白袴の出仕録 4
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みなさまありがとうございます。
このつたない文におつきあいいただき、足を運んでくださる皆様に、ブクマしてくださってる皆様に、評価までくださってる方にも、ほんと色々色々ありがとうございます。
心より感謝をこめて。
よろしくお願いします。
葵が祈り願う。
サキナミノミコトの扇の巫女である葵の祈りは、そのまま由岐人の中のサキナミノミコトの力に連動している。
葵が祈れば、自分の力を必要とする時だ。すぐに駆けつけてやりたいが、体の中の熱を、祈りの源に届くように、深く深呼吸する。
サキナミノミコトの力が彼女を守りますように、葵の祈りに応えられますように、と。
由岐人自らは社務所で、祈祷の補佐をしつつ、ここでの頒布台初心者にあたる東司のサポートにあたっていた。
葵が、総代長、小島勉の孫、高柳恵理の所なのはわかっている。
そして、恵理を捕らえている事に、目の前の頒布台を挟んで、参拝客と談笑する東司が一枚かんでいることも。
正歩と、ハヤトが一緒なのだから心配はいらない。
自他ともに認める葵への過保護さから、何度もそう、考え、何度も気持ちを納めようとしていた。
しかし、不安がまた芽生えてくる。
祈りの力を辿り、葵を感じようとすれば、
今は、あの桔梗姫もいるというのに。どうして、こんなにも不安になるのだろう。
「・・・桐原君、何か、気がかりごとかね?」
祈祷の終わったらしい、後藤が、気遣わし気に、由岐人の肩を優しく叩いた。
「!すいません、後藤さん」
「大事な物が気がかりかねえ。・・・心配しても仕方ない。君も行っちゃったらいいじゃない」
「!?・・・いや、俺は・・・」
後藤はニヤニヤと口元に笏をあてて、口元の深い皺を更に深めた。
「何が、とは言うまでもないけどねえ。おじさんには分かってるし。ここは土屋さんもいるし、ほら、新人の東司くんもいるし、四の五の考えずに行っておいで。」
「・・・・え?」
由岐人は後藤の言う事に目を見開いた。
「考えずにまず動くのって・・・若いのの特権だからさ、気になるなら、行った方がいいよ。」
「・・・・ありがとう、ございます」
由岐人は気持ちが決まった。
社務所を出ようと、座っていた社務所の椅子を押して、立ち上がる。
(・・・え?)
一瞬、目の前が歪んだような画像に見えて、由岐人は体をこわばらせた。
窓越しの頒布台前に立つ東司の姿が二重に見えたのだ。
東司の姿のみ、が。
(そんな、馬鹿な)
と、社務所の入り口で、愛用の眼鏡をかけたり、外したりして、外の東司の様子を見ている祢宜がいる。
「祢宜さん?どうしたんです?」
祢宜の様子に後藤が声をかけた。
「え~と、おかしいんです。まだ私30代なのに・・・老眼になっちゃったのかなあ。・・・ちょっと今、目の前が霞んだような気がしたんですよね。・・・東司くんの方見てたら、画像が歪むし・・・」
後半は、意味ありげな視線と共に、由岐人に向けて強調して言われたような風があった。
「どういうことです」
そっと祢宜に寄り添い、由岐人が小声で話しかけると、祢宜は厳しい表情で、これも聞こえないような声で応えた。
「桐原君。しまったわ。目の前の東司君は形代だけだわ。私が触れれば、紙か何かに変わってしまうと思う。・・・本体は恵理ちゃんの所に行ったのかもしれない。今、葵ちゃん達が行ってるんだけど・・・」
「!・・・祢宜さん、すいません、俺も総代長の家に行ってきます」
由岐人はそのまま社務所を飛び出した。
「お~お~、行った行った。いいねえ、若いのは」
「後藤さん、あんまり桐原君からかわないでくださいね。仕事、頼みますよ」
嬉しそうに見送る後藤に、祢宜は苦笑する。
「わかってますよ。でも大事なことですよ、そうでしょう?祢宜さん」
「そうでしょうね」
祢宜は笑う。強面の年配者である、元教員の後藤だが、なかなかどうして、結構可愛らしい経歴を持っている。
「後藤さんも、教え子さんと両片思いを8年でしたっけ?こじらせて、やっと成就させたんですもんねえ?」
「うん。でも、思いの強さは力になるよ」
そういうことを、さらりと言えちゃうのがすごいんですけどね、と祢宜は尊敬する職員の少しはにかんだ表情をほほえましく見つめた。
由岐人はそのまま神社を出た。
嫌な予感しかしない。
御札配りの期間、というのもあったから、白衣袴のままでよいだろう、と、着替えもしない。
気がせいて、つっかけてきた雪駄が歩きづらかった。
「!」
足元を取られた。その瞬間。
(葵!?)
それまで祈りの力で辿られていた、葵の気配がぷつん、と途絶えた。
ぐっと胸の奥が締め付けられる。
葵に何かあった。
そこから、葵の気配を辿れないのだ。
由岐人はそのまま、駆けるように小島邸へと向かった。
『由岐人殿』
「抱節!」
小島邸に近づいたところで、飛び出してきた抱節に出迎えられた。
「葵は!?」
『それが消えてしまわれたのです。総代殿の孫娘は意識を取り戻されたのですが』
抱節の声を聞きながら、焦る由岐人はそのまま、高柳恵理の住まう離れへと入っていった。
「正歩!葵は!?」
「桐原、さん・・・」
部屋の中で、うなだれていた正歩が、由岐人の姿に顔を上げた。
隣でハヤトがぴくん、と肩をはねさせた。
傍らで、総代夫妻に介抱されながら、目覚めたらしい恵理の姿も見える。
「どうしたんだ、葵が消えたって」
「恵理さんの力を捉えていた杉彦さまの力を断ち切ったのです。その直後に、姿が見えなくなりました」
正歩が手にしていた扇を由岐人に差し出す。
幸手の浄化の時に現れた、将門達から与えられた扇だ。
「・・・桔梗姫もいたんじゃないのか?」
由岐人の問いに、正歩は深くため息をつきながら、頭を振った。
「・・・桔梗姫の気配も今はしません。この扇は依り代にすぎません、葵さんと一緒にいるのかもしれません」
「桔梗姫のことだ、きっと葵を守って一緒にいる」
ハヤトが不安をぬぐうように断言する。
「そう、だといいけどな」
ぎり、と唇をかみしめながら、由岐人は扇を強く握りしめた。
「きり、はら、さん・・・」
恵理がベットの上からおそるおそる、といった感じで声をかけてきた。
「ああ、高柳さん、よかったな。目が覚めて」
「桐原、さん・・・、一色さんを助けて。黒い装束の不思議な男の人です、前に・・・私に居場所をくれるって言っていた、大きな男の人が・・・一色さんを狙ってたんです。ずっと・・・。私とのつながりが切れた隙を狙って、一色さんを連れ去ったんです!」
「・・・・」
能登の杉彦、東司のことだろう。恵理を餌に、葵が神社と離れている所を狙っていたのか。
「恵理を助けてもらったのによう。江戸幕府がいなくなっちまうなんて、困ったよう」
総代の勉が、心配した表情で由岐人に告げる。
「大丈夫、俺が必ず助け出します」
由岐人は扇を胸元にしまうと、正歩たちに神社に戻るように促した。
(葵、どこに・・・いる?)
焦燥感がつのる。気持ちがおかしくなりそうだ。
それでも。
まずは神社に戻って、祢宜達の助言をもらおう。
そこからだ。
(葵、必ず、行くから)
由岐人はひたすら恋人を想った。




