を歩んでも、お前の幸せや喜びは、より私の糧となる。来年、良い年となることを祈っている」

「はい」


サキナミ様にそんな風に言われると、なんだか、幸せになる努力をきちんとしなきゃいけないって思うなあ。自分よがりにはなりたくないけど。

笑顔でいられるように、ちゃんと自分の事も大事にしよう、うん。


「さあ、由岐人、まもなく時間だ。最初の方は葵についてやれ。一節叩き終わってから、お前は外に出たらよいだろう」


サキナミ様に言われて、由岐人さんが私の手を引いて太鼓の方にいざなう。

新年を迎える初太鼓かあ。

太鼓叩くだけなのに、なんだろう、この緊張感。

外から太鼓の前に私たちが立ったのが見えたのか、参列に並んでいる人たちが何やらざわめいている。

どこからともなく、カウントダウンの掛け声が始まった。

わあ、こんな年越し、あるんだよなあ。

気分が高揚していく。由岐人さんが微笑みながら、太鼓のバチを私にそっと手渡した。

受け取ろうとしたけど、由岐人さんの手が離れない。


「?」

「一緒にたたこう。・・・大丈夫、一節だけ、一緒にたたこう。そのあと、俺は振る舞い酒をしてくるから、な」


一緒に同じバチを手を重ねたまま持って、私は黙って頷く。

外でのカウントダウンは残り10となった。


「葵」

「はい?」

「好きだよ・・・愛している」


何故にここで、言うの!私はかっと額から熱が全身に周るような錯覚を覚えた。

カウントダウンが残り1となる。

由岐人さんに手をひかれたまま、太鼓に向かった。

カウントダウン、0。

私は、由岐人さんと太鼓をたたき始めた。

どこかで、叫ぶような新年の挨拶が、相次いで聞こえてくる。

ひと節目、叩き終わって、由岐人さんの手が離れた。


「葵、あけましておめでとう」

「お、おめでとうございます」


新年を迎える直前に不意打ちをくらった私は、そう応えるのが精一杯。

由岐人さんはそんな私を満足そうに見やって、外へと出て行った。


外の参拝が順次始まっているのがわかる。

私は2節目と3節目の太鼓を続いて打ち鳴らした。

由岐人さんの挨拶の声が響き、その後に振る舞い酒が始まった気配もわかった。

さあ、私も次の仕事だ。

太鼓のバチを置いて、外に出ようとすると、サキナミ様が目の前に浮いて、いた。


「あけまして、おめでとう。葵」

「おめでとうございます」

「さて、参るか」


サキナミ様が私の肩に当たり前のように乗ってくる。

私は安心をお年玉にいただいたようだ。

そのまま振る舞い酒の当番についた。


「あけまして、おめでとうございます!」


寒く澄んだ空気の中に、私の声が叩き込まれるように響いていった。


ああ。


私、この神社の中で・・・この杜で、生きている。

こんな風に、のびのびと呼吸できるようになったのは、ここに来られたからだ。

しみじみと、私は声の響きを追いながら、それを感じた。


にこやかに、新年の挨拶を告げながら、参拝客たちがお神酒をいただいては、通り過ぎていく。


この喜んでいるみんなの顔が嬉しい。

人の笑顔がこんなに嬉しいものだなんて、前は知らなかった。

ここにいる、みなさんが・・・

幸せでありますように。

どうか・・・笑顔でいられますように。


私は祈り続ける。この優しい街の温かな杜で。

この土地が好きだから。

この杜をみなで守っていく。きっと、ずっと。




終。






ここまで読んでくださった皆様に心より感謝申し上げます。

皆様に読んでいただけたからこそ、ここまで続けられました。

当初ブクマ5が目標でした。それが今37。もうありがたくってありがたくって。

完全完結と行かなかったのが心残りですが、

嘉代、紘香の話や、葵の大学の話、宮司夫妻の話、番外編?のような形でまた書ける機会ができたらよいな、と思っております。

いままで本当にありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 完結おめでとうございます。 また後日談やSSなどでの更新を楽しみにしております。 ここまでの執筆お疲れ様でした。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ