レイと家族の話。
ちょっぴり重ための話です。
後半は出来るだけライトになるように頑張りました。
模擬戦で初めての勝利を収めた興奮もほどほどに治ってきた頃。
帰りの短いホームルームを終え、ルミアと一緒に帰路に着く。話題はもちろん今日の模擬戦のことだった。ヴォイドリーテンポについて詳しく教えたり、水の剣を作った魔法の話をしたり、とにかくいっぱい話した。ルミアの家の前で別れて、一人で歩く。
俺の家の住人は、俺含めて二人しかいない。
少し、俺の家族について話そう。
俺の両親は貴族だった。貴族だが質素倹約を掲げ、部屋の中も過度な装飾を避け、自室や執務室でなく、来客向けの応接室に一番お金をかけるような人だ。いつも、自分のことより家族や他人を優先していた。
家族との時間を一番に考え、長男たる俺や当時小さかった兄弟たちにも分け隔てなく愛情を注いでくれた、優しい心の持ち主だった。二人とも尊敬に値する人物で、俺の自慢の親だ。
もちろん仕事もきっちりこなす。
しかし、仕事は忙しいらしく、仕事部屋を覗けば書類の山。父さん母さん共に冒険者ギルドのお偉いさんだったらしい。詳しい役職は知らないが。仕事をしている時の二人は俺たち家族に接している時とは別人のような目で、なんだか別人みたいだった。当然、いい意味で別人のようだった。子どもたちにデレている顔ではなく、ピシッと引き締まった表情で次々と筆を走らせ、印を押す姿はカッコよかった。
初めてその姿を見た時は、家族の違う一面を見たみたいでとっても満足した気分になったのを覚えている。
俺の家族は合計8人。つまり6人兄弟だ。一番上が俺。続いて、俺の一つ下、長女のライラ。更に一歳ずつズレて、次男のカイル。三男のガイア。次女のミナ。三女のアリス。男女半々である。
俺が今15歳だから、一番下のアリスも、生きていれば10歳になっていただろう。
ブルーバード家は、俺を残してみんな死んでしまった。今からちょうど5年ほど前だろうか。
当時、商業ギルドのトップを務めていた貴族、カティッシュ家が、政府へ提出する書類を偽造し、不正利得を得ていたことが判明した。カティッシュ家の者と商業ギルドの上層部が皆、裁判にかけられることになった。しかし、カティッシュ家のトップ、アーノルド=カティッシュだけは法廷に姿を現れなかった。
更に彼は、気が狂ったのか、法廷への呼び出しを無視したカティッシュ家に詰めかけた騎士団のメンバーを全員虐殺し、逃走。その後すぐに彼はやってきた。うち、ブルーバード家へ。
その日は雨だった。ずぶ濡れのアーノルドを、優しすぎる俺の両親が受け入れないはずがなかった。彼は、騎士団に命を狙われていると嘘を吐き、うちにやってきた。しかし、保護したも束の間、騎士団がうちに押しかけてきた。俺たち家族は、アーノルドを匿う共犯者として疑われ、屋敷ごと焼き払われてしまった。
今も忘れない。俺の、俺たちの家が焼けていく様。焼け落ちた天井に踏み潰されたライラとカイル。逃げ遅れ、炎に巻かれたガイア。騎士たちの投げ込む火炎瓶に直で当たり、見るも無惨になってしまったミナ。父さんと母さんは、騎士たちにやめてくれ、子どもたちだけはと叫びながらその場で斬首されてしまった。俺とアリスだけはなんとか屋敷から脱出することに成功したが、すぐに見つかり、アリスは騎士の放った火矢に射られて死んだ。俺がアリスや家族みんな死んだことに絶望した時。ブルーバード家に使えるメイドである、カリーナさんが、記憶魔法のかけられた水晶を見せ、ブルーバード家が騙されていたことを証明して見せた。
カリーナさんのおかげで誤解だと解り、俺は生き残った。全てを失って。後から聞いた話によれば、あのクソアーノルドはもちろんのこと、カリーナさん以外のメイドや執事たちも焼け死んでしまったそうだ。大方、屋敷の倒壊に巻き込まれたのだろう。
俺は騎士団を恨んでいる。誰が射ったかもわからぬ火矢を恨んでいる。そして何より、あのゴミ、アーノルドを深く深く恨んでいる。でも、俺が憎悪に塗れた復讐鬼にならなかったのは、単にカリーナさんのおかげだ。墓を立て、俺と一緒に泣いてくれた。彼女がいなければ、俺もすぐにあのクズと同じになっていただろう。
だから、今の俺には両親も、兄弟も居ない。いるのは、たった一人のメイド。
俺が暮らしている家は、父さんが中央に出張に行くとき使っていた別邸だ。この家には特別メイドなども雇っておらず、完全に誰もいなかった。騎士団から多額の賠償金が払われたが、俺はこいつらを使う気にはなれなかった。
と、まぁこんな感じである。正直、5年経った今でも寂しく思う。ふとした時に思い出すと、涙が溢れそうになる。
家に帰ってドアを開ける。
「お帰りなさいませ、レイ様」
「だから、レイでいいって言ってるだろ」
「メイドとしての性です。お許しください」
そう言って彼女は微笑む。聞けば彼女は20代だというが、その割に大人っぽい笑い方をする。歳不相応だが美しい笑み。これに何度救われてきただろうか。
「本日は、レイ様……コホン、レイの好きなホワイトシチューです。さぁ、早く手を洗ってきてくださいね」
「おぉ、ありがとう」
ホワイトシチューは、僕の大好物だ。母さんやカリーナさんが、よく作ってくれた。ライラと一緒にその味を再現しようとして失敗したのはいい思い出だ。ちなみに今は頑張れば作れなくもない。
俺は荷物を置いて水魔法でぱぱっと手を洗い、食卓へ。
「では、いただきます」
「どうぞ、召し上がってください」
これは昔からのやっていることの一つだ。母さんが極東の島国、ヤマト国に出張に行った時に知ったという、食事の前後で食材に感謝する習慣。それがかなり気に入ったらしく、うちでも取り入れるようになった。今からは食事の時間、という合図にもなりうるのでこれを考えた人は天才ではないかと思う。
「どうですか?」
「うん、美味しい。やっぱりカリーナさんの作るホワイトシチューは最高だよ」
「ふふっ。ありがとうございます」
「ほら、カリーナさんも一緒に食べるよ」
「はい。大丈夫ですよ。焦らずとも、私もご一緒させて頂きます」
俺たちは、ホワイトシチューを頬張りながら、他愛のない話を続けた。
ま、主に今日の模擬戦の話だったけどな。
俺の母親代わりを努めてくれているカリーナさん。俺にとって、家族と言える唯一の人物だ。やはりこれからも、大事にせねばなるまい。
「おかわり、あるか?」
「もちろんです。あ、レイ。ほっぺたにスープが付いてますよ」
「おい、恥ずかしいだろう!?」
「ふふふ」
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作者は狂喜乱舞します。