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【完結】恋を知らない亡国の姫君は、祖国を滅ぼした王子に溺愛されているので、隙を見て暗殺することにした  作者: ゆいレギナ


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4話「可愛い悪戯」





 やっぱりロックは食事開始早々、肘でフォークを落とし、メイドに交換してもらっていた。


 ――今度こそ。


 どういう理屈で二回目を過ごしているのか知らないが、この機会を逃すわけにはいかない。


 朝だというのに、とても豪華なメニューが続々と運ばれてくる。セリナは不満に思いながらも、平然とした顔で食事を続けていた。


 ――全部食べてたら、それこそ今日一日動けなくなると思うけど。


 それはサンビタリア王族の方々も同じようで、みな思い思いの品を好きなだけ食べているようだ。平然と「もういらん」と皿を突っ返しているイクス王子をセリナが横目で見ていると、ヨーグルトを綺麗に食べていたロックが小声で耳打ちしてくる。使っているのはちょうど、あのスプーンだ。


「余った食事は、そのまま使用人たちの朝食になるんだよ」

「え、そうなの?」


 下手に意識してバレないように……というより、本当にその話にビックリしたセリナが目を丸くすると、ロックが楽しげに笑う。


「勿体ないとか思ってた?」

「まぁ……そりゃねぇ」

「昔は全部捨ててたんだけどね。兄上が進言したんだ。おこぼれではあるけど、みんな喜んでいるみたいだよ」

「……ふーん」


 セリナにはまるでいい印象がないものの、この話を聞く限りは立派に務めているようである。セリナが感心した目で見やると、原型を留めないくらい歪んだ顔をされてしまったが。


 一通り食事を終えた国王が言ってくる。


「えーと、それじゃあいくつか報告しておこうかね。とりあえず先週問題になっていた砦の流行り病は治まったよ。イクス、手回しありがとね」

「恐悦至極でございます」


 座りながらも一礼するイクス王子は、顔を上げると誇らしげを通り越して腹が立つ笑みをセリナに向けてくる。


 ――やつぱり聞いた話よね?


 使用人の朝食云々の話は初耳だったが、この報告は昨日聞いたばかりである。


「あとロックも東部閑所の件、お疲れ様。後継者への引き継ぎも無理なく進んでいるようだよ」

「おー、それは何より」


 一方、次男はおざなりに返事をしながら、口元から何かを取り出した。国王の話は同じなのに、この行動は初めてだ。こっそりセリナに見せてくるのは、器用に結ばれたサクラボの茎。ヨーグルトに乗せられていたものだろう。


 その細くてしなやかな茎を舌で結べる人はキスが上手い――そんな噂は、どの国でも有名だ。


 ――だからどうした⁉


 その手をテーブルの下ではたき落とすと、ロックが「痛っ!」とスプーンを落とす。


「どうしたんだい?」


 報告を中断した国王に問われると、ロックは「いやぁ」と後頭部を掻いた。


「可愛いお嫁さんにイタズラしたら怒られちゃった」

「まぁ、なんとはしたない!」


 即座に非難してくる王妃は、しっかりとセリナを見据えている。


 ――え、なにこれわたしが悪いの?


 その反応に不満しかないが、セリナは適当に「すみません」と謝っておく。今、あまり大事にはしたくない。


 セリナはチラリと落ちたスプーンに視線を向ける。ロックは散々このスプーンを使っていた。ならば、もう毒は摂取したはず。だから後は待つだけだ。仕掛けたのは遅効性の毒。効果発言までに半日くらいとのこと。無色透明で臭いもなく、ジェイドに特別用意させたもの。


 その頃には、当たり前にように食器も洗われ、痕跡は残らない。


 ――ふふ、今度こそ完璧よ。


 その間に、メイドがロックに変わりのスプーンを持ってくる。国王は「仲が良いのは喜ばしいことだけど、皆の前では程々にね」と少しズレた注意喚起をし、再び盗難事件に関する報告とやらを始めた。

真面目な顔で聞いている振りをするセリナに、ロックが耳打ちしてくる。


「銀に反応しない毒なんて、どこで仕入れたんだ?」

「え?」

「まぁ、あの執事に用意させたんだろうけど……あいつ本当に底が読めないよなぁ。前に仲良くなろうとして酒に誘ったことがあったんだけど、アッサリ断られたし――」


 タラタラとロックの愚痴が続くが、セリナの耳には何も入ってこなかった。


 ――どうしてバレたの⁉


 だって色も味も何もないのだ。それにロックの言う通り、毒に反応しやすいという銀にも反応しないということは、昨日のうちにセリナも実験済み。


 何も言わない。だけど驚きも隠せないセリナに、ロックはにんまりと笑った。


「あとで解毒薬、口移しで飲ませてくれよ?」


 ――あ、摂ったは摂ったのね。


 それなら尚の事、どうして毒のことを知っているのか――と思考を展開させるよりも先に、国王から話を振られてしまった。


「セリナさん、準備は順調かい?」

「はい?」

「明日は婚約式だろう? もう今から緊張しているのかい?」


 国王はとても優しい口調で話してくれているものの、隣の王妃やイクス王子は嘲笑を隠そうともしない。それでも、国王は変わらずセリナに優しい言葉を掛け続けた。


「明日が終わったら、いよいよ正式な婚約者だ。そして婚約者としての公務が始まり、来年の結婚式の準備に追われることになるだろう。大変だと思うけど、僕らは家族になるんだから。困ったことがあれば、いつでも頼ってくれていいんだからね」

「はい……ありがとうございます」


 すごくありがたいことを言ってくれている気がする。

 だけど気が動転しているセリナは、愛想笑いを返すだけで精一杯だった。





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