79 大晦日
なんか、ほんとに・・・ブクマしてくださる方も寄ってくださる方もありがとうございます。
PVが0になる日はないんですよね。ありがたい。
やっと大晦日まで来ました。長かったなあ。
もうあと少し書かせていただいて、完結をみたいと考えています。
こちらの事情もあり、7月いっぱいでいったん連載をまとめたいと考えました。
一旦しめて、後は嘉代や紘香の話、正歩の話を番外編のような形で時折、つづっていけたらと考えています。勿論、葵のその後の話も。
あと少し、お付き合いいただけると嬉しいです。
今回もよろしくお願いします。
東司さんは新潟へと帰っていった。
嘉代さんは東司さんの帰郷を聞いて、露骨に嬉しそうな顔をしていたけれど、私が何かされてないかと、ずっと心配してくれていた。
紘香さんは顔をしかめながら、すぐにスケジュールの調整にとりかかっていた。
宮司さんと祢宜さんは・・・まあ、正歩君からも聞いてるだろうし、東司さんからも直接話もあったんだろう、納得の上で送り出していた。
「一色さん~!」
明るく響く最近馴染みのこの声は、・・・高柳恵理さんだ。
体調の回復した恵理さんは、難あり、という紘香さん達の当初の評価を覆すような、いい巫女先輩として、完全復活した。
とはいえ、恵理さんは、今日は年内最後の休日だったはずだ。
今日は大晦日。まもなく、今年も終わる。
私は15時出勤で、各所の掃除を任されている。
「高柳さん?今日は休みで、元旦の午後から出るんじゃなか・・・」
ちょうど今境内内の手水舎の周りを掃き清めていたところだ。
声だけ聴いて、恵理さんが来た、と判断した私は、箒の先から視線を上へと走らせ、大きく瞬きをした。恵理さんの後ろに、品のよさそうな夫婦と、小柄な青年が立っていた。
「あ、こっち、うちの父と母と弟!・・・あ、こちらは後輩の一色さん。おじいちゃんが認めてるバイトさんよ」
両親、と弟!?
にわかに、私と家族の間で紹介をしてくれた恵理さんに、どぎまぎしながら、様子を伺う。
「へえ、おじいちゃんが認めたバイトってすごいわね。変なあだ名、つけられちゃった?」
お母様、初見からそこですか。さすがは勉さんの娘さんだ。
私は、若干、あはは、と苦い笑いをしながら、頭を下げた。
「なんか急に三人で帰国してきたのよ。今日は久しぶりに家族で過ごす大晦日なの」
そうそう、昨日神社に寄ってくれた勉さんがそんな話してったっけ。
恵理さん、嬉しそうだな。勉さんが言うには、何やら、恵理さんは語学の勉強を頑張っているらしく、将来的には弟さんのマネージャーとして、共に世界を歩みたいという、夢ができたらしい。
今まで、なかなか歩み合えずにきた高柳家の、この楽し気な展開。
おそらくは杉彦の詫びにも似た働きかもしれないな、と由岐人さんが言っていた。
今日は家族そろってのお参り、というわけね。
「お参り、お疲れ様です」
笑顔で挨拶すると、恵理さん達、高柳一家はにこやかに境内内へと進んでいった。
と、胸元の扇が震えた。サキナミ様の扇だ。
私はそっと、握りしめると、それに応えるように本殿へと向かった。
サキナミ様が戻ってきた。
それは皆にとって、とても嬉しいことだった。
本殿裏の欅の若木が依り代となり、再び、サキナミ様は本殿に住まわれている。
ただ、まだ力が足りないことや、出直し、の際にできなくなったことが、いくつかある。
しばらく・・・数年の間、とサキナミ様は言ってたけれど、人間の大きさにはなれないということ。
本殿で、かまいたちと戯れているサキナミ様はなんだか可愛いからいいんだけど。
私との念話のような会話もできなくなった。
前は頭の中に響くように、サキナミ様の声が聞こえたのだけれど、今は難しい。
テレパシーのような、その便利な力は由岐人さんの中に残っていて、私が祈る時に、お互いの声を聞きあうことはできるのだけど。
これはもう由岐人さんと私のもので、サキナミ様の声が遠く誰かに届くというのは、また新たな機会があってからのこと、という話だった。
代わりに、サキナミ様の扇がこうして、何かあると、知らせ、を届けてくるんだよね。
「サキナミ様、葵が参りました」
本殿でそっと声をかけて、殿内に入る。
見れば、サキナミ様は中にある寄せ太鼓の上に座って、足をぷらぷらとさせていた。
「おお、葵。作業は済んだか?」
「まだ途中です。それよりなんです?正月前に不備でもありました?」
「いや、ちょっと思いついたことがあってな。葵、お前、今日は年明け前にここに来れるか?」
「・・・ええと、元旦始まった途端に大忙しになるって聞いたんですけど、本殿に寄れるかどうかは・・・」
サキナミ様の問いに私は言いよどんだ。
神社で過ごす初の大晦日と元旦だ。
紘香さんによると、今夜はずっと境内も社務所も開けたままの状態で過ごすらしい。
深夜になるまではそんなに人も来ないから、そんなに構えなくてもいいと、言われた。
しかし。23時半を過ぎたころから、人が集まり始める。
0時を迎えると同時に初詣が始まり、どっとお守り授与の参拝者でごった返すらしいのだ。
それが続くのが2時過ぎくらいまで。
人が閑散として来たら、二名くらいを残して、後は休憩や仮眠に入る。
朝6時を過ぎたくらいから、また少しずつ初詣の人たちが増えてくるので、みなで待機していく、とそういう感じらしい。
元旦からは朝6時から勤務の人たちと、恵理さんのように午後から入る組がいる。
私は大晦日からの夜勤組、というわけだ。朝ご飯を食べたら、抜ける、予定なんだけど・・・。
「大丈夫だろう、あの巫女長に采配してもらってくれ。」
ええ、そんな勝手な。私みたいな新人がそんなこと言えるわけ、ないじゃない。
ただでさえ、人員配備に頭を抱えているような紘香さんにそんなお願いは言えない。
と、思っていたのだけど。
「葵ちゃん、あなた、元旦のお初の太鼓の当番だから、よろしくね。23時くらいに本殿に行ってて」
「???」
社務所で先に紘香さんに采配されてしまって、私は驚いた。
何、これ。神様、・・・サキナミ様が働いたんですか?
「お初の太鼓の当番って、なんですか?」
「年始めの太鼓を鳴らす係よ。それを合図に、神職が新年あいさつで、お神酒を皆さんにふるまうの。桐原さんがその係だから、葵ちゃんなら気兼ねいらないでしょ?太鼓鳴らしたら、桐原さんと一緒にお神酒当番もしてくれないかな」
気兼ねいらない・・・って。なんか色々察せられちゃってる感じがして、少し心苦しいなあ。
でもそういうことなら、ちょうどいいかな。
「太鼓の叩き方は、ここの祈祷で始まる合図の叩き方と同じ。大丈夫よ、葵ちゃん、上手だから」
「わかりました」
断る理由はないし、サキナミ様にも言われてたし、と快諾すると、その様子を見守っていたらしい祢宜さんが、何故かニンマリ、という感じで笑みを浮かべていた。
その笑みの理由は後で知ることになるのだけれども。
私は、それを深く考えることもなく、次の作業に入ったのだった。




