空の旅の最中に襲われた
空飛ぶ舟ヴィマナ(のレプリカ)の横に行き、手をかざすと、縦長の長方形の切れこみが入って下側を軸にパカッと開いた。
壁の内側が階段になっていて、シャーリィたちがそこを上って船内へ。
「わあ、お部屋になってるんだね」
最後に僕が入る。
中はソファーを三つ設えた、長い部屋になっていた。外観上は窓がないけど、内側は壁面上部が透明になっている。天井も透明にできるけど、今日は陽射しがあるから透明にはしていない。
「広いお部屋だね。ここに住めるんじゃない?」
「維持するのにけっこうな魔力を使うんだよね。寝ながらだとちょっと難しいかな」
二つの呪印を消してしまえば問題ないけどね。
「ゆっくり進むからシートベルトは必要ないかな。もし僕に指示されたら、ソファーに付けてある紐を引っ張って――」
シートベルトを装着するやり方を説明し、シャーリィたちはソファーに腰かけた。
「それじゃあ出発するね」
僕が念じると、舟がふわりと浮き上がる。外の草原がどんどん遠くなっていった。
「あ、レイナークの街が見える」
遠く、城壁に囲まれた街並みが徐々に露わになっていった。
「下も見えるようにしようか」
床部分が透明になり、草原がどんどん離れていくのが見えた。
「すごいね。楽しい」
「クエ~♪」
「にゃふぅ!」
「……」
シャーリィとファルは楽しそうな反面、タマは毛を逆立てて落ち着かず、アウラもどこか不安そうだ。
「そう簡単に墜ちたりはしないから安心してね」
仮に墜落しても僕とファルでみんなを抱えれば問題はない。まあ、誰かに攻撃でもされない限り墜落なんてしないけどね。
五百メートルほどの高さになって前進を始める。ゆっくり加速するのでソファーに押しつけられはしないはず。
こうして空の旅が始まった――。
「あ、馬車が走ってるよ。タマ、見える?」
「うにゃぁ~」
道行く荷馬車を指差すも、いつの間にかシャーリィに抱えられたタマはちらちら見るだけだ。
「こっちには気づいてくれないね」
「舟の外側は周りに溶けこむように色を変化させてるんだ。外からは『何もない』ようにしか見えないんだよ」
「こっちからは見えてるのに? 面白いね」
「魔力や音は漏れてるから気づく人は気づくけどね。オリジナルならその辺りも完全に隠せるんだけど」
ステルス性能はこちらで補完してあげればいいのだけど……今はいいか。魔界門を開いた誰かには僕がどこにいるか知ってもらわなくちゃいけないし。
襲われてもこの舟の守りはけっこう硬いしね。
やがて右手方向に大きな山々が連なるのが見えた。
この国の国境はあの山脈を越えた向こう側まであるらしい。あまり気にしてなかったけど、けっこう広いんだよね、この国って。
「……なにか、嫌な感じがする」
シャーリィが山脈の手前、青々と広がる森の一点を見据えた。
僕がそこへ目を向けた、直後。
キラリと、何かが光った。
数秒の間を置き、船外で別の光が弾ける。自動防御の魔法陣が展開し、そこに何かが衝突したのだ。
「にゃにゃぁ!?」
「大丈夫だよ、タマ。この舟を落とせるほどの威力じゃない」
とはいえ、かなり遠くからの超高速精密射撃だ。第三冠位魔法に迫る。
でも……なんか変だな?
襲ってきたのは魔界門を開いて回っている誰かの線が濃厚だ。
にしては、発動した場所からの魔力が薄いように感じる。第三冠位に迫る魔法を放ったのに。
「ちょっと出てくるよ。みんなはここでゆっくりしていてね」
「クリス、がんばってね」
「クエ~」
「にゃ、にゃにゃ?」
「……ァゥ」
タマとアウラは相変わらず不安そうだなあ。
僕は天井の一部を開けて外へ出た。
舟の上部は平らになっている。そこに立ち、眼前に半透明のウィンドウを表示させた。
第二冠位魔法『遠見魔法』だ。
攻撃してきた場所を移しだす。
「なんだこれ?」
木々の只中に、二メートルほどの石人――ストーン・ゴーレムがいた。
本来は森に住まう魔物ではないのだけど、それより不可解なのは、そいつが肩に付けている妙な物だ。
大砲を細長くしたような筒状の何か。背中に負った大きな黒い箱につながっている。
「魔弾を撃ち出す魔法具みたいだけど……」
初めて見るな。
ここからだと『深層解析』は使えないから詳細は不明ながら、背中の箱で魔力を増幅させて魔弾を作り、砲身から撃ち放つ仕組みのようだ。
でもなあ、増幅した魔力は距離と精度にほぼ回してしまうので、威力が第四冠位並みに落ちている代物だろう。
「雑だ……」
コンセプトは理解できるし、遠くからの奇襲にはかなり有効な魔道具だと思う。
だから魔法具自体が雑な作りだとは思わないのだけど、この場に投入するものではない。
「こっちの防御を舐めすぎてるよね」
そもそも飛行物体にやるかなあ。狙いを定めるのに魔力を余計に使っちゃうから、けっきょく威力がいっそうお粗末になる。
しかも基本となる魔力がそれほど高くはないストーン・ゴーレムに使わせているし。
「呪印を解放するまでもないか」
僕はじっくり詠唱して、すぐ横に魔法陣を生み出す。
あの魔物には悪いけど、『魔法具を使うことに特化して調整されている』のがありありなので、無理に生かしておくほうが可哀そうだ。
狙いを定め、光弾を撃ち放つ。
ストーン・ゴーレムは一歩も動けず、光弾に頭部を貫かれた。
さて、あの魔法具を回収しつつ、『誰が』あの魔物を操っていたか調べるとするか――。




