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呪刻印の転生冒険者 ~最強賢者、自由に生きる~  作者: すみもりさい
第三章:自由な冒険者生活を満喫する
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声だけの再会


 無理やり魔界門をこじ開けて通過するなんて、ふつうの魔物はやらない。

 でも今、目の前(といっても遠見魔法越しだけど)でストーン・ゴーレムが力任せに上半身をねじこんできた。


 魔界門が堪らずといった感じでぺっと吐き出す。

 岩の魔物はドスンと頭から落っこちて前方にゴロリと転がった。


「グゥゥ……」


 大してダメージはないらしく、のそりと起き上がって歩き出す。

 その背後では魔界門が、こじ開けられた反動からかすぐさましぼんで消えていった。


 ゴーレムはときおり立ち止まってはきょろきょろしてまた歩き出す。


 これマズいな。

 人がいるところへ向かっているっぽい。


 ゴッド・ビジョンで周辺を探ると、最悪なことに街道をのんびり馬車が進んでいた。僕が前に住んでいた使用人の居住区へ向かっていて、このままだと街道でゴーレムと鉢合わせになる。


 今から僕が急いでも到底間に合わない。


 さらにゴッド・ビジョンの範囲を広げると…………いた。


 警ら中の兵士さんが三人、騎乗して進んでいるのを発見する。

 ただ残念ながら、街道に交差する細道を街道から離れるほうへ移動中。居住区からも遠ざかってしまう。


 ゴーレムはおそらく居住区へ向かっている。

 街道で馬車を襲っても進路を変えない可能性が高かった。


 あのサイズのストーン・ゴーレムなら三人でも戦える。ただかなり防御が固いからなあ。彼らの手持ち武器が通るかどうか。


 手をこまねいていても状況は好転しない。なら僕ができることをやろう。


 すうっと息を吸いこんで、


「わーっ! 魔物が出たぞー!」


 通信魔法を発動して兵士さんたちが振り向く位置で声を出した。


「ん? 今叫び声が聞こえたよな?」

「ああ、街道のほうだ」

「急ぐぞ!」


 三人は手綱を引いて街道へ向かう。


「助けてー!」


 またも叫ぶ僕。屋敷の人に聞こえたらどうしよう?


 僕の危惧は横に置き、状況を確認。

 馬車がのんびり進むその背後に、ストーン・ゴーレムが茂みを踏みつぶして現れた。


「グォオォォッ!」


 雄叫びに馬がびっくりする。


「ひいっ!? ま、魔物だあ!」


 御者のおじさんもびっくりだ。早く逃げ出したいだろうに馬が暴れて言うことを聞かない。


「わっ!」


 仕方がないのでゴーレムのすぐ後ろで大声を張り上げた。


「グゥ?」


 ゴーレムが振り向く。でも何もないのでまた顔を戻して馬車へ突進。


「うぎゃーっ!」

「グォオーッ!」


 万事休す、と思ったそのときだ。


 ビュオンと矢が飛んできた。カキンと硬い体に弾かれるも、注意を引くのには成功したようだ。


「ここは俺たちに任せろ。馬を落ち着かせて居住区へ急げ!」


「へ、へい」


 御者のおじさんは兵士の姿を見て安堵したようで、自身も落ち着きを取り戻して「どうどう」と馬に声をかける。馬はぶるんと鼻を鳴らして穏やかになり、鞭打たれて駆け出した。

 入れ替わるように二騎がストーン・ゴーレムへ立ちはだかる。


「ん? 二騎?」


 さっきは三人いたよね。一騎はどこへ?


 二騎は左右に分かれてゴーレムを牽制する。つかず離れず、倒そうとの意思が感じられなかった。

 ゴーレムは狙いが絞れず右往左往しながら、徐々に居住区から離れるほうへ誘導されている。


 そして、魔物の背後から。


「切り裂け、『風の刃(ウィンド・ブレード)』!」


 風刃が魔物の首を刎ね飛ばした――。




 警ら中の兵士さんたちのうち一人が応援を呼びに行っていたらしい。


「周囲を警戒。他に魔物がいないか調べてくれ」


 馬上から指示を出したのは鎧姿のマルコ兄さんだ。


 さっきストーン・ゴーレムの首を一撃で刎ねたのは兄さんの魔法。

 第六冠位の基本魔法だけど『瞬間インスタント増幅(・ブースト)』なしで最大威力近くまで出ていたな。


 相性の問題も大きかった。

 魔法は攻防において相克関係が強く働く。そして攻め手が有利となる。

 受け手が【土】の防御なら、攻め手が【風】の場合は威力が増すのだ。


 付近に魔物はいない。労力を割く意味はないけど、兵士さんたちが散っていき、兄さんが一人になった状況を利用させてもらおう。


「マルコ兄さん、聞こえる? 兄さんにだけ直接話しています」


「ッ!?」


 突然耳元で声がしたから兄さんは驚いている。きょろきょろするも、何かに気づいたらしく声を抑えて応じてくれた。


「クリス……なのか?」


「うん。久しぶりだね」


「姿が見えないのに声は聞こえる……。この魔法はいったい……」


「詳しくはまた今度ということで。それより手紙、届いたよ。ありがとう」


「礼には及ばないよ。こちらこそお前の近況が知れてよかった」


 兄さんは綻ばせた表情を引き締める。


「手紙を見て、領内の様子を探ってくれていたのか?」


「そんなところかな。偶然にも兄さんの活躍が見られてよかったよ」


「お前のおかげだ。今こうして領内の警備の任に就けているのはね」


 僕が別れ際にレクチャーした風魔法を、基本とはいえ使いこなしていた。それは兄さんの努力の賜物だろう。


「……手紙にもあったけど、魔物の発生が多いの?」


「ああ。今回のように単発ではあるけどね。まったく何が起こっているのか……」


 マルコ兄さんは首を左右に振る。

 小規模の魔界門が頻繁に開いていることが原因だとは思うけど、詳しく調べるには現地に入らなくちゃなんだよなあ。


「兄さん、冒険者を雇って調査してみたらどうかな?」


「まさかお前が……?」


「うん。いちおう顔と正体は隠すつもりだよ。こっそりでもいいんだけど、エリザ姉さんにバレたら『雇われたので』って言い訳にもなるかなって」


「いずれにせよ姉上に知れたら大事だと思うのだが……わかった。私もフォローさせてもらう。クリスにも会いたいしね」


「ありがとう!」


 これで依頼を待ってそれを僕が受ければ大手を振って現地調査できる。まあ顔は隠さなくちゃだけど。

 その前に遠見魔法でちょこちょこ調査はするとして。


 コンコン、と部屋のドアが叩かれる。続けてシャーリィの声がした。


「クリス、どうかした? なんだか大きな声が響いてきたけど」


 しばらく留守にするかもだし、彼女にはいろいろバレてるから説明しておこう――。




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