模擬戦
怪盗スカイによるピンクダイヤモンド事件の翌日。学院の魔法実技演習棟にて、レイのクラスの授業があっていた。
「今日はクラス内で模擬戦をしてみようと思う」
と魔法実技担当教師ことカレン=フレイザーは言った。それに対してクラスは沸きたった。一年生でかつ入学したてというのもあり、未だ実戦形式で魔法を使ったことがないのだ。教師であるカレンや的を相手に魔法を使うことこそあれど、対人は初めてだ。
「模擬戦のルールは一対一で、初級魔法以外の使用を禁ずる。万が一にでも重傷を負わせる訳には行かないからな。どちらかが初級魔法以外を使ったらそこで試合は中断。使った奴には何らかのペナルティを課す。わかったか?」
「「「「はい!!」」」」
「レイくん、緊張するね……人相手に魔法を撃つなんて」
「まぁな。俺は緊張とかそれ以前に、魔法がちゃんと使えるかが心配だ」
「大丈夫だよ! 今まで頑張って来たじゃん!」
「ルミアは……心配しなくても大丈夫だよな」
レイには、魔法の才能が比較的低い。対するルミアは、魔法に関してはピカイチ。レイは授業で習ったことを口に出して反復しながら、一組目の試合を見る。
「では最初は……ルミアとセリアスでいいか?」
「はい!」
「ふっ、僕を選ぶとは先生もお目が高い」
威勢よく返事をしたルミアと対照的に、金色の前髪を掻き上げながら、格好つけて返事をしたのはアルト=リライト。そこはかとなくナルシストな雰囲気漂うアルトだが、事実ナルシストである。
そんな二人はカレンの指定した場所で向かい合い、互いに礼をする。半歩下がり、開始の合図を待つ。
「では……はじめっ!」
魔法実技の初戦の火蓋が切って落とされた。ルミアが素早く魔法を詠唱する。
「炎の精霊よ、我が敵を燃やし尽くせ!」
「水の精霊よ、集いて盾となれ!」
対するセリアスも、ルミアに勝るとも劣らない速さで対抗する。結果、両者の魔法は相殺され、また睨み合いが始まる。
その後も数分に渡って、互いに魔法を連打し続けた。すると、ようやく戦況に変化が起きる。
「激風よ、その腕を以て薙ぎ払え!」
「水霊よ、我が手に集いて━━うわっ!?」
ルミアの放った風の魔法が、セリアスの足元をすくい、バランスを崩した。そこにチャンス到来とばかりにルミアの魔法が炸裂する。
「雷電の使者、雨雲より来れり」
「アババババババ」
ルミアの放った雷の魔法で、あえなくアババされるセリアス。初級魔法なのでさほどダメージは通らないが。雷の魔法は速攻性が高いので、牽制から僅かな隙を突いてのトドメなど、なかなか優秀な属性だったりする。
「そこまで! 勝者はルミアだ。拍手を」
「やったぁ、勝てました!」
「うぅ、あれでまさか転ばされるとは……」
ルミアは満面の笑みを浮かべ、喜びをあらわにしている。最初にめちゃくちゃ気取っていただけに、悲壮さを増しているセリアスをよそに、模擬戦は進んでいく。
「二組目はアイリスとスタンレーで━━」
その後も滞りなく試合は進んでいく。ルミアとセリアスの試合ほどでは無いが、長丁場となって見る側がハラハラする試合もあった。
そして遂に、彼の出番が来た。
「15組目は、レイとジェイルで行う。最終戦だ。二人とも頑張ってくれよ」
「やっと俺の出番か。でもレイじゃ相手になんねぇな〜」
ジェイルは大柄な男子で、魔法使いというより騎士の方が向いていそうな体格をしている。しかも、彼が主として使う魔法は『身体強化』。属性魔法と併用して、拳から風を起こしたり、蹴りで火花を飛ばしたりもできる。また、足を強化して接近し、ゼロ距離で魔法を撃ったりもできる。魔法使いは接近戦が苦手な人が多いため、彼は魔法使いにとって相性が悪い。逆に言えば、距離さえ取れれば、彼は決め切るのが難しくなるということだ。
「レイくん、頑張って! 練習の成果を見せつけてやってよ!」
「うん。ルミアありがとう。頑張るよ」
「……チッ、またルミアはレイばっかり贔屓しやがる……」
ルミアがレイを応援する。レイも微笑みで答えて位置につく。だが、もう一方、ジェイルの呟きは小さく、誰にも届いていないようだった。
「では……はじめっ!」