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ヒヨドリが子育てしていった話

作者: 海老フライ

 2018年の7月の初めの頃です。

 毎日、頻繁にヒヨドリの鳴き声が聞こえるようになったんですよね。あの独特のピィーヨピィーヨと言う甲高い鳴き方をする鳥の声です。

 うちの近所では、今までも割とヒヨドリの姿は見かけることがあったので、いつもの事かなくらいに思っていました。


 ある時、母が気付いたんですね、うちの庭の木の枝に巣が出来てるよ、と。

 最初は何の鳥の巣なのかわからなかったんですが、どうやらヒヨドリが来ていると。

 実際、2階の窓や木の下から巣作りしてるのが見えたんです。

 巣をよく観察してみると、巣材に木の枝はわかるんですが、他にもどこからか取ってきたのか釣り糸と思しき物も使っていました。

 釣り糸の方は使いにくいのか、風とかで取れてしまったのか木の下にも結構落ちていたりしました。


 そんな感じで、うちの木で巣作りするのか、と驚いたり興奮したりしたんですが、疑問に思うこともありました。

 巣と2階の窓との距離が近すぎるんですよね。

 それこそ窓を開けて手を伸ばせば巣に触れそうなぐらいの近さなんです。

 流石にここで雛を育てるのは鳥目線で言えば危険なんじゃないかと。


 野鳥というのは警戒心がかなり強い生き物です。

 スズメも時々ウチの庭木に来るんですが、庭の前の道路を人が通るだけですぐに飛び去ってしまう、その位は警戒しているというか臆病なものです。


 ところが、巣を作ったのが窓からかなり近いところだったので、これは巣を放棄して別の所に作るのではとか、ただ単に練習台に作ってみたんじゃないかとか思っていたんです。

 実際、1週間くらい巣を手入れにも来ない時期があったので、別のところに作り直しに行ったんだろう、そう思っていました。


 ある日、しばらく聞こえてこなかったヒヨドリの鳴き声が、また聞こえるようになったなあと思っていたら、いたんです。巣の中に親鳥が。

 窓からだと葉っぱに遮られて、かなり見にくいんですが親鳥の目が見えたりもしました。

 それで、親鳥がいない時に巣の中を見ると卵がある、少なくとも2個以上はありそうでした。


 いよいよ卵を温め始めたみたいだけど、今後どうなるんだろう、そう思ってネットでヒヨドリの子育てについていろいろと調べてみました。

 1つの巣に卵を大体4個くらい産むこと、卵を産んでから孵化するまでに14日間、卵が孵ってから巣立ちまでに10日間程度かかるというのが書かれていました。


 いつ卵を産んだのか正確な日はわからなかったんですが、それからほぼ2週間のあいだずっと暑い日も雨の日も卵を温めてるんですよね。

 なかなかヒヨドリも大変だなあという気がします。エアコンとかないわけですからね。


 そうやって毎日、時々巣の様子を観察していると巣の中に何か動くものが見えます。

 先程も述べたとおり葉っぱに遮られて、ほんの隙間からしか見えないんですが孵ったばかりのヒナの姿が見えました。

 孵ったばかりのヒヨドリのヒナは、いわゆるヒヨコのヒナのようなのではなくて、羽毛も生えてない目も開いていないで皮膚がむき出しの、かわいいというよりは少しグロい感じの見た目です。

 確かにテレビの向こうの場合だとグロさしか感じないのですが、実際に眼の前で生きているのを見るとまた違うんですよね。

 体をふらふらっとさせていて姿勢を維持するのもおぼつかない、か弱いのを見ていると、段々と愛着というか庇護欲めいた気持ちも湧いてきてしまいます。不思議なものですね。


 ヒナも最初は1羽しか姿が見えなかったのが、数日すると4羽に増えていました。

 親鳥が餌をやる様子を眺めていると、よく電線の上でひっきりなしに鳴いてから巣にやって来ます。

 巣の位置を知られるとカラスなどに狙われて危険なので、必ず周囲を警戒してから飛んでくるのが習性みたいですね。

 同じように匂いで巣が見つからないように、糞もヒナが4羽もいるのに1個も巣の下には落ちていません。

 どこかに持っていって捨てているみたいですが、1回だけしくじったのかうちの網戸にくっついていました。よほど慌てていたのでしょう。

 人間でもきつく感じるような暑いときでも、大雨が降っているときでもヒナをきちんと守って世話しているのを見ると、親鳥には本当に恐れ多いというか敬意にも似た感情が湧いてきてしまいます。


 親鳥がいない時でもヒナは、たまにピィー、ピィーと小声で鳴いていたり、あるいは見ているこちらと目が合ったりしてしまうと、つい頑張って育てよ~と応援したくなります。

 親鳥がエサを持って来ると、大騒ぎといった様子で、鳴きながら黄色いくちばしを精一杯広げて、全力でアピールしていたりと観察していると本当に飽きません。


 数日もするとヒナはぐんぐん成長してきます。

 親のエサ取りがうまいのか、うちの庭が虫の天国状態だったのが功を奏したのかはわかりませんが、無事に4羽とも大きくなってきているようでした。

 巣立ち間近にもなると大きくなりすぎたのか、上から巣を見るとだいぶ大盛りてんこ盛り状態で、下から見るとおしりがはみ出しているのが見えます。


 8月1日のことです。

 朝から非常に鳴き声がするので、どうしたのかと1階の窓から外を眺めると、物干し竿にヒヨドリが止まっています。

 よく見ると若干もこもこしていて、どうやらヒナが巣から出たばかりのようでした。

 もっとよく見てみたいと、1階の窓を開けて頭を出した瞬間。

 

 ピピピピピピピピッッッッと激しく鳴きながら親鳥が、文字通り目の前で両翼を大きく広げ、ホバリングしながら威嚇してきたのです。

 

 巣立ちの邪魔はさせない、という強い意志を感じました。

 必死なところを刺激して申し訳なかったと反省しました。


 窓から頭さえ出さなければ、威嚇も何もしてこないので良しと判断して、部屋の中からそっと観察を続けました。

 見るとヒナが3羽、巣から出て木の枝や物干し竿なんかを行き来していました。

 残りの1羽は、前日にもそれっぽいのが外にいるのを見たので、すでに巣立ったのでしょう。


 地面を見ると、巣から出たせいなのか、もうこの場所に用はないのか、真新しい糞がたくさん落ちていました。

 まあ、今日1日限りでしょうし、大目に見ましょうといったところです。


 しばらくしてから見ると、残り1羽だけになっていました。

 そのヒナは体も一番小さく、尾羽もまだちょっぴりしか生えていません。

 親鳥がばんばんエサを持ってきていましたが、さすがに一瞬で育つはずがありません。

 うまく飛べないのか、地面に降りてしまっていました。

 様子を眺めていたら、なんとか数メートル位ずつ飛んでを繰り返して木に戻りました。一安心です。

 結局その日に巣立たせるのは無理だったようで、巣のあった木に一晩中止まっていました。


 次の日に見ると、もうそのヒナもいなくなっていて、親鳥も来ませんでした。

 巣立ちは終わりました。

 ちなみに1ヶ月ほどは親鳥は若鳥となったヒナを連れて、移動しながら育てるようです。

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