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 先程まで見えていたフェンスやコートの緑色は消え、道を歩いている人の雑踏に消えていったようだった。近くに公園があるのか、植林されている大木も見えた。連なっているが、それが緑色だとは到底思えなかった。


「春海と同期ってことは、同い年ですよね?」

「はい」

「午前中は会社で働いてるんだっけ?」

「働く日もありますし、働かない日もあります。合宿とかもそうですし」

「へえ」


 藍佳は端的な口調だった。俺に興味がないのはすでに分かっているが、それでももっとこう場の雰囲気を盛り上げるとか、空気を読むとか考えないのだろうか。居づらい空気だ、早く過ぎないのかなとか、俺だったら真っ先に思う。今もそう。早く駅に着けと。というか、まずこういう空気になるだろうことを想像してそもそも行かないし。


 沿線ぞいに歩いているせいか、電車が何度か轟音を鳴らしていった。彼女が口を開いたのは、ちょうどそれと重なった。「え?」と俺が聞き返すと、彼女はわざわざ止まって答えてくれる。頬には皺ひとつ寄せず、凛々しい目つきでただ一言。


「私あなたのこと嫌いです」


 好きになれないとかじゃなく、嫌い。それを面と向かって言える。俺はちょっと戸惑ったと思う。え、どうして? 俺なんかしたっけ? という態度で口ごもっていた。


「私、先に行きますね」


 時間は、夕暮れだった。今という時間が一生訪れないのはかけがえのないものだと神様が教えるためなのか。過ぎ去った時間として、彼女のラケットバックを背負った後姿は、だんだんと遠く、小さくなっていった。


 なんとなく空を見上げる。


「東京の空は見えないこともないんだな」


 早く駅に着きたいと思った。さっき思ったのとは別の意味で。


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