怪盗の七つ道具
二話目! 連投です
レイは終始緊張しっぱなしで、ガクガクブルブルの1日を過ごした。実技の時に手元が狂って魔法が暴発したり、魔法陣を書き間違えたり、などと授業にも身が入らず、散々だった。
その日の放課後、レイを心配して声をかけてくれたルミアに大丈夫だと伝えて、彼は朝来た道を辿るように家へ帰った。
「ただいま……」
誰もいない家の中、レイのただいまの言葉に返事はない。
「ちょっと、眠い……」
レイは気にせず自室へ向かい、ベッドに横になり、目を瞑った。その数時間後。日も落ち始めた頃に彼は目覚めた。
「俺、完全復活!」
ガバッと起き上がり、夕食を適当に済まして支度をする。今夜の彼はテンションが高い。なぜなら……
「今日も怪盗の仕事、しなきゃな」
そう、今夜も怪盗スカイとして参上するからだ。予告状は昨日のうちに出している。昨日は3箇所に予告状を送っている。
一つはローズマリー家の『青龍の瞳』、
二つ目は今回のアーノルド家の『ブラックダイヤモンド』だ。三枚目も同じように貴族の家へ予告状を出している。この3箇所を一夜ごとに巡っている。また、今回でいえば、予告状はこんな風に書かれている。
『アーノルド様へ。明日の夜、月が最も高くなる時間より参上し、必ずや『ピンクダイヤモンド』を頂戴致します。 怪盗スカイ』
ピンクダイヤモンドは、その名の通り、ピンク色のダイヤモンドだ。何でも、炎の魔法を何故か吸収するダイヤモンドらしく、とても希少だという。発見者がこのアーノルド家の娘さんだと言うことで、ピンクダイヤモンドの研究もここで行われているらしい。
先ほどの予告状、紙のサイズの関係で文字数は少なめなのが残念なところだ。内容は比較的シンプル。ご丁寧に、現れる時間まで書かれているのが怪盗らしい。
彼の仕事着は、闇に溶け込む黒のトレンチコートと同じく黒のローヒールブーツ。そして、またも真っ黒なグローブを嵌め、最後にアクセントとなる白いハーフマスクを着ける。
彼は自室から外に繋がる梯子を登り、屋根の上へ。そして真っ白な月を背にして言った。
「よし。今日の目標は、アーノルド家の『ピンクダイヤモンド』だ。行くぜ!」
スカイは手から何やらフックのついたロープを射出し、近くの屋根にフックを刺しながらロープを操り、まるでブランコの様にして飛んだ。スカイはそれらを両手から射出し、夜の街を高速で飛び回っていた。
それこそ、怪盗スカイの七つ道具の一番目、『グラップリンググローブ』であり、スカイが最初に身につけた真っ黒なグローブのことを指す。グローブで手の甲に当たる場所からフックつきのロープ、グラップルが射出され、ロープを巻き取ったり伸ばしたりして、立体的な移動を可能とする。グローブに空間を拡張する魔法陣が描かれており、手の甲という小スペースに20メートル相当のロープが内蔵されている。つまり、必然的に射程は20メートルということになる。略称は『GG』だ。
「やっぱりGGは使ってるだけで楽しいな。扱いが簡単で移動速度も速いし、つくづく便利だよな、これ」
実は、最初に身につけた物は全て七つ道具の中に含まれ、特殊な能力を持っているのだが、それはまた後ほど。
スカイは大きな貴族の屋敷をグラップルで軽々と飛び越え、ものの数分でお目当ての屋敷へと辿り着いた。屋敷の屋根に着地すると、それまで周囲を警戒していた騎士たちが、一斉に屋根上を振り向いた。
「やぁ、騎士団と魔法師団の諸君。こんな深夜までお仕事ご苦労様。出来るだけ手早く終わらせてやるから、安心しろ。俺も一仕事と行こう」
視線を一挙に集める中、彼は闇に溶け込むように姿を消し、屋根から飛び降りた。
「向こう側だ! 追え!」
そう叫んだのは、昨日と同じ、隊長格の騎士。前回取り逃したのが頭に来ているのか、どこか荒々しい。屋根から飛び降りたスカイは、すぐさま騎士や魔法使いたちに囲まれてしまった。
「さぁ、大人しく投降しろ。貴様は完全に包囲されている!」
「投降? お断りだ。ついでに言っておこう。俺は完全に包囲されてなんかいないぜ」
「は? 追い詰められて気が狂ったか。貴様は今、前も後ろも、左右も全て囲まれているのだぞ。分からないのか? ハッハッハ!」
隊長格の騎士は高らかに笑った。前回出し抜かれた相手があっさりと捕まえられそうだからなのか、先程と打って変わって上機嫌だ。
「そりゃ見ればわかる。でもさ、前後左右を囲んでいても、上がガラ空きだぜ?」
そう言って、スカイはグラップルを射出。今度は屋敷の側面にフックを刺して3階の外壁を走り、あっさりと包囲を脱出した。
「なんだあの道具は……! 絶対捕まえてやる! 総員、追え、魔法師団は攻撃魔法の使用を許可する!」
隊長格の騎士は号令をかけ、対人のため規制されていた攻撃魔法の使用許可を出す。途端、待ってましたとばかりにあらゆる属性の魔法が放たれる。
「爆炎に包まれ、焼け焦げよ!」
「激風よ、嵐となれ!」
「水よ、槍となりて貫け!」
「裁きの雷よ、我が敵を穿て!」
スカイを襲う魔法の雨。魔法が着弾する刹那、スカイの右手が銀色に輝いたかと思えば、スカイを襲う魔法の雨は、全て霧散してしまった。
「残念だったな、俺に半端な魔法は効かない。次はもっと、消しにくい魔法を撃ってくるんだな」
なぜスカイの前で魔法が消えたのか。それは、直前の銀色の光に原因がある。銀色の物体の正体は、水銀だ。スカイの七つ道具の2番目、『グラディ=マーキュリー』だ。通称キュリー。持ち主が自在に操れる水銀で、形状は様々。剣や槍といった武器から、平らにして盾のようにしたり、鍵穴に刺して鍵の形に変えたり、と用途は様々。
先程、スカイはキュリーを剣の形に変え、魔法を斬ったのだ。より正確に言うと、魔法の核を斬った。魔法には核が存在し、その核を正確に斬り裂くことで魔法が消滅する。魔法の核は通常認識できないのだが、ここでまた七つ道具の登場だ。
スカイの七つ道具の3番目、『ホークアイ』。略称は無い。最初に身につけた白いハーフマスクのことだ。ホークアイは、身につけるとあらゆる物が見つけられるようになる。もちろん、お宝の在り処もお見通しだ。また、遠くの物を見るレンズ的な使い方もあり、その距離は最大で10キロ。ホークアイのお陰で彼は魔法の核を認識でき、キュリーで斬り裂くことができたのだ。
そんなことは知らない騎士たちの間にはどよめきが走った。魔法が消えるなんてことは、常識的にあり得ない出来事である。魔法の核を認識できる者など架空の存在に近く、いわゆる神業なのだ。騎士たちのその動揺が仇となり、あっさりとスカイを見逃してしまった。
「チッ、スカイめ……妙な技を使いよって。総員、全力を挙げて奴を捕まえろ! 最初に奴を捕まえた者に、報酬は弾むぞ!」
「「「「おー!!」」」」
『報酬は弾む』という言葉に騎士や魔法師団の面々も右手を上げてそのやる気を示す。これでも一応王都直属の精鋭部隊なのだが……
その間にスカイは、屋敷の中へ潜入しているのであった。
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花依は狂喜乱舞します。