75 杉彦の力
いつもお寄りいただく方、お読みくださるかた、ありがとうございます。
またしてもブクマが増えてですね。なんか、ほんとすいません、ありがとうございます。
PV多いわけじゃないからこそわかることもあって、たまにひょっとアクセス見に来ると一気読みしに来てくれたような形跡を拝見して、頭が下がる思いになったり、相変わらず嬉しいことは多くあります。
読んでくださってる方に感謝を込めて。今回もよろしくお願いします。
心地よい笛の音が響き渡る。
音色の高低にそのまま身を委ねたくなるような、体に響く、笛の音。
正歩君の龍笛は美しい緑色の柔らかな光に包まれ、やがて、その光が、恵理さんを包むような流れを作り出していった。
ハヤトがそれを見て、うん、と頷いて私を見る。
自然と脳裏に働いたのは、サキナミ様の名前と、この土地神であるサキナミ様に守っていただくのだ、という気持ち。
私は目をつむって、合わせた手が次第に温まっていくのを感じた。
どうか。どうか恵理さんを助けてほしい。
この土地の人を、どうか守って欲しい。土地神、サキナミ様・・・。
うん・・・なんかやっぱり、どこか祈り続けにくいような気配がする。
黒い靄が浄化されるとき、祈ると、どこからか力が増幅されて、それを浄化していくような気配がするのに。
その力が伸び悩む感じがする。
手ごたえがない、というわけじゃないんだけど・・・抑えられてしまうようなところがあるんだよね。
ちらりと、恵理さんの方を見ると、笛の音によって現れた緑の光も、ある一定の所から進めるような気配がない。
「杉彦の力、結構付加されているな・・・これは厄介な」
ハヤトが難しい表情でそれを見守っていた。
無理なの?ダメなの?・・・そんなの嫌だよ。
恵理さんだって、もっと違う形で思いを形どりたいはずなのに。
こんなのってない!
サキナミ様・・・!どうか・・・。
『葵?大丈夫か』
サキナミ様への祈りが届いてるからだろう。由岐人さんの声が頭に響いた。
『高柳を見舞っているんだな。・・・今、力を送る』
「ありがとう、由岐人さん」
途端に、ぶわっと、背中から温かな気流が流れ始めるのを感じた。
と、その流れの中で、胸元が熱くなったような気配がした。
「!?」
触れてもいない扇が袂から、何かに誘われるようにしてすうっと現れ、そのまま宙に浮いていったのだ。
「??何?」
思わず、呆気に取られて、その扇を目で追うと、そこに懐かしい気配を感じた。
由岐人さんからの力と共に、心強い味方が現れた事を知る。
「わが娘はなかなかに頑固じゃのう。甘えて、はよう、この母を呼べばよいものを」
「・・・桔梗姫?」
はるか昔、時を超えて私の母だった人の姿がそこにあった。
「久しぶりやのに、面白くないのう。・・・はは、さま、とお呼び」
ええ・・・。桔梗姫は取り澄ました美しい顔で、登場早々そんなことを私に要求してくる。
いや、それは、前世ででしょ。
もう私は今の生活の方に馴染んでるし、ちょっと照れくさいよ、母呼びは。
「・・・桔梗姫、今はそんなこと言い合ってる場合ではない」
ハヤトの言葉に桔梗姫が嬉しそうに目を瞬かせる。
「ちょいと、そなた、風早ではないか。久しぶり、だのう?」
「そうだな。扇と共に現れた所を見ると、状況は察しているのだろう?そこな娘を助けてほしいのだ・・・ところで、将門様は?」
「ああ、今、別の事でここには来られなくてのう。まあ、そこの娘を助けることならば、わらわも手伝えよう。葵、扇を持って祈るのじゃ。わらわの力を貸そう。・・・ん?相模の欅の気配もするな?」
桔梗姫は宙に浮いたままの扇を手招きで手元に寄せると、葵の手にそっと乗せた。
「我らをつなぐ依り代ゆえ、な。・・・じきに前の扇も持たせてやるほどに」
「え?」
こそっと耳もとでささやかれた言葉に、サキナミ様の扇の話と思われることを言われ、聞き直したけれど、桔梗姫はふふっと笑って、そのままにされてしまった。
「能登の杉彦・・・聞いたことがあるが、とにかく、その力を娘と離せればよいのだな」
「そうだ」
「じゃあ、今一度、やりますよ!」
「はい!」
私と桔梗姫の再会の所為で、一旦止まってた手を振り出しに戻す。
正歩君の笛の音が再び響き始め、私は祈り始めた。
由岐人さんから伝わる、サキナミ様の力が、この土地を守ろうとする力が力強く流れ込む。
桔梗姫の温かい心が包み込むように力となって、扇からあふれ出す。
正歩君の笛の緑の光が大きく恵理さんを囲い始めた。
見える。
恵理さんの体から出る気流のような流れにからみつくような、他からの力が。
白く細い道筋が恵理さんの体を取り巻くように、ついて回っていた。
あれが、杉彦さまの力?東司さんの中にある力と関係しているのだろうか。
それが見えだした頃から、正歩君の笛の音が一層高音になった。
私もそのまま祈り続ける。どうか、恵理さんを守れますように、と。
ハヤトがパシイッと大きく柏手を鳴らして、両手を目のまえに差し出した。
「よし、そのまま正歩も葵も続けてくれ、いくぞ!・・・・清き風の力を、正しき守りのため、関わりなき力と切り離さむと風早之名の下に願いまつらん!」
ごふうううっと風が起こった。
ハヤトの目の前から風が舞い上がった。
小さな渦をつくるような形で、ハヤトの風が、恵理さんの周りを走り抜ける。
シュッ!
クスッ!
パシュッ!
ところどころで、確かに何かが風に寄って断ち切られるような音がしていく。
うん、うまく、いってる。
そう、私は思って見守っていた。
けれど。
私のここでの記憶はここまでとなる。
その後、恵理さんは無事に目覚めて、勉さんが大喜びしたらしいけど。
正歩君とハヤトはその場で忽然と消えた私の姿を探して大慌てだったことだろう。
そう、私はそこから、いつのまにか移動していたっぽい。移動させられた、かな。
ハヤトの術の最中に。
私が気が付いたのは、薄暗いどこかの古い納屋のような場所だった。




