街で遊んだ
王都へ戻ると、シャーリィたちはお買い物を楽しんでいた。
女性向けの服屋さんできゃっきゃと騒いでいる、のは主にルネリンデ――ルネだ。
早速気に入った服を選んだのか、ふりふりのミニスカートに肩が膨らんだ半そでシャツ。メイド服姿より露出が多かった。
「にゃは~♪ やっぱカジュアルなのも似合うと思ったんだー」
試着室から出てきたシャーリィはカジュアルというか大胆なミニスカートを穿いていた。色は鮮やかな赤。すらりとした白い肌に映える。そして上半身は薄ピンクのノースリーブと、全体的に露出が高かった。
さすがは都会。垢抜けている。
「ど、どうかな?」
感想を求められ、素直な言葉を口にする。
「うん、すごく似合ってるよ」
実際、似合っていた。
手足が細いからお人形さんみたいだ。ゆったりした清楚な感じの服を好む彼女にしては思いきったなあ。
シャーリィは珍しく頬を赤らめ、はにかんでいた。
感情をなかなか表に出さない彼女だけど、感情そのものの起伏が乏しいわけじゃない。
遠出も街での買い物も、彼女にしてみればあまりしないことなので、気分が少なからず高揚して感情面に影響を与えているのかも。
なんて分析をするのは無粋だな。
今は僕もこのひと時を楽しもう。
別の試着室のカーテンが開かれ、レイラが出てきた。
「クリス、わたくしの装いはいかがでしょう?」
「ぶはっ!?」
思わず変な声が出てしまった。
「メイド服もよいですが、戦闘中はこちらのほうが動きやすそうです」
動きやすくはあるだろう。
なにせほぼ下着だ。
肩や腰に申し訳程度の鎧の一部が付属しているけど、胸と股間周り以外はほぼ褐色の肌を晒していた。戦闘用の服が置いてある雰囲気の店じゃないので、ファッションなのかな? 不思議だ。
「いかがです?」
くるりと半回転し、またも僕は驚いた。というか呆れが半分だ。
お尻、丸見えじゃない? 正面の布地もかなり少なかったけど、後ろは紐でしかない。
「レイラお姉ちゃんはスタイルがいいから似合っているけど……なんか複雑な気持ちになっちゃうかな?」
下手に褒めたらメイド服のときみたいにずっと着てしまいかねない。言葉を濁してみたところ。
「ふっ、なるほど。お姉ちゃんのあられもない姿を他者に見せるのが嫌だとおっしゃる。『見せるなら僕だけにして!』との独占欲に塗れた複雑なその想い、しかと受け取りました!」
なんだかよくわからないけど、そういうことにしてもべつにいいや。
メイド服に着替えるらしく、再び試着室にレイラは戻った。
「んじゃ、次は君だね~」
ルネが手をわきわきさせる今度の標的は、
「ァゥ……」
迷惑そうに佇むアウラだ。
「そんな嫌がんないでよー。大丈夫、ちょっとだけだから~」
救いを求めるような目でこちらを見るアウラ。
「試しに着てみなよ。気に入らなければまた着替えればいいんだし」
アウラは渋々といった感じでルネに引っ張られて試着室へ入った。
シャーリィがタマを抱え、頭の上にファルを乗せて寄ってくる。重くないのかな?
「ルネさんって楽しい人だね」
「ちょっと強引なところはあるけどね」
そうだね、とくすくす笑うシャーリィは本当に楽しそうだ。
連れて来てよかったな。
と、シャーリィのほうから『くぅ~』と小さな音が鳴る。
かあっと顔中真っ赤にしたシャーリィに知らず頬が緩んだ。
「そういえばお昼がまだだったね。ちょっと過ぎちゃったし、ここを出たら昼食にしよう」
そんな提案に反応したのは試着室の中だった。
「え~? クリス様がまだじゃないですかぁ」
「いや、僕はいいよ」
「一人だけ除け者というのはよくありません。ええ、クリスもこちらで試着してみるべきでしょう」
「待って。ここで?」
何度見回しても女性物しか置いていなさそう。
僕が反論する間もなく、
「じゃーん! クリス様、キュートなアウラちゃんをご覧あれ~」
アウラは髪と同色のピンク系のファンシーな衣装だ。裾の波打つスカートが、ほぼ真横に拡がって太ももが露わになっている。上は薄手の長袖で、わりとぴっちり肌に張り付いていた。
小柄な彼女がより幼く見える。
「……ゥ」
アウラは照れているというより動きにくくて嫌そうだ。
「可愛いよ、アウラ」
「ァゥ? ゥゥ……」
あ、でも褒めたらちょっと照れちゃった。
メイド服に戻ったレイラが出てくる。
「さて、いよいよクリスの番なわけですが」
「本気? 女物なんて着たくないよ」
「それはそれでアリですが、心配なさらずとも少年に近い服もございますよ」
などと言って店内をするする移動して帰ってくると、
「ささ、こちらを。わたくしのチョイスをご堪能あれ!」
折り畳まれているのでよくわからない。
スカートだったら絶対に穿かないからね、と固く決意して試着室に入り――。
着替えて出てきたわけだけど。
「むほぉ! これはぁ!」
「にゃはぁ! 可愛い~」
スカートではなかった。それはまあ、いい。けど……。
僕の出で立ちは股に限りなく近いところまでしかないショートパンツ。
上は白い半そでシャツで、短いネクタイをきゅっと締めている。
「レイラさん、マジショタ好きだったんですね!」
「無粋なカテゴライズで評価してほしくはありませんね。わたくしはクリスの容姿にもっともふさわしいものを選んだにすぎません。ええ、これは世界の摂理です」
よくわからないことを力説するレイラに、ため息が漏れる。でも、
「クリス、可愛いよ」
にっこり笑顔のシャーリィに言われたら、呆れ気分が吹っ飛んでしまった――。
ところで。
この後は着替えて昼食を取ったのだけど、ずっと僕の耳には苛立たしげな声が聞こえていた。
『早く襲わんか!』とか。
『今だ! 背後から刺せ!』とか。
『なぜ私の命令に従わない!?』とか。
うるさいったらない。
その都度小声で『無理です』とか『態勢がちょっと……』とか『聞いてますよ?』とか返してたんだけど、誤魔化せたかな?
ていうか、早く仲間のところに行ってくれないかな?
そうしたら一網打尽にしてあげるのに――。
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