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呪刻印の転生冒険者 ~最強賢者、自由に生きる~  作者: すみもりさい
第四章:王都への小旅行は楽しい
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魔界の敵が現れた


 王都から北へ少し離れた森の中。黒い渦が大樹に張り付いていた。


 近寄ると、キィンと涼やかな音が響いて目の前に細い糸が現れた。無数の糸が大樹を囲うように張り巡らされている。


 レイラの結界だ。魔界門の成長を抑制しつつ、誰の侵入も許さない。

 彼女は近接戦を好む一方で、あらゆる魔法技術に長けていた。回復魔法だけは『必要ない』と切り捨てているけどね。

 この結界も見事なものだ。


 さて、いかに強力な結界でも『解呪の聖眼』なら詠唱もなく破壊できる。

 目の前の糸に手をかざし、右目に魔力を集めようとして――やめた。わずかにだけど、結界に綻びがあるのに気づいたからだ。


 代わりに『深層解析ディープ・アナライズ』を発動する。


 うん、やはり僕がここへ来る前に、結界の解除を試みた形跡があった。


 何食わぬ顔で詠唱を始める。誰にも聞こえないよう、口の中でもごもごする感じ。

 ディープ・アナライズでの解析はわずかな時間で、誰かが覗き見ていたとしても一連の流れに不自然がないよう注意した。


 僕は俯瞰視点で〝僕〟を見下ろす。

 右目は使わず、破壊術式を結界にぶつけた。

 パキパキパキィン、と無数の糸が断ち切られていった、直後。


 ずぶりと、〝僕〟の背に鋭い剣の切っ先が突き刺さった。切っ先は体を貫き腹から飛び出す。


「ふん、なんとも呆気ない」


 剣を抜き、前のめりに倒れた〝僕〟の体を踏みつける男。

 頭部に牡牛のような角が二本生えている。青みのある肌に、鱗で覆われた太い尻尾。


 王都へ向かう途中に僕たちを襲ったゴーレムが持っていた、狙撃用の武器を作った男と容姿が合致する。

 名は『ビム』で、僕の周りでいろいろ悪さしていたのは彼で間違いない。


「まあ、これほどの結界を破壊するのに注力していれば隙も生まれるか。けっきょく何者かは知れなかったが、憂いのひとつは絶った」


 どうやらディープ・アナライズを行使していたのはうまく誤魔化せたようだ。

 今も発動中なんだけど、僕の魔力が漏れて気づかれないよう結界を張りつつだから、深くは情報が読み取れない。呪印があるとキツイなあ。


 ビムは魔界門に近づき、〝あな〟の中に手を入れる。自身の魔力で活性化させたので、魔界門がわずかに広がった。


「まったく面倒なことだ。グレモリの奴め、私にこのような雑事をさせおって」


 どうやら仲間がいるらしい。仲良くはなさそうだけど。

 にしても、ぺらぺらとよくしゃべるなあ。僕としては楽でいいけどね。


「残る問題はメイド服のダークエルフか。あの戦闘力と私にも解けぬ結界を構築するほどの魔法力は侮れぬ。こんな小僧などよりよっぽど、なっ」


 踵を返して〝僕〟を蹴りつける。


「さすがはあの男(・ ・ ・)が作り出した人造人間(ホムンクルス)か。しかし、いずれ頭の中身をいじくって我が手足とするのも一興だな」


 驚いたな。レイラがどういう存在か知っているのか。ホムンクルスとは厳密には違うんだけど。


 そう、ホムンクルスっていうのは一から肉体を作って疑似的な魂を入れたもの。ちょうどそこに寝転がっている〝僕〟みたいなね。

 土と落ち葉を使って即席で作ったものだから魂すら入っていないものだけど。


 レイラの結界を破壊する直前に入れ替わって、今の僕は樹上から眺めているのに彼はまったく気づいていない。


 ん? ビムが立ち止まって考えこんでいた。足元に転がる〝僕〟を見つめている。


「ほう……この小僧もホムンクルスだったのか」


 あ、バレちゃった。と焦ったのは一瞬。


「ああ、これは面白い。我ながら妙案が浮かんだものよ」


 ビムは再び魔界門へ歩み寄り、片手を突っこんだ。もう一方の手のひらを上に向けると、赤黒い球体が現れる。


 それを〝僕〟めがけて放った。赤黒い球体が〝僕〟に吸いこまれていく。

 魔界から魔力を調達し、ホムンクルスの疑似魂を自身の指揮下に置く術式だ。高度なものでありつつ、かなり雑な作りなのは横に置くとして。


「……ん? どうして動かない?」


 そりゃあベースとなる魂が入ってなかったからね。それにすら気づかないなんて……まあ、いいか。

 僕は指先をくるりと回した。僕から見てビムの向こう側の茂みがガサリと揺れる。


「ッ!?」


 彼があっちを向いた隙に、ホムンクルスに術式を飛ばす。魂を作ったりはすぐできないので、ここから遠隔操作するものだ。


「風か……?」


 そう考えてくれたらしく、〝僕〟へ顔を戻した。

 むくりと〝僕〟を起き上がらせる。


「む? 動いたか。私の声は聞こえているな?」


「……はい」と〝僕〟が答える。


「貴様はあのダークエルフと懇意にしているようだったからな。奴と合流し、隙を見つけて殺せ。方法は問わぬ」


 えぇ……。もっと具体的に指示してあげなよ。てかレイラがそんなのに騙されるわけないし。


「……承知しました」


 とりあえずそう答えておく。


「くくく……、奴さえ始末すれば計画は成就したも同然。今度こそセイバルの鼻を明かしてくれるわ」


 セイバル? もしかして前世の僕の執事長かな?

 今も生きてなんらかの活動をしているのはレイラやルネリンデの話から知っているけど、魔界族に一目置かれる立場なんだろうか?


 ビムは哄笑を上げて走り去った。

 魔法力で言えば第二冠位まで扱える、かつての魔王に匹敵する強さなんだけど……ちょっと抜けてると評価せざるを得ない。


 けっきょく〝僕〟に施した『遠見魔法クレアボヤンス』の起点術式をその身に移されたのにも気づいてなかったな。

 気づかれないようにしたのは確かだけど、簡易詠唱で作ったものだからハラハラしてたのに。


 しばらくしてから、ぽつんと残された〝僕〟のところへ降り立つ僕。

 彼の術式には遠隔から命令する部分(要は通信系魔法)があったので、それを抜き出して手元に構築する。これで彼の指示は僕に届く。


「お疲れさま」


 声をかけると、元の土と落ち葉になってその場に崩れた。


 ビムが何を企んでいるのか。

 彼の仲間は誰で、どこで何をしているのか。


 彼を監視していればわかるだろう。しばらく泳がせておくかな。


 右目に魔力を集め、解呪の聖眼を発動。魔界門を消し去る。

 そうして僕は王都への帰路についた――。


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