80 年越しの夜
いつもお寄りいただき、感謝申し上げます。
ブクマも評価も本当にありがとうございます。
完結まで、あとあと少し、あと少し。
もう今回で終わる?とか前回は思ってたのに。余計なこと多くてすいません。
あとすこうし、続きます。
どうか、こちらに寄らしたみなさまによいことがありますように。
17時になると、朝から勤務していた後藤さんや土屋さんが、「よいお年を」と言って帰っていった。
これで、また明日の朝「おめでとう」で再会するわけだ。
夕飯は宮司宅でご馳走になる。勿論、いただけるのは、年越しそば、と聞いている。
夕方組は私と紘香さん、住谷さん。
他に数名の巫女さんのバイトも22時過ぎたあたりから来る予定だ。
おいしいかき揚げとともに、あたたかいそばをいただくと、どことなく、ほっとする。
なんだか、ずっと何かに追われていたみたいな感覚があって。
さすが師走、と思っていたけれど。食事がきちんとできるのはありがたい。
八百藤でもきっと今頃、おそばを食べているだろう。
こないだ生まれた幸太ちゃんには初めての年越しだ。
家族水入らずになって、よかったかも?なんて押しつけがましく思いながらも、なんとなく頭には、22時から出勤の由岐人さんが浮かんでくる。
今年は由岐人さんと年越しするんだなあ、なんて、ちょっと思ってしまったり。
「そういえば、葵ちゃん、初太鼓の当番なんだって?」
住谷さんがニコニコしながら、尋ねてきた。
「はい」
「桐原も、本殿だろう?」
「ええ」
私が応えると、住谷さんはニヤニヤしながら、キッチンに立つ祢宜さんの方を見た。そうして、なにか納得したように、傍らで一生懸命そばをすする宮司さんを、面白そうに見つめる。
「思い出しますねえ、宮司さん。祢宜さんの初太鼓」
「!!・・・ん、んんっ!・・・ごほっ!な、なんだよ、元紀!」
「くくっ。まったく昔の事じゃないですか、真っ赤になっちゃって」
わ、今、宮司さんたら、住谷さんの事名前で呼んだ。
ん?なんか焦ってるみたいだ。宮司さんたら。
初太鼓と何か関係があって、それを友人でもある住谷さんがからかってるってところかな。
「何か、あったんですか?祢宜さんが初太鼓した時に」
「え?あ、ああ・・・」
「元紀!・・・う~ああ、住谷さんっ!」
ほんとに焦ってる宮司さんが、何か言おうとした住谷さんを制した。
住谷さんはニコニコしながら、口を噤む。宮司さんと目で会話するように、意味ありげな表情で頷いていた。
「葵ちゃん・・・気にしなくていい。君はきちんと初太鼓をつとめてくれたら、いいから」
宮司さんが気を取り直したように、姿勢を正して、私にそう、語り掛けてくる。
ところが
「だめよ、気にして!」
入ってきたのは祢宜さんだ。エプロン姿のまま、私達の食べている席にやってくると、腰に手をあてて、私を見つめてきた。
「初太鼓ってね、ジンクスがあるのよ」
「おい、季子!」
語り始める祢宜さんに、宮司さんがやめてくれ、と言わんばかりに声をかけるが、祢宜さんは気にもかけずに話し続ける。
「本殿で新年を迎えられた巫女はその場にいた人と結ばれるっていうね」
「・・・え?」
「思い出すわ~私が初太鼓にあてられた時、神職は住谷さんがあたってたのよ。だけど、そのジンクスを気にしてた宮司さんが、わざわざ当番の変更を言いつのって、年明け土壇場で本殿に来て、ね・・・・」
え・・・やだ、それかわいい。
「俺なんか、当番で当てられただけなのに、宮司さんのひどい嫉妬のせいで、被害者になったよ。早々に儀式殿に帰ったの、忘れらんないなあ」
笑いながら、祢宜さんの話に続く、住谷さん。
「ああ、もう、いいじゃないか、昔の話だよ」
宮司さんたら、顔が真っ赤だ。ほんとに昔から祢宜さんの事が大好きだったんだなあ。
「まあ、そういうことがあってね。葵ちゃんには桐原君とよりいい感じになってくれたらっ私なんかは思ってしまうの」
「・・・あ。祢宜さん、やっぱり、わざと、その配置にしたんですね」
住谷さんがニヤリと、笑う。
まあね、と言わんばかりに、頷く祢宜さんを見て、私はええ、と口を開けたまま呆れてしまった。
そして、じわじわと照れを自覚してくると、熱くなった頬を隠すようにうつむいてしまう。
ちょっと・・・勘弁してよ、もう。
紘香さんが隣でくすり、と笑う。
「実際、ジンクスは巫女さん達によく知られてるの。別にその場にいるって人は神職だけじゃなくて、参拝者の可能性もあるから、彼氏を呼んで、そこに自分が行きたい、なんて子も出てくるのよ。
そうすると収集がつかないから、葵ちゃんに出張ってもらって、桐原さんが行けば支障、ないでしょう?」
・・・さすが、紘香さん。最初から、そういう言い方にしてくれないかなあ、もう。祢宜さんたら。
「さ、食べたら、少し休んで、皆が来る前に一度お守りの頒布台チェックしましょう?紘香ちゃんも葵ちゃんも、お願いね」
そんな祢宜さんは空いたお皿を片付けながら、先の予定を支持してくれる。
「あ、住谷さん、22時過ぎに、警備の方見えるから、打ち合わせ、頼んでもいいかな」
「了解です」
宮司さんも先ほどの照れから、切り替えて、住谷さんに何かお願いをしていた。
御願いを受けた、住谷さんはいつものように真面目に答えていたけれど、ふと、私と目が合うと、何か思いついたように、ひどく嬉しそうな顔でこう切り出した。
「さて。葵ちゃん、来年はどこに初詣行こうか?」
「・・・え?」
「屋台よりながら参道歩いちゃってえ、おみくじ引いて、何お願いしようかなあ~」
「りんご飴、りんご飴」
「絵馬も書かないとね」
・・・あの?
住谷さんの言葉に、何故か宮司夫妻も乗っかっていった。
え?何コレ。
でもそれはないよね。神主さんは初詣は自分とこにいるから、ないわけで。
私が答えに困っていると、紘香さんが笑って教えてくれた。
「神主お決まりの自虐ネタよ。これから、怒涛の時間を過ごすから・・・。まあ、これぐらい夢見させてあげて」
「ええ・・・」
「嘉代さんは、ノッてくれると喜ぶから、鶴岡にでも行きませんか?とでも応えておいたらいいわ」
それって、嘉代さんも言ってくること前提なのね・・・。
なんか、・・・ちょっと可哀想になってきたなあ。
でも、そうなんだよね。
それで忙しく動き回っていくんだろうから。
由岐人さんはどうなんだろう。
杜之に入ってから、毎年、正月はここで助勤してるって聞いた。
その前は初詣してたのかな。以前は、病気を抱えていたから、それも当たり前じゃなかったのかもしれない。
これから、私もここで正月を迎えるのが普通になっていくのかな。
今の高等部を出て、杜之の大学も出て・・・。
そこで、私は、あ、と思わず声に出しそうになって、それを飲み込んだ。
何か気配を感じたのか、紘香さんが、どうかした?と言う顔で私の方を見る。
「なんでもないです」
いぶかし気な様子の紘香さんを置いて、私はいただいたそばの器を片付けに、席を立った。
ああ、私。
当然のように杜之の大学を出て、神職の資格取る方向性で進路を考えている。
・・・うん、そうなんだよ?
それで、所縁の神社に数年奉職すれば、授業料が免除されるんだから。お得なんだって知ってるし。
でも。
そういうの抜きで、私、ここの神社に来たいなって、今、そう思っている。
そうか・・・そんなに、私、ここが好きなんだな。
思い知らされた。
ぼんやりとその思いにふけりながら、私は通用口近くの職員の休憩室に足を運んだ。
「!」
暗くなっていたその部屋の電気をつけると、休憩室の机に突っ伏すようにして、由岐人さんが座ったまま眠っていた。
「あれ?由岐人さん、まだ時間じゃないのに・・・」
そっと、そこに近づき、顔を覗き込む、・・・と、
「・・・うわっ!」
「きゃっ!」
いきなり、寝ぼけたのか、叫んだ由岐人さんが、顔を上げた。
私は驚いて、悲鳴を上げてしまった。
「うん?・・・ああ、葵、おはよう」
「おはようじゃないですよ、今、夜です大晦日です。わかります?」
由岐人さんたら、寝ぐせをつけてしまったみたい。前髪がはねてる。
・・・それによだれも・・・。
まったく、かわいいなあ。
・・・・。
ほんと、私って、この人の事、好きなんだなあ。
寝ぼけまなこの彼を見ながら、私はしみじみ、思った。




