予定外の死を迎えた俺は最強無敵のチート能力で一矢報いたので理想の最後を選び、その結末を異世界の神は慈悲と哀れみを持って見送った
ストレスからなんか書きなぐった。
目覚めたら真っ白な空間に正座していた。
いやまて、いや待て、待て待て待て。
確かに俺はコンビニでカップラーメンなんかを買いに行ってたけど何があった!?
「あぁご愁傷様だね」
えっとどなたですか?
「まぁ異世界転生の冒頭だと思えば理解早いんじゃない?」
はっ?
「いやだから異世界転生だよ?君の世界で流行ってるやつだけど知らない?」
いや知ってますよ。
なんか事故ったりブラック企業のおかげで死んだ主人公がクッソ強い能力を手に入れて活躍するジャンルでしょう?
結構読んでますけど個人的には料理系の転生とか勇者寝取り寝取られものなんかの方が好みなんで読む数は減りましたね。
「あっチートって言わないんだね?」
チートは改竄って意味ですから、ちょっと違うんじゃないかと思ってます。
まぁ神様に弄られたり、本来の精神が死んだりして前世の記憶を突然取り戻すってのは確かのは改竄に近いとは思いますけどちょっと違う気がするんで。
「面倒くさいね君って……まぁ説明するとブラック企業の疲れから心臓発作起こした普通自動車に潰されて即死したって流れだね」
まさかそういう流れですか。
まぁ俺はブラック企業じゃなかったんで過労死なんて無縁でしたけど、まさか巻き込まれ系統の即死転生とは思いませんでした。
むしろ心臓発作起こすほどに働かされたあげく人一人ひき殺した運転者の遺族とか大変でしょうね。
俺は結婚してませんけど仕事場からしっかりとした保険に入れられてましたし、親はがめつい性格だったのでむしり取るでしょうし。
「いや不運なの君だからね」
ん?
「言っちゃ悪いけど君って事故死なんだよ」
車に潰されて事故死ですよね?
「あぁ言い方が悪かったね、その運転手の心臓発作が本当の転生でそれに巻き込まれた事故死なんだよ」
あらま。
「困った事にそれがね、この世界とは違う異世界の神が面白がって予定外の死を作ったんだよ」
それって殺人じゃないですか?
「人間に例えると子供がアリを興味本位で踏み殺すようなものだよ、罪の意識なんてない」
……心臓発作した運転手は?
「うーん調べる限りだと適当な嘘に騙されて異世界でよろしくやってるね、ブラック企業から逃げたいって意志が元の世界への意思を断ってる」
つまり、殺しても問題ないから殺して、適当な話で騙してって事ですか?
「異世界転生なんてそんなものだよ、どんなに殺しても殺された側が告発するような事態にならないように調整してるからね」
悪い事では?
「言っただろ罪の意識なんてないって、君達人間だって赤信号無視したからって罪の意識に飲み込まれるかい?」
それはそうですけど。
「だからさ、君も親とは上手くいってなかった無縁仏な人生だったんだから元の世界の事なんて忘れて良いんだよ」
忘れたくないですね。
「元の世界の記憶があるってのは、厳しいよ」
どうしてですか?
「倫理観とか貯めこんでたストレスとか価値観があるからね、強い力を得たりすると暴走しがちだろ」
いきなり黒とか茶色の髪のない世界とかだとストレス凄そうですもんね。
身分差別とかそんなのが横行してると抵抗したくなりますけど、全てが悪いと決めつけるのは駄目ですし。
「だから本当なら記憶なんてなかったり、途中で意識を覚醒させてその異世界特有の倫理観を学んだ自我を混ぜた方が良いんだよ」
抵抗なく異世界を受けてれる土台ですね。
「そうそう、ある意味ではチートものの最大のチートは受け入れる精神を事前に作っておく事だよ」
成功する道筋ではなく?
「どんな強い力も使うって覚悟がなければ意味ないよ、チートしたからって常にそのデータを使う訳じゃないだろ?」
あぁ特定のモンスターを討伐する為だけに使うってタイプなんかありますからね。
一体に何十分も強要されるのを嫌がってる人向けって売り文句ありましたよ。
確かにそういうタイプなら、それだけの為だ!って自分に言い訳できますし実際に使う機会も節制しますね。
「そっ物語に必要なのは方向性さ、だから君にもチートを授ける為にあえてこうして会話してる訳さ」
問答無用系統じゃなくて助かりました。
「それするとチートで報復してくるタイプもあるからね、ほら復讐系の終着点って悪巧みの神になるパターン多いだろ?」
あぁ判ります。
召喚チート系統で進んでいくと神様が絡んでたりして、よし神殺しだってなりますから。
しかもチートが成長したりして神様が負けたり殺されたりと神様にとっては碌でもない結果になりがちですかね。
「私はそういうのを嫌だからね」
じゃあそろそろお別れなんですね。
「残念だけどそろそろだよ」
チートってどこまで出来ますか?
「イメージするか言葉で表してくれれば叶えるよ、不都合なら叶えないだけだし」
出だしで挫くのは嫌ですねぇ。
「今どきの異世界転生ものはスタートから勝ちまくらないとダメだしねぇ」
ヌルゲーというか、スペックの暴力で押し進める系統ですよね。
博打系統も好きなんですけど、俺の運気だとガチャは最高レアが一生当たらずに詰みそうですし。
あぁ進めてたゲームも完結見れず、爆死してきた課金も無駄になったと思うと涙が出てきますよ。
「完結しない物語も良いけど、やっぱりエンディングが欲しいよね」
そうですね、やっぱり起承転結がしっかりしてエンディングがあるのが好きです。
あぁでも連載が続いている系統でも一話完結型なんかは例外ですよ?
長く続いているけど完結はしているので、書籍の続編見たかったなぁ。
「ほらほらボヤかないでチート決めて決めて!名残惜しくなっちゃうよ」
じゃあ言いますね。
「あぁ言いなさい哀れな人間だったものよ、慈悲と哀れみを持って未来に祝福を与えよう」
【俺を事故死させたくそったれな異世界の神様に然るべき報いを
事故死した運転手と俺の家族の未来にどうかささやかな祝福を
そうこの明確な計画殺人を元の世界の神様が重く捉えて行動を】
「……良いのかい?」
計画殺人は裁かれるべきです。
隠蔽は明るみになるべきです。
俺達の命はアリのようにちっぽけでも、あぁ納得出来ないって気持ちがあります。
殺しておいてヘラヘラとしてるなんて考えるだけで虫唾が走ります。
悪い事なら裁かれるべきです。
……そして遺された人達には少しでも救いがあって欲しいです。
だって俺をひき殺した人は殺人をさせられた被害者なんですから救われて欲しいです。
「……聞き届けた、君の世界の神様に今回の件について色々と相談して必ず報いを与えるよ」
アリでも踏み殺したりしたら、一度は叱らないといけませんから。
たとえそれが無意味に思えるものだとしても、命は大切だって教えないといけませんし。
アリだった怒らせると身体を這いずり回って噛みついたりして怖い生き物でしょう?
品種によっては人間だろうと殺しますから、上手く願いが叶えば大変でしようね。
「ふふっ神たる存在にアリの恐ろしさは判らないが、知るには良い機会かも知れないな」
あぁ眠くなってきました。
「それは死だ、転生を選ばなかった君の魂が何もかも無くして転生という死を迎えるんだ」
ぁぁ忘れたくない。
こんな最後の記憶を無くすのは嫌ですね。
「記憶を残したいのか?」
いいえ、忘れずに死にたいんです。
死ぬことは良いんです、それが運命だった言い聞かせられます。
でも言い聞かせる為のこの記憶を忘れたくないんです。
「……慈悲を持ってそれに答えよう、その最後は安らかであると」
……ずるいなぁ。
「……ぁぁ本当に残念だよ、どうして転生して欲しい善き者に限ってそうして逝くのか」
……昼寝が好きなだけ。
「消えた魂に敬意を表して最後に一つだけ真実を告げよう、善き者である君に生きたいと思わせるための嘘だったんだ
あぁどうして善き者ほど自分の幸せを願わず逝ってしまうのだろうか、どうすれば君のような者達を救う事が出来るだろうか
私はただ……そうただ……人生というものは地獄ばかりではないと知ってもらいたいのに、生きていくという幸せに気付いて欲しいのに」
神はそっと消えいく魂の火を握り締めて、そっとまた開くと新しい火が弱弱しく灯っている。
「おっと君は異世界転生について理解が速いね、さては読み漁ってるのかな?」
慈悲と哀れみの嘘は続く。
救いたいと思う魂が世界から無くなってしまうその瞬間まで。
人生という地獄の底から落ちてきた魂に。
人生という未来をもう一度選び取らせるやり取り。
救いたいと思う気持ちが嘘になるその時まで、それは嘘ではないのだから。
慈悲があるが故に真実を告げなかった神様。
人間は何処までが本当か嘘なのかは知らない。
無縁仏な人間が本当に欲しかった最後は楽しく話ながら誰かに見送られるというもの。
そんな魂を救いたいからと掬い上げる神様は善き魂と出会う限り人間を見限りはしない。
救われてたのは、救ったのはどちらのか?