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呪刻印の転生冒険者 ~最強賢者、自由に生きる~  作者: すみもりさい
第三章:自由な冒険者生活を満喫する
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お邪魔なあの人が現れた


「アウラ、お願い」


 僕の声に、アウラが両手を伸ばした。瞬時にその手が蔓と化し、三角の背びれを持つ大きな魚に巻きつく。


「ァゥ……」


 涎! 彼女に近寄り、我慢してねと小声で言うと、ものすごく残念そうにしながらもうなずいてくれた。


「あっちの奥から飛び出てきましたね。行ってみましょう」


 茂みをかき分けて森の中へ。冒険者たちに続いて、兵士たちもついてきた。


「な、なんだこりゃあ……?」


 木々の間、地面に1.5メートルくらいの暗い〝穴〟が口を広げていた。


「アウラ、戻してあげて」


 名残惜しそうにファング・シャークを放ると、見事なほどきれいに頭から穴を通り抜けた。


「ここから現れたみたいですね」


「転移魔法、なのか……?」とルッツさん。


「待て待て待て! そんなバカな話があるか」


 アレスター家の隊長が割って入ってくる。


「あんなもの、おとぎ話の中での創作にすぎん。現実に遠方を行き来できる魔法なんぞあってたまるか」


 実際、転移魔法は第一冠位の超高難度魔法だからね。めちゃくちゃ神経を使うから、僕も滅多に使わなかったし。


 魔界門はその下位互換みたいなものだ。

 任意ではなく固定化された二点間だし。自然発生するメカニズムは前世でも研究途中で不明。ただし小さな穴があれば、わりと広げたり閉じたりは僕ならそう難しくなかった。


「これは誰かが意図的に行使した魔法ではなく、『転移門』と呼ばれる自然現象だそうです。遠い別の場所と結ばれていて、棲息地域外の魔物がひょっこり現れるのはそのせいだとか」


 魔界だとかは説明がややこしくなるのでちょっと名前を変えておく。


「やけに君は詳しいな。俺は見たことも聞いたこともないが」


 さすがに冒険者さんたちも僕に懐疑の目を向けてきた。

 ここは彼女の名を使わせてもらおう。


「レイラさんから聞きました。たいていはすぐ閉じてしまうので、なかなか人目に触れないとも言っていましたね」


 あとでレイラには話を合わせてもらわないと。


「あのダークエルフか……。世界中を旅して回っていたと本人が言っていたな。知見は我らより相当広いようだし、そういった知識があっても不思議ではないか」


「はい、僕も冒険者ギルドの資料室にある資料はすべて目を通しましたけど、転移門に相当する情報はまったくありませんでした。レイラさんって物知りですよね」


「いや、あれだけの資料にすべて目を通している君も大概だぞ?」


 余計なことを言っちゃったようだ。


「ともかく、これを閉じる方法はレイラさんに聞いています。実際に試して成功もしてますから」


 見ていてください、とファルに目配せする。


「クエェ~」


 ファルがのんびり鳴くと、そこにみんなが注目したのを確認して左目に魔力を込めた。『抑止の魔眼』――これを発動すると、黒い穴がみるみる小さくなっていき、やがてきれいさっぱり消え去った。


「お、おい小僧。もしやこれで問題は解決してしまったのか?」と隊長さん。


「いえ、おそらくまだいくつか周辺にあると思います。だからみんなで手分けして探して、見つけたら僕に知らせてください。ファルに消してもらいます」


「この辺り一帯、すべてをか。骨が折れるな」と冒険者の誰か。


「この人数じゃ足りないわね」


「分布状況が把握できれば、転移門とやらのおおよその数はわかるんじゃないか?」


「それにしたって人手は多いに越したことはねえよ」


 冒険者たちの話し合いに、アレスター家の兵士たちも入ってくる。


「隊長、警らの連中を何人か回せませんかね?」


「可能ではある、な」


「お? 協力してくれんのかい?」


「我らは領内の安全を第一に考えておる。そのために労力は惜しまぬわ。ただ……」


 隊長さんがげんなりする。


「部隊を指揮されているのはマルコ様だからなあ」


「エリザベータ様に話は通さなくてはなりませんね」


「今回の件は強引にマルコ様からあのお方が奪ったものだからな。この期に及んでマルコ様に頭を下げるなどと、認めてくださるかどうか……」


 隊長さんたちは予想外に協力的だけど、この場にいない姉さんが立ちはだかっているらしい。迷惑な人だ。

 領内に長居したくはないし、効率を重視する意味でここはもう一歩、踏みこんでおくかな。


「今いる人数でもなんとかなると思います。ファル、お願いできる?」


「クエッ」


 鳴き声に合わせて、周囲に半透明の画面を出現させた。


「遠見の魔法です。探索できる範囲はそう広くありませんけど、これなら少人数でも周辺をくまなく調べられます」


 みんな、なんだかぽかんとする。


「こんな魔法まで……すごいな」


「いやまあ、すごいのはファルですけどね」


 ファルが「クエッ♪」と得意げなのに対し、「ふにゃぁ~っ」とご機嫌斜めなタマ。君は物理攻撃しかできないマーブル・タイガーの幼体ってことにしてるから、ここは我慢してほしい。

 そしてアウラはいまだにご馳走を逃したのを引きずっているのかしょんぼりしている。


「使い方ですけど――」


 基本は自動で森を移動して映し出すので、怪しいところが映ったら停止させる。場所を確認したらまた自動で動かす方法を伝える。

 この間に全方位監視で魔界門の所在を調べておき、そこを通過するようこっそり調整した。


 魔界門は見つけ次第、『深層解析』で詳しく調べる。誰が開けたか何かしらの手がかりがつかめればいいけど、ひとまず情報だけ得られればいい。


 それで今回の依頼は終わったも同然だ。報告はリーダーさんに任せて、僕は終わり次第とっととレイナークの街に戻るとしよう。

 そう、安堵した矢先だった。


「という感じですので散らばって調査を開始しましょうすぐしましょう!」


「どうした? 慌てているようだが」


 はい、ものすごく慌てています。だって全方位監視してたら見つけちゃったんだもん。今一番会いたくない人が、こっちへ向かってきているのを。


「じゃ、僕はあっちを調べてきますね」


 そそくさと森の奥へ移動しようとして、がしっと肩をつかまれた。アレスター家の隊長さんだ。


「待たんか。説明だけでは心許ない。じっくりねっとり実演してみせてもらわねばな」


 こんなときだけ真面目にならないでよ、と愚痴りたくなったけど時すでに遅し。


「誰か! 誰かいないの!? おかしいわね、合流地点はここのはずだけれど……」


「やや!? 今の声はエリザベータ様! なぜここへいらっしゃったのだ? はい、我らはこちらにおります!」


 あちゃー。呼んじゃったよ。


 エリザ姉さんは白馬を降り、鎧姿の騎士たちを引き連れて歩いてくる。


 面倒なことになったな。

 とにかく姉さんに僕の正体が知られないようにしないと。


 領内に入っちゃったことを咎められるのは、まあどうとでもなる。

 けどあの人のことだ、僕がアレスター家の人間だと吹聴しちゃダメと厳命しておいて、僕を見たらみんなの前で自分の弟だとかぽろっと言っちゃうんだろうな。

 頭に血が上ると周りが見えなくなるんだもん。


 僕が貴族の息子で追放処分を受けたなんて知られたら、すごく目立っちゃうよ。

 だからどうにか姉さんに正体を見破られないよう、上手く立ち回らないと――。



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[一言] お姉ちゃんもぽんこつだったかぁ(いつもの
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