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呪刻印の転生冒険者 ~最強賢者、自由に生きる~  作者: すみもりさい
第四章:王都への小旅行は楽しい
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お医者さんを訪ねた


 がらごろとのんびり箱馬車は進む。


「にゃししし、にゃ、にゃにゃししし!」


「にゃはは♪ もふもふして気持ちいい~」


 イビル・マーブル・タイガーのタマが、猫耳メイドなルネリンデ――ルネに細長い尻尾で拘束され、もふもふされている。とてもくすぐったそうだ。


「ルネリンデ、大切なお話の最中ですよ? ふざけるのはやめなさい」


 レイラに窘められ、ルネは「はーい」と返事をしてぎゅっとタマを抱きしめた。今度はとても苦しそうだ。


「しかしクリスを直接狙ってくるとは、なんと愚かな」


「魔界の魔族……っていうのはこっちの魔族と区別がつかないな。魔界族とでも言っておこうか。彼らの仕業には違いないね」


「特徴はつかんでいるのでしょうか?」


「深層解析でわかる範囲ではね。竜人系の人に近い容姿だよ」


 僕は解析結果のイメージをレイラとルネの脳に飛ばした。


「若い男性タイプですか。青みのある肌に、二本の頭角。太い鱗のある尻尾も特徴的です。見れば一発でわかりますね」


「いや、姿は変えている可能性が高いかな」


「だったら見てもわかんないですね~」


「僕を狙った男は慎重で狡猾だ。『低級刻印』を偽装して一般人に成りすましているんじゃないかな?」


「刻印持ちにしては魔力の高い者が怪しい、とクリスは考えているのですね?」


「うん。少なくとも仲間の誰かにそういった者がいると思う」


「なるほど。たしかに状況からして一人とは限りません。こちら側でも数名、そして魔界とも連携して事に当たっているのでしょうね」


 僕は大きくうなずく。


「しかし、連中は何をしでかそうとしているのでしょう?」


「仲間の誰かを捕まえられれば目的は知れるかもね。まあ、ひとつ推測していることがある。王都へ来たのは、それが正しいか調べるためでもあるんだ」


 レイラとルネが目をぱちくりさせる。


「さすがはクリス。わずかな手がかりから先の先を読むその慧眼、恐れ入ります」

「さっすがクリス様ぁ♪」


「まだ推測の域を出てないよ。間違ってたら最初からやり直しだ」


 ともかく、と僕はうつらうつらしていたシャーリィに視線を移す。


「まずはシャーリィの眼を診てもらおう」



 やがて箱馬車が止まった。

 降り立ったところは大通りから一本裏手に入った道で、王都の中心部と城壁の中間くらいの場所だった。


「名はペトロ・セチュワ。貴族家の四男坊で低級刻印はありませんが、医療と魔法の研究に没頭するあまり勘当に近い状態で追い出された変わり者です」


 レイラの説明だ。


 ルネと彼女に捕まっているタマを馬車に残し、路地を抜けて人通りが少ない小路に入る。

 一か所だけ十人ほどの人たちが集まっているところがあった。

 彼らの頭上、壁にくっついた小さな看板には『セチュワ医院』と書かれている。


「並んでいるのかな?」


「いえ、特に用もなく集まっている者たちです」


 レイラは構わず扉を潜る。魔物連れを怪訝に見る中、僕たちはレイラに続いて中に入った。


 小ぢんまりした受付ロビーにも数人が座っておしゃべりをしている。

 みな健康そうなので、受診しに来たのではないらしい。


 受付のおばさんにレイラが名を告げると、あっさり奥へと通された。

 さほど広くはない部屋に、壁いっぱいに本棚が置かれている。本はそこにびっしり埋まったものだけでなく、床にも机にも散乱していた。


 いちおうベッドも置かれているけど、診療室というより研究室といった趣だ。


「おや? レイラさん……ああ、昨日の今日でもういらしたんですか」


 椅子から立ち上がって迎えたのは二十代半ばと思しき青年だ。

 ぼさぼさの頭を掻きながら、ひょろりとした長身ながら猫背でレイラの目線と同じ高さになる。

 この人がペトロさんのようだ。


「先日話したときもでしたが、あまりやる気がないようですね」


「えっ? ああ、いやその……僕が『不思議な力を持つ眼を研究している』って話が広まっているみたいで、このところ『私も』『僕も』って人が多いんですよね。で、まあ碌なのがいなかったというか……」


 聖眼や魔眼はそこらにいるものじゃない。低級刻印が世界的に現れるようになった今ならなおさらだ。そのせいで聖眼や魔眼の力そのものが抑えられるのだから。


「で、えっと、レイラさんが話していた少女とはこの子ですか?」


 ペトロさんは僕に目を向けた。


「いえ、彼女です」


「これは失礼。君は男の子でしたか」


 ペトロさんは猫背をいっそう丸めてシャーリィの目を覗きこみ、


「へえ、目の色がなんだか面白い…………んん?」


 カッと自身の目を見開いた。


「な、なんですかこの魔力のパターンは? え? これもしかして、嘘! ホントに!?」


 身をひるがえして本棚のひとつに駆け寄ると、これでもないあれでもないと本を抜いて中身を乱暴にめくっては床に投げ捨てた。


「あった! うん、やっぱりそうだ。いや、でもこれは……」


 むむむっと開いたページに穴が開くほど凝視する。

 興味が湧いたので全方位監視で覗きこんでみた。


 驚いたな。

 だからか、思わずつぶやいてしまう。


「リディアの聖眼……」


 そのものズバリが詳細に記述されていたのだ。

 しかし同時に落胆もする。


「君、今なんて言った? やっぱりこの子は本物の聖眼――しかも最上級のひとつとされる〝導く者の聖眼〟を持っているのか!?」


「ぇ、いえ、ちらっとそのページが見えただけで、彼女が持っているかは僕にもさっぱり……」


 開いたページは高さ的に見えるはずもないのだけど、ペトロさんは気にせずがっくりと肩を落とす。


「そう、だよねえ……。色や輝き具合、魔力のパターンは記述からの推測でしかないけど、これほど合致するのなら可能性が非常に高い。でも、そんな神に迫るような聖眼が実在するのはどう考えてもおかしいわけで……」


 魔法の力が弱まった今の時代だと、たしかに存在そのものを疑っちゃうよね。

 ペトロさんは顔を上げ、シャーリィを見据える。


「しかし何かしらの聖眼ではないかと僕は思うんだ。その眼でどんな不思議なものが見えているのか、訊いてもいいかな?」


 シャーリィの眼はなるべく秘密にしておきたい。

 それでも連れてきたのは、彼女の負担を軽減できる方法があるかもしれないという期待からだ。


 さっきは落胆したけど、状況からして期待は持てる。


「その前に、僕から尋ねてもいいですか?」


「ん? 何かな?」


「そのページに書いてある内容は、貴方が記したものですよね?」


「そうだね。というかよくわかったね」


「なんとなくです。では、その記述の元になった情報は、どこから得たんでしょうか?」


 ペドロさんは怪訝そうな表情ながら、答えてくれた。


「王立図書館だよ。古い文献がたくさん保存されていて、僕は貴族だから閲覧の権利がある。文献は持ち出せないけど、自分で書き写すのは許可さえ取ればできるんだ」


 なるほど。いいことを聞いた。


 彼が参考にしたリディアの聖眼の文献。それは僕が前世で書き残したものに違いない。ペドロさんの推測や疑問が追記されていたけど、それ以外は僕が書いた内容そのまんまなんだもの。


 だから僕が知る以上の情報が得られないと落胆したのだけど、見方を変えれば、二百年前の文献が今なお残っていて、参照できる状態にあるということだ。


 王立図書館になら、僕の知らない前世の時代の知識が得られるかも。

 シャーリィの聖眼をうまくコントロールする方法が、明らかになるかもしれなかった――。



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