旅行の終わりに
三階建ての建物がすっぽり収まるほど高く広い室内。
壁はほぼすべてが書棚になっていて、びっしりと書物が収められている。そこかしこに高いのやら低いのやら様々な大きさの棚がひしめいて、それらの間に閲覧するためのテーブルや椅子が配置されていた。
王立図書館の大閲覧室だ。
もっとも広さはここだけにとどまらず、他にもいくつか部屋がある。地下には古く貴重な書物が隠されていて、建物には入れる貴族であっても簡単には近づくことはできないらしい。
「ま、そこにこそ僕の知りたい情報があると思うんだ」
というわけで、こっそり忍びこんでいくつか拝借してきた。
まだお昼で人はまばらながらいるのだけど、人除けの結界を張るまでもなく、こちらへの認識をずらす魔法で楽に侵入できたし大胆に居すわれている。
「さすがに埃っぽいですね。陰干しは定期的にしてほしいものです」
レイラはきれい好きなので不満顔だ。
広いテーブルの上に山積みになった本の数々は、古いといっても前世の僕が生きていた時代――だいたい二百年そこら昔のものだ。
ここに聖眼や魔眼についての詳しい記述があればいいんだけど。
しばらく僕は書物を読みふけっていた。
ちなみにシャーリィもここにいる。
眠そうなファルを抱えつつ、隣に座るアウラに本を読み聞かせていた。退屈じゃないのかな、と危惧していたけど、わりと楽しそうだ。
ついでに言えば、ルネリンデは仕事場に戻った。
そしてタマは僕の足元で寝ている。
……にしても、ないな。
深層解析で聖眼や魔眼に反応したものをあらかた集めてきたのだけど、書いてあるのは知っていることばかり。
間違っていたり誤解していたりする記述も多く、あまり参考にはならなそうだ。
一緒になって調べているレイラも表情が冴えない。
やっぱり魔法そのものが衰退した今の時代では、古い記述をあたっても期待する成果は得られないのだろうか。
気分転換に外の空気でも吸いに行こうかな、と考えていたときだ。
「――そうして王様は、未来を識る方法を探すための旅に出るのでした」
シャーリィがふぅっと息を吐き出して、本をぱたんと閉じた。
アウラに読み聞かせていた物語が終わったようだ。
「まだ続きがありそうな終わり方だね」
僕が声をかけると、シャーリィの笑みに合わせてアウラの枝状の腕がしゅるしゅる伸びた。本を一冊、巻き付けてある。
「うん、まだ続きがあるみたい」
「どんなお話なの?」
「貧しい男の子が不思議な力で王様になるお話」
成り上がりモノか。貴族が嫌いそうな話だけど、ちゃんとそういうのも置いてあるんだね。
ん? ちょっと待てよ?
「不思議な力……未来を識る?」
「まだそこまで強い力にはなっていないみたい。もっと未来を知りたいから、国を離れて探しに行くんじゃないかな?」
「……エルフの王様?」
シャーリィとアウラは同じように首を横に振る。
どうやら人族の王様らしい。
「ちょっと見せてもらっていいかな」
本を受け取り、ぱらぱらめくる。
うん、人族の英雄譚っぽいお話だ。魔法とは違う不思議な力で、降りかかる難題を次々に解決していく感じ。
ご都合主義的な解決方法が多いのは、不確かながら強力な彼の力の為せる業、ということか。
「これ、リディアの話じゃないかな?」
物事の本質を見抜く『眼』を持っていた、エルフの英雄王。
未来視ほどではないにせよ、シャーリィの持つ〝導く者の聖眼〟の元になった人物のお話だ。
彼の持つ聖眼よりもシャーリィのものは強力だ。
そもそも種族すら改変された架空の物語である。
でも彼の行動や私生活の様子が知れれば、その聖眼を制御する方法のヒントが見えてくるかもしれない。
「似たような物語も含めて、王立図書館にあるのは片っ端から読んでみよう」
とはいえ、もうじき陽が暮れる。
僕は急いで目的の本を選び出し、収納魔法でちょっとだけ拝借させていただいて。
「じゃ、そろそろレイナークへ帰ろうか」
いつまでもシャーリィを連れ出していたらブルモンさんが寂しがるからね。
「またしばしのお別れですね。お姉ちゃんは寂しいです」
レイラはまあ、きっとすぐ会えるさ。
さて、街へ戻ったらいろいろやらないと。
シャーリィの眼についてはもちろん、捕まえた魔界族から情報を得て、彼らの悪だくみを止めなくちゃね――。
第四章はこれにて終幕です。
五章では魔界族の陰謀が明るみに。レイナークの街が大ピンチかも!?
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