新しい仲間を紹介した
レイナークに戻り、僕たちはすぐさま冒険者ギルドへ入った。
職員に事情を説明し、意識を失った三人の新米冒険者たちを引き渡す。併設する医療施設に彼らは運ばれていった。
別室で依頼の報告書を作成しながら、ここでも何が起こったのかを話す。もちろん死者を蘇らせたのは内緒だ。
担当したのはエミリアさんと、褐色ハーフエルフのノエルさんだ。
「アルラウネって、報告にある大きさだと確実に脅威度Sランクですよね……?」
「そ、その魔物を、使役したの……?」
二人はちらちらと、僕の後ろでぼけっと立っているアウラに視線を送っていた。
「レイラお姉ちゃんとファルの協力があって、どうにか成功しました。僕と契約している間は人を襲ったりはしません」
うんうんとうなずくレイラとファル。
街へ帰る道すがら、アウラには人の社会で生きるうえで最低限必要なことを教えておいた。
人でも動物でも勝手に襲わないようにしよう。
僕が与えるもの以外は食べないようにしよう。
元の姿に戻るのは僕が許可したときに限ろう。
自分や仲間の身を守るときは手加減しよう。
わからないことや判断できないことは僕に尋ね、指示を仰ごう。
まだ社会のルールを知らない彼女にはまずそれらを厳守してもらい、徐々に自分で判断できるようになってほしい。
ノエルさんがぼそりとこぼす。
「それはまあ、信じるけど……なんでメイド服?」
「レイラお姉ちゃんの私物です。それしかなかったものですから……」
やっぱり目立つよなあ。早く着替えさせたいけど、今日はもう帰りたい。明日どこかで服を見繕おう。
新たに使役した魔物を登録する申請書にも記載して、僕たちは冒険者ギルドを後にした。
ブルモンさんの邸宅に戻り、今度は彼にも説明する。
「見た目は人とそう変わらんのう。肌の色は独特じゃが、そういう種族がおらぬでもない。部屋はまだ余っておるし、儂は構わんよ」
「いえ、僕の魔物ですから、僕の部屋で寝起きさせます。ベッドは――」
いるのかな? とアウラに尋ねると、首をふるふる横に振った。どうやら立ったまま寝るのが一番落ち着くらしい。
「よろしくね、アウラ」
シャーリィが無防備に近寄って手を差し出した。
アウラは僕に視線を移す。何をするのかわからないようだ。
「こうするんだよ、『よろしく』って」
僕がレイラと握手してみせると、アウラはマネしてシャーリィの手を握る。
「ぉぉ……役得……」
感動に打ち震えているレイラはさておき。
アウラはなんだかウズウズしているような……?
「わたし、そんなに美味しそう?」
察しのいいシャーリィに対し、こくこくとうなずく正直者のアウラ。
「だ、大丈夫、なんじゃよな?」
「食事はきちんと与えますので……」
いちおう邸内の人たちには自動発動型の防護魔法をかけておこう。
ちなみにアウラの食事の頻度は思ったよりずっと少なかった。月に一度、アサルト・ボアーくらいのお肉を食べれば十分なのだそうだ。それにしても大きいけどね。
自室に戻った。レイラとシャーリィも付いてくる。
「服は明日どうにかするとして、靴はそれ、ぶかぶかだから履き替えたほうがいいね」
クローゼットの中から僕の予備のブーツを引っ張り出す。
「うん、ぴったりだ」
身長は彼女のほうがすこし高いのだけど、靴のサイズは計ったように同じだった。
「クリスの私物を賜るとは……なんて羨ましい!」
レイラの叫びはあえてスルー。
「服はどんなのがいいかな? 女性物の服が買えるお店って僕は知らないし」
「メイド服でよろしいのでは? 周囲にもクリスの従者と認識してもらえるでしょう」
言われてみれば確かに。
「その服装でもいいかな?」
「……アゥ、アウウアゥァ」
言葉はさっぱりわからないけど、スカートをバタバタさせて不満そうな顔をしているところから意図は理解した。
「服自体が嫌なんだね。でも全裸で外に出すのはちょっと困るんだ。我慢してもらえないかな?」
アウラは困ったように眉尻を下げてのち、
「ァゥ、アウゥ」
どうにか了承してくれた。服は今のままでよいそうだ。というかなんでも一緒らしいな。
「じゃあ、あらためて」
僕は彼女の前にすっと手を差し出した。
「よろしく」
アウラは目をぱちくりさせて小首を傾げた。
でもすぐさまさっきシャーリィとしたのを思い出したのか、ゆっくり手を出して僕と握手した。
「ヨォ、ヒク……」
まだ発音は覚束ないけど、そのうち言葉を覚えそうな予感がした――。
翌日、冒険者ギルドに立ち寄ると。
「昨日はありがとうございました!」
「ありがとうございました」
剣士の少年と魔法使いの少女が入るなり僕に頭を下げた。たしかアベルさんとフラビアさんだったかな。
「体のほうは大丈夫ですか?」
「はい! 死を覚悟したのに、こうして不調はまるで感じません」
アベルさんはぐるぐる腕を回す。実際には死んでたんだけどね。
「本当に、なんてお礼を言っていいか……」
フラビアさんはクールでキツメな印象があったのだけど、ずいぶんと低姿勢だ。
槍使いの彼は見当たらない。二人にそれとなく訊くのもなんだか気まずい感じなので、話題は避けようと思う。
「困ったときはお互い様ですよ」
「しかし、僕たちが貴方に何かできるとは思えませんし……」
あんまり引きずられても困るんだけどな。
「じゃあ、他に困った人がいたら手を貸してあげてください。冒険者ってそういうものでしょ?」
たぶんね。
「あの、クリスさん。ところでそちらの少女はもしかして……」
アベルさんは緑色の肌をしたアウラに視線を移す。
フラビアさんもさっきからおどおどした様子で彼女をちらちら見ていた。
「あのときの魔物です。今は僕が使役しているので大丈夫ですよ」
「そ、そうですか……」
「あの魔物を使役するなんて……」
びくびくしつつも、なんだかキラキラした瞳を僕に二人は向けてくる。
面映ゆくなって視線を逸らすと、受付カウンターの向こうでエミリアさんがニコニコとこちらを見ていた――。
次回、Cランクへ昇級? そして――。
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