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74 利用された思い

いつもありがとうございます。ちょっと更新の間があいてしまいましたが、またしても!ブクマが増えていました。なんかもう、嬉しいです。

ブクマは5、の当初の目標もだいぶ前にクリアしたので、今後は週刊ユニーク100以上キープ、で行きたいです。・・・難しいかなあ。

読んでくださる皆様に感謝して。お送りします。

今回もよろしくお願いします。

氏子総代長、小島さん宅に再び。

連絡のあった家の御札配りを先に周り、私と正歩君、ハヤトは勉さんに案内されて、また恵理さんの住む離れへと向かっていた。


「恵理はなあ、昔っからため込むタチだったから、ちょっと爆発寸前になると、こないだみたいに嫌な気配を放出しそうになるのよ」


七五三の時に、難癖をつけてきた恵理さんの事を思い出す。

勉さんは、やれやれ、と肩を竦めながら、けれど、ものすごく心配している表情で、恵理さんの事を話してくれた。


「悪い子じゃないんだよ。ただ普段我慢している分、爆発すると、ぶつけ方もわからなくなって、結果、それを自らも傷つけることになって。・・・あげく、落ち込んだりしてな」

「そうなんですか」

「・・・寂しいんだと思うんだよう。親が二人とも自分の弟の為に家を留守にしているんだからね」


そう言って、勉さんは恵理さんの事をかいつまんで教えてくれた。

彼女の両親が優秀な音楽の指導家であること。恵理さん自身が3歳の頃からピアノを習い始めていたこと。そして、2つ下の弟がいて、こちらはバイオリンをしてきたこと。

そして、この弟の高柳 慶がその道では結構有名な天才バイオリニストなのだという。

幼いころから、優秀なバイオリニストとして注目されていた弟さんは、海外留学をして、更にその道を究め、その名を馳せ、数々のコンクールで優秀な成績を残しているのだそうだ。

しかし、その海外留学をするあたりから、両親がそれに付き添う形で共に海外に赴き、その後のコンクールや、演奏会の遠征も全て、両親がサポートするためについて回るようになってしまった、と。

恵理さんは、勉さんの所に預けられて。時折帰国してくる家族を迎えるために、今住んでいる離れを住まいとして住むようになったらしい。

それでも恵理さんはピアノを続け、なんとか両親に認めてもらえるように努力をしてきたらしい。

ところが。

高校進学の話が出て、恵理さんは音大と一貫になっている高校を選ぶつもりで、準備を進めていたのだが、両親の想いは違う所にあったようだ。


「好きなようにしなさい」


おそらくは、一人にさせてしまっている恵理さんへのせめてもの償いのような気持ちもあって、好きな道を歩んでほしいという心から、そんな風に言われたんだろう、と勉さんは話す。


しかし、必死に努力していた、恵理さんにはその言葉は響かなかった。

ショックから引きこもり、2週間ほど、学校にも行かなかったそうだ。

部屋から出てきたとき、恵理さんは、どこか抜け殻のような状態だったという。

それでも学校へ行き、やがて、選んだ進路は普通の高校だった。

芸術科目選択で、音楽・美術・書道を選ぶ時、恵理さんは自分にとっては、そこそこの美術を選んだらしい。

恵理さんはこの時を境に音楽と断絶したような態度を取り始めた、という。これが、高校始めの時。


そして、気を紛らわせるために、勉さんが誘い、母親もしていたという、幸波神社への巫女のバイトもはじめたらしい。

そして、由岐人さんに声をかけてもらった。

・・・まあね、その時の由岐人さんだから、どう声をかけたのかは想像に難くないんだけど。

もしかしたら。

恋する、というより、自分が必要とされている、と思えたのだろう、か。

なんとなく、分かる気がする。だからこそ、そこに固執したのかな。

嘉代さんとの話もうのみにして、ショックを受けて。

自分の心を守るために、周りを敵視したんだろうか。

七五三のあの時の瀧さんへの言葉や、私に向けられた憎しみも。

本当は自分を見てほしくて。必死で。

・・・だから邪気に呑まれて、余計に物事が見えなくなってしまったんだろうか。


恵理さんの黒い靄が消えた時、ほっとしたように「ごめんなさい」を言ってきた、彼女の顔が脳裏に浮かぶ。そう、あそこにあったのは安堵だった。

嫌な気持ちから解放されて、傷つけなくてもいいというような、そんな安堵感を出していた。

元々は、優しい人なんだと思う・・・せっかく邪気から離したのに、どこがどうなって、東司さんの中の力と関係したんだろう。

さっき、ここで、祈った時。

「助けて」と、確かに私に向けて、恵理さんは言ってきた、と思っている。

助けてあげたい。・・・どうしたら、いいんだろう。


話を聞き、色々と考えあぐねているうちに、私たちは恵理さんの部屋まで来た。

勉さんがおもむろに、ひょうきんな顔つきで片目をつぶる。


「まあ、見られたくねえもんもあるかもしれねえからよう。こんの坊主も訳アリみたいだし、若にもなんか、ついてるみたいだし、俺はいったん向こうで待ってるよう。」


こんの坊主と言われたハヤトはぎくっとしたようにゆっくりと勉さんを見上げた。

若、というのが似合いすぎる正歩君は腰の笛を出して、微笑みでそれに応えていた。

勉さんは、じゃあ、頼むね、と言うと、そのまま、自分の家の方に帰っていった。

・・・やっぱり、勉さんはわかってるんだろうなあ。


「・・・さて、どうしようか、ハヤトは、何か考えがある?」


勉さんを見送って、私はハヤトに尋ねると、ハヤトは、ふわり、とその少年の体を浮かせて、ベッドの上で寝ている恵理さんを上から覗き込んだ。


「う~ん、やっぱり力が強いな・・・さっき、葵も祈ったけど、はねのけられたんだよな。正歩、お前はどう見る?」

「・・・そうですね・・・」


正歩君は笛を口元にあてながら、ベッドの周りを少し歩いた。

おもむろにぶおっと、低い音で笛を鳴らす。そうかと思うと、ひやあっという高音を鳴らして、すっと目を細めた。


「抱節、どうだろう、今のでわかった?」


正歩君に声をかけられた抱節さんが、笛からその姿を現す。


「今の音の反射で見るに、この場所での東司殿の中にある杉彦のお力は間借りされているだけですね。

ここで働いている力の本質は、この娘自身にあるようです。この娘の力を利用して、東司殿・・・杉彦が何をしようとされていたのか、はわかりませんが」

「・・・想いの力を利用されたか」


抱節さんの言葉に、苦々しく、ハヤトが応える。


「どういうこと?」

「さきの総代長の話を聞くに、この娘は人や外に対しての想いが強い。想いの力と言うのは、言ったら、葵、お前の祈りの力のようなものだ。ただ、自分の想い、自分の願いの力であって、他人の為に働く祈りの力とは違う。想いの力が強すぎると、邪気に包まれたり、悪い境界人に魅入られたりしてしまう。・・・杉彦はここの土地神ではない。ゆえに、力を発揮するために、この娘の力を拠点として動こうとしたのだろう。」


そんなことって・・・。だけど、恵理さんは返してもらわないと!


「どうすれば、恵理さんを助けられる?」


私の問いに答えたのは抱節さんだった。


「まずは、この娘の力に結びついている、杉彦の力を断ち切る事です。力の筋道は笛の音色で、私と主がつけましょう。葵殿は、祈られてください。この娘を守って欲しいと。さすれば、この娘の想いの力を縛る、杉彦の力になんらかの影響がでるでしょう。そこを風早殿が、断ち切る、・・・でどうですか?」


「まずはそれしかないだろうな」


ハヤトが納得したように頷く。


「じゃあ、私は笛を吹けばいいんだね、抱節」


正歩君も承知したように笛を構えた。そこに抱節さんがふわっと戻っていき、笛が若草色に輝きだした。


「わかった。じゃあ、やってみようか」


私は、手を合わせた。




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