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78 出直し

またもやブクマが増えました。ほんとにつたない文におつきあいいただき、ありがとうございます。

ブクマしてくださってるかた、また読みに来てくださってる方に感謝をこめて。

どうぞよろしくお願いします

「・・・サキナミ様!?」

「サキナミ様・・・だ」


由岐人さんと正歩君が驚いた表情でこちらを見る。

私はそのまま、そっと手を伸ばすと、小さなサキナミ様は、将門様の持つ光の中からゆっくりと体を動かし、私の手のひらに乗ってきた。


「サキナミ、様、なの?本当に?」

「待たせたのう、葵」


にっこりとサキナミ様が笑う。桔梗姫と将門様が並んでその様子を見つめている。


「・・・?どういうことだ?俺の中のサキナミ様の力は失われてないぞ」


両手を目の前に広げて、由岐人さんがいぶかし気につぶやく。


「由岐人の中のサキナミノミコトの力はもう十分にお前に馴染んだはずだ。いわば、お前は神に選ばれし木魂の精霊の力の使い手、というところだろう。」

「じゃあ、あなたは?・・・サキナミ様、・・・なの?だって、サキナミ様は由岐人さんの中で力を継がせて消えていった、んでしょう?」


二つのサキナミ様の力の存在に私も由岐人さんも戸惑いながら、顔を見合わせる。


「私は、サキナミじゃ。由岐人の中で消滅したのも私だがな」


ふふん、という感じで鼻で笑うサキナミ様に、ああ、これはサキナミ様だ、と妙に納得してしまう。

でも、なぜ。


「・・・出直しをした、というのか。サキナミノミコト」


東司さんが、驚いた顔で、私達に声をかけてきた。出直し?何を言ってるんだろう。


「一度死んで、生まれ変わることを出直し、と言うのだよ。私は確かに消滅した。しかし、皆が祈り、心を寄せた事で、神様が働いたんだ。本殿の脇に植えた若木。風早や、祢宜もよく世話をしてくれた。

葵と由岐人が日々、この土地を想い、サキナミノミコトを想い、日参してくれた。宮司や、正歩、他の神職たちも立場それぞれで祈りを寄せていた。その結果が、出直し、という生まれ変わりの機会となり、あの若木を依り代に、今の私が存在するんだ」

「無論それだけでは、ここまで目覚めるのが早まるわけではない。なあ、将門殿、桔梗姫」


かまいたちがニヤリ、と将門夫婦を振り返ると、将門様は、ゴホン、と咳ばらいをして、何やら照れくさそうに頬のあたりをぽりぽりと、掻いた。桔梗姫が隣で、ほほ、と口を押さえながら笑う。


「東桔梗の浄化の際、何か葵に出来ることはないかと、将門様はずっと考えておられたのじゃ。それで、ほれ・・・」


桔梗姫がぽん、と私にひとさしの扇を放り投げてきた。慌てて受け止めると、それはあの時消滅したはずのサキナミ様の扇だった。


「・・・これ!」


懐かしく感じてしまう扇。将門様との扇も大事だけど、やっぱりこれは私の中の一番だ。

胸元で抱えるように握りしめると、肩にのってきたサキナミ様がくすり、と笑う。

その様子を見守るように、将門様が言った。


「そう、あの時、消えてしまった我らの結界の中の扇を、再び形どり、サキナミノミコトの力と魂を辿り、若木に働きかけていたのよ。神の力がもう存分に出直しへと働いている段階だったから、我の力をほんの少し貸しただけで、サキナミノミコトの出直しは完了したのだがな」

「ありがとうございます!将門様」


あ、父上って呼んであげればよかったかな。ちょっとだけ後悔。でも、将門様も桔梗姫も満足したように微笑んでくれた。


「なぜだ・・・祈りの力がここまで集約されて働くことが、この現代にかなうのならば・・・私だって・・・」


私達の姿を遠巻きで見ながら、東司さんが唸るようにつぶやく。


「できるんじゃないんですか?東司さん」


由岐人さんが、まっすぐに東司さんを見据えた。


「・・・俺は、命を助けてもらった感謝があるから、サキナミ様・・・神様と向き合えていました。でもその信仰心だけでは足りなかったと思うんですよ」


東司さんが、由岐人さんの声に吸い寄せられるように顔を上げた。


「葵と出会って、その足りない部分が分かりました。葵は素直で、まっすぐ神様を見てるんです。祈りたいことをまっすぐ祈る。自分の願いもするけれど、それ以上に、周りのためを祈ってる、他人を想って祈ってるんです。・・・神様って、そういうところから受け取ってくれるんだと思うんですよね」


・・・そ、そうなのかな。私。

ちょっと褒めすぎじゃない?

サキナミ様に言われた通りにお祈りしてただけだし。

なんとなく照れくさくて、落ち着かなくて、私はうつむいてしまう。


「勿論、葵でも、俺でもまだまだ足りない所はあると思うんです。でもそのたびに、自分の中にある神様に問いかけて、実際に社でも問いかけて。祈って、神様とやりとりする。そこからまた通い合うものが生まれて、神様の働きも少しずつ生じていくものなのではないか、と、俺は思っているんですが・・・」


ここまで話して、由岐人さんはバリバリと頭を掻いた。


「すいません、なんかうまく話しできないんですけど。東司さんも、やり方次第で、神様の方向への向き方が分かるんじゃないかと思って・・・」

「私に信仰心がないような言い方だな」


杉彦をその身に宿しながら、神様の方を見ていない、という言い方は不適切だったかもしれない。

でも、信仰心がないような、という東司さんの顔はどこか楽し気な様子だった。


「これは一本取られたな。確かに今の私は本来の神様の方向を素直に向いてなかったのかもしれない。わが身に杉彦様があるから、と高慢にもなっていたのだろう。大社の抱える問題を、兼務社の数の多さと自分の至らなさに精一杯で、本来、どう祈りたかったのか、何を神に祈ろうとしていたのか、忘れていたのかもしれないな」

「・・・東司さん」


ふと、東司さんを見ると、その姿の背後にぼんやりと、装束姿の精霊が見えた。

あれが、杉彦様、なのだろうか。杉彦様はすっと背筋を伸ばした状態で、私達を見回した。

その後、ゆっくりと頭を下げると、再び姿を消していった。


「できぬことがあれば、またともに我らと語り合えばよい。それに、お主の心の向きが変われば、また地元の方で力になる境界人達も現れよう。」

「そうだな、サキナミノミコト。それに桐原、葵ちゃん、私の負けだ」

「負けじゃない、学んだ、と言え」


サキナミ様がくつくつと笑いながら言うと、東司さんは柔らかな表情で笑って応えた。

由岐人さんがほっとしたように肩をすくめる。私も思わず、そんな由岐人さんの手を握りに再び寄り添った。


「あ・・・正歩君」


と、和やかな状態の中で、多分、これが地なのかなという、砕けた表情で、東司さんが正歩君に声をかけた。


「ごめん、やっぱり、年末年始、実家に帰ることにするね。なんかこっちで経験積むより、地元大事にした方がいい気がしたから、親父にも話すよ。宮司さん達にも話すけど・・・忙しい時に、力になれなくて、ごめんな」

「・・・家田さんにも言ってくださいよ、もう割り振りもきまっているでしょうし」


正歩君が応えながら、ぼそっと、俺の出番増えちゃうかもなあ、とつぶやいてるのが分かった。

俺って言ってるから、これは正歩君の地だ。

仕方ないよね、みんなでがんばれば、受験生の正歩君の出番を減らせると思うよ。


「葵ちゃん」

「はい?」

「桐原が嫌になったら、私はいつでも歓迎しますよ」


最後に東司さんが落とした爆弾に、由岐人さんが後ろから私を抱きしめて、それはそれは殺気のこもった気配をびしびしさせた。

ともあれ、私達はそこから、幸波神社へと戻ることになった。

将門夫婦は扇を通して天に還り、私達の中にはサキナミ様がいる。

色々あったけど、これで、御札配りの一日は終わろうとしていた。



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