社務日誌 18
いつもお寄りいただき、ありがとうございます。
最近、PVがないときに、どこまで0で行けるかゲームをします。
でも、来てくださってるんですよね。ほんとにありがたいです。
今回もどうぞよろしくお願いします、短めです
これは一種の拷問なのか、と嘉代は顔をしかめた。
左隣を歩く従兄の常春は、そんな嘉代の気持ちを知ってか知らずか、くすり、と笑う。
この顔立ちのいい従兄は、いつもそうだ。
生まれた時から、北陸の有力な大社の後継者で、その重圧もあっただろうに、どこか飄々として、余裕がある。頭もよい上に、遊び上手、大人たちとの社交にもたけ、一族の中でも早いうちから認められた存在だった。
「わが可愛い従妹殿は何やら、ご不満の様子だね」
そう言いながら、御札の入った袋を持ち直し、にわかに、嘉代の前に回り込んだ常春は、その不快さを満面に顔に出した嘉代の頬をからかう様につついた。
「・・・子供じゃないんですから、そうからかうのやめてくれませんか?」
「からかったのはどっちかな?元婚約者候補さん?」
「うぐっ!」
桐原との話をでっち上げたのはそう遠くない過去の話。
しかも嘉代はその後知られたくない事まで常春に把握され、弱味を握られているような状態なのだ。
「バイトで巫女さんやってるうちは良かったよね。・・・だけど、びっくりしたなあ。まさか京都で神職の資格取ってきちゃうなんて。うちの方じゃ、嘉代が後継者候補に名乗り出るんじゃないかって言われてるよ」
「・・・心配しなくてもあちらには参りません」
「わざわざ、親戚筋じゃなくて、幸波さんの推薦で行ったんだものね?そのつもりは分かってるよ。でも、嘉代、この先どうするんだ?」
すっ、と、まなじりを細めて、常春は厳しい表情になる。
「今、24才だろう?幸波さんにずっとお世話になるのか?結婚はどうするんだ?未婚の女性がいつまでもいられるほど、神社界は先進的ではない。それはわかっているんだろう?」
「・・・今は模索中です」
「それじゃ、叔父さん達を納得させられない。新潟に連れてこい、兼務社を任せろ、ってやいのやいの言われる」
予想通りの展開に、嘉代は頭痛を覚えた。
思わず、ぼんやり、と美形の従兄のまなざしを見つめる。
それがせめて今、出来る、彼女なりの返しだ。
幸波神社にいたいだけなのだ。先の見通しとか、計画なんてない。
この場所が好きなんだ。それだけだ。でも、それでは説明が足りないのだろう。それも十分わかっている。
常春はそんな嘉代を困ったような表情で見ると、ふうっと息を吐きだし、嘉代に背中を向けた。
「お前が抱えていることは察しているよ。その理由も。ここにはお前の・・・」
「!言わないで!」
「・・・すまん、悪かった」
嘉代のぴしゃり、とした拒絶に常春は、はっとして、肩越しにちらりと、嘉代を見た。
顔を真っ赤にして、厳しい顔で常春を睨みつけている。
「怒るなよ。・・・ま、お前のここでの働きぶりは非常に有能だってわかったから。幸波さんでも重用されているんだろう?」
「・・・・」
「さっき御札配りした何軒かでも、嘉代ちゃん嘉代ちゃんって慕われてたしな。お前は確かにこの土地のお社に必要な人材のようだ」
先ほどまで、どうするんだ、と問い詰めてきたのに、打って変わっての評価をし始めた常春に、嘉代は逆に警戒した。
何か、ある。
「だからな、お前を向こうへ連れて帰らないで済む方法として、嘉代がここで必要とされている事を話す、と、もう一つ、お土産をもっていけばいいと思ってるんだよ」
「・・・なん、ですか?」
「葵ちゃん」
「は?」
「彼女、いいよね。社家出身じゃないけど、神職の資格取るために杜之に行ってるんでしょ?」
「え?・・・まあ・・・」
「あの子が欲しいな。そう、私の奥さんにでもなってもらおうかな」
「!?」
・・・その予兆はあったんだけどなあ。嘉代は二の句も告げずに、頭を抱えた。
わざわざ、葵に会いに、高等部まで行ったのだ、この従兄は。
目をつけられたのだ、葵は。
(ごめん、葵ちゃん、桐原・・・)
嘉代はどう弁解しようか、どう攻防すべきか、目の前の常春の得意そうな顔に、困惑まみれで思案にふけった。
ただ、彼女は知らず、気づけない事もそこにはあった。
葵の祈りの力が、葵がサキナミノミコトの巫女だったことが、常春の一番の目的であるということを。




