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72 対峙

なんかすいません。いつのまにやらブクマは増えてるし、評価も下さったりして、・・・ありがたき幸せにございます。しかも更新してないのに、読んでくださってる方がいる。これ、よろこばしからずや。背筋を整えてまいりましょう。

こちらにお寄りいただいた方に幸がありますように。

それでは、よろしくお願いします。

御札配りは午前中で大体終了した。

留守の場所もあったから、それはまた明日回ることになりそうだ。

二度訪問しても、配れない場合は、氏子さん自身に神社に取りにきてもらうようになる。

新年を迎える御札だ、連絡をせずとも、必ず来るものなのだそうだ。

ハヤトを真ん中に挟むようにして、歩きながら、そんな話を由岐人さんから教えてもらった。

私達はもう神社の方に戻り、もう中に入ろうか、というところだ。


「季子殿と宮司殿だな」


ハヤトが、ふと、すん、と鼻を鳴らして、天を仰ぎ、足を踏み入れた境内から外の方を振り返る。

その時には姿が見えなかったが、やがて、角の方から、二人の姿が見えた。

祢宜さんが、こちらに気づいて、手を振っている。


「え?」

「あ・・・・」


祢宜さんも宮司さんも気づいていないのだろうか。

私と由岐人さんは、ある状況に、一瞬固まったけど、お互いに顔を見合わせて、思わず笑いあった。


宮司夫妻、手繋ぎをされている。

それがすごく自然で。素敵だった。

仲のよい夫婦だから、当たり前のことなのかもしれない。


「仲がよいの」


一言、ハヤトが言うと、そこで宮司夫妻ははっと気づいて、手をひっこめた。

なにこれ、かわいい。

心なしか、二人とも、少し顔も赤いかも。


「え~と、・・・あの、ハヤト君、だね?」


何か取り繕うように、宮司さんが、ハヤト君の方に向き直る。


「祢宜から、聞いてます。その姿で、本殿に住まわせるわけにもいかないですね。うちの預かり子として、一緒に正歩たちと住んでくれませんか?」

「よいのか?迷惑をかけるやも・・・」

「大人の姿ならね、本殿にいてもらっても、サキナミ様みたいに、きっとどうとでも説明つけられますけど。その姿では色々、困ることも多いでしょう」

「うむ・・・姿を消すこともできるんだが・・・」


宮司さんがハヤトに一緒に住む提案をしている。

そうだよなあ。

子供がこの広い境内の奥の本殿に一人でいたりするのを他所の人が見たら、とても奇妙に見えるだろう。

ハヤトは遠慮もあるのか、少し迷うように考える様子を見せた。


「そうだな、季子殿と何かあったときにすぐに連絡も取れるし、正歩と抱節もいる。・・・じゃあ厄介になろうかな」

「じゃあ決まりね!正歩の小さい時の服、あるから、着替えましょう?その恰好は目立つから」

「ええ・・・まあ、しょうがないな」


祢宜さんが嬉しそうに着替えを推奨すると、ハヤトは少し嫌そうな顔をしたが、受け入れたようだった。

そうこうしている間に、住谷さんが帰ってくるのが視覚に入り、祢宜さんは御札配りで説明していた時のように、ハヤトを住谷さんに紹介していた。

住谷さんは、一度、宮司さんと視線を交わし合って、意味ありげな表情を浮かべていたけれど、先に昼ご飯を済ませてくるから、と中に入っていった。

住谷さんって・・・多分、色々察してるんだろうな・・・。

見えない人ではあるんだけど。


「!!・・・常春だ」


住谷さんの背を見送って間もなく、ハヤトの固い口調が、緊張の時を告げる。

・・・ああ、この気配。

そうか。これが杉彦という杉の木のカミ様の気配なんだ。

なんとなくサキナミ様や抱節さんと通じるような雰囲気の気配がする。

今まで気づけなかったのは、東司さんが、上手に気配を隠しているから、とハヤトが言っていた。

サキナミ様の消失で、力を取り入れた由岐人さんと違い、杉彦というカミ様と東司さんは互いに共有し合う状態で同化しているんだという。

東司さんがそういう魂の持ち主だったのかもしれないが、というハヤトの仮説だけれども、

東司さんは杉彦さまで、杉彦さまは東司さんだと、同格にある状態で、存在しているものだという。


うん、よくわからないね。


でも、杉彦さまと東司さんの意識は一つであって、その安定の状態で力を持っているから、由岐人さんの中にあるサキナミ様の力よりも大きく、しのぐ可能性がある、という話はわかりたくないけど、わかった。


東司さんが境内に現れた。


「!!」


途端に何かその場の空気が破かれていくような、不思議な気流の流れを感じる。

何?

と、改めて、東司さんの姿を確認しようとすると、目の前に由岐人さんとハヤトが私をその気流の流れから守るように立ちはだかる。


「あいつめ、もう杉彦の気配を隠す気もないんだな。ここはサキナミノミコトの神域だ。違う土地神が入ってくれば、気流が乱れる」

「・・・っ!強い力だ。立ち向かっては、壊れる。流していかないと、これは・・・駄目だ」


由岐人さんが何かに耐えるような表情で、手を合わせていた。

どうしよう、これってなんかまずいよね。

私も・・・祈る?

見れば、気流の流れに足を取られるような、由岐人さんの動き。私は咄嗟にその腰に両手で抱きついた。

倒れたら、多分、いろいろ、まずい。


「葵!?」

「このまま。・・・このまま、私も祈ります」

「ありがとう」


肩越しに、にっ、と由岐人さんは笑う。

その顔に、こんな時にとは思うけど、ドキッと気持ちが舞い上がる。

由岐人さんは、再び東司さんの方を向いて手を合わせた。

・・・と、私が祈りを始めるか否かの際に、シュンっと、空気の流れが収まった。


「え?」


拍子抜けた様子の由岐人さんの、そう遠くない場所で、東司さんが口角を上げたまま、立っている。

いつの間にあんなに近くまで来ていたんだろう。


「これはこれは、失礼した。他所の神域に我が力を入り込ませるなど、礼を欠いていたな。・・・ま、お陰で良いものを見られたが」

「・・・東司、さん・・・」


由岐人さんが困惑した表情で、東司さんを見つめて立ち尽くす。


「まさかに桐原の中に、相模の欅の力が入り込んでいるとはな。気配は感じていたが、なるほど、よくわかった」


まるで、私達を見定めるような表情で、東司さんは更に近づいて、頷きながら語った。


「東司さん、・・・何がしたいんですか」

「ん?風早に聞かなかったのかい?・・・葵ちゃんも、聞いたんだろう?」

「!」


えええ・・・このタイミングでそれを私に振るの?・・・ちょっと・・・。


「おい!・・・お前の従妹が近づいてるぞ」


ハヤトが低い声で割って入ってきた。

見れば、疲れ切った表情で、嘉代さんが、境内内に入ってきたところだった。

ぴく、と東司さんの眉が上がる。

嘉代さんの前ではこの話は続けられない。


「・・・やれやれ、仕方ないな。この場はしばしお預けだ。・・・・もう昼飯、だな。さ、中へ入ろう」


意味ありげな微笑を浮かべて、東司さんは、我々を中へ入るように促した。

由岐人さんも、肩をすくめて、それに倣う。

私も一緒に行こうかと思ったけど、嘉代さんの疲れた表情が気になって、なんとなく足を止めていた。


「じゃ、わしは宮司宅に行ってくる」


ハヤトが参集殿の建物の方へとかけていった。


「葵ちゃん!お疲れ様」


ハヤトが走っていくのとすれ違うように、嘉代さんが私に近寄ってきた。


「今の水干の子、誰?」

「宮司さんの親戚のお子さんらしいですよ。しばらくこちらで預かるそうなんです」


祢宜さん達の設定と口裏合わせとかないとね。嘉代さんは、かまいたち云々が通じない。


「へえ~かわいい子だね」

「・・・嘉代さん?なんか疲れた顔してますけど、大丈夫ですか?」


気になっていた私は、ずばり、尋ねた。嘉代さんが、ふと目を丸くして、私を凝視する。


「・・・後輩にそんな気遣いされちゃ困るなあ。そう見える?」

「すいません、わたし的には、そう、見えたんですけど」


私がそう応えると、嘉代さんは頬のあたりを人差し指でこすりながら、ぼやいた。


「気疲れだよ。従兄の常春さん。なかなか大変な人なんでね・・・葵ちゃん、なんか言われたりしなかった?」


ぼやきながら、私を心配してくれている。ほんと、優しいな、嘉代さんは。


「大丈夫ですよ?」


大丈夫、とは言っても、ハヤトから聞いた話を振り返せば、あまり心中穏やかではない。

彼は、私の扇の巫女として利用したがっているみたいだから。


「・・・ふうん、そっか。さっき、桐原たちとなんか話してる風にも見えたからね。ちょっと心配だったんだ」


嘉代さんは、東司さんと由岐人さんが入っていった、職員通用口の方面を見やった。

疲れた表情は、気疲れと心配の種があっての事か。東司さんは、嘉代さんに対して、何を話したりするんだろうか。


「・・・ま、いいや。切り替えよ。・・・葵ちゃん、ごはん、食べようか」


大きく伸びをした、嘉代さんは、私の背中を軽くたたくと、私をお昼に誘ってくれた。

俄かに亜実さんに久々に作ってもらったお弁当を思い出し、急激に空腹を覚える。

うん、今は食事しよう。

難しいことは後からだ。


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