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呪刻印の転生冒険者 ~最強賢者、自由に生きる~  作者: すみもりさい
第三章:自由な冒険者生活を満喫する

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天使が降りた


 両手の甲の刻印が消える。体の内から膨大な魔力が湧き上がった。

 

「……まだ慣れないな、これ」


 この肉体では二度目の全力だ。

 前のときはシャーリィを攫われてものすごく感情が昂っていたのであまり感じなかったけど、子どもの姿だとそれなりに負担がかかるな。


 詠唱を開始する。

 魔力が渦を生し、砂塵を巻き上げた。しかしそれらはまばゆい光の奔流に霞んで消える。


 僕の背後に、巨大な天使が現れた。

 第一冠位魔法『天使召喚』――四大天使のいずれかをび出す魔法で、今回は復活と再生を司る天使ガブリエラに来てもらった。


 天使は両手を広げ、池の水を掬うように地面へ手を差し入れた。地中をすり抜け、横たわる二人を手のひらに収めて持ち上げる。


 ふぅっと天使が息を吹きかけると、二人の体が虹色に光った。

 天使は横を向き、アルラウネにも息を吹きかける。こちらも虹色に光った直後、天使は二人をゆっくり地面に下ろし、弾けるように消え去った。


 光の粒がきらきらと舞い落ちる。


「ぅ、……ん……」

「……ぁ、れ……?」


 二人が意識を取り戻した。でも剣士の少年は蘇生したばかりでぼんやりしている。

 全快したアルラウネはゆっくりと起き上がり、おどおどしてこちらの様子を窺っていた。


 天使ガブリエラの召喚は〝死者を蘇らせる〟一点をもって他にはない特別な魔法だ。またどんなケガや病気、呪いも取り払い、〝元の状態に戻す〟再生機能も有している。

 もっとも蘇生は魂が完全に切り離される前、『死後十二時間以内』の条件がつく。


 ひとまずアルラウネは戦意が完全になくなっているので待ってもらい、二人が驚かないよう幻影魔法で見えなくする。僕とレイラが見えていればいい。

 そうして二人に声をかけた。


「無理に起き上がらないでください。気分はどうですか?」


 少年は朦朧としているけど、魔法使いの少女のほうは横になったまま答えた。


「私、助かった、の……?」


「はい、だから安心してください。ところで皆さんはどうしてここに?」


「素材を、集めに……」


 とぎれとぎれに彼女は語る。


 どうやら彼らは冒険者ギルドの受付ロビーにいたところを槍使いに誘われ、僕たちと同じ依頼内容をこなそうと昨日のうちに街を出発してここを訪れたそうだ。


 彼らはFランク。Dランクの依頼は受けられない。少女は『槍使いが依頼を受けた』と言ったのだけど、おそらく依頼ボードにあったものを見て、槍使いが依頼を受けずに強行したのだろう。


 エミリアさんから、そういった無茶をする冒険者もいると聞いたっけ。

 ウィップ・ラットは戦闘能力が低く、一体なら彼らでも戦えるだろう。けれど複数から素材を得る前に、素早い彼らに逃げられるのがオチ。だからこそのDランク依頼なのだ。


 起き上がろうとした彼女を制し、二人に睡眠魔法をかけて眠らせる。

 そして僕は左目に魔力を集め、両手の甲に『抑止の呪印』を刻んだ。


「さて、それじゃあ彼にも訊いてみようかな。ファル、この二人をお願い」


「クエ」


 ファルに二人を見守ってもらい、槍使いに近寄って睡眠魔法を解除する。

 レイラがいないうちにやってしまおう。


「ぅ……ぁ……、はっ!? あ、あれ? あのでかい魔物はどこいった……?」


 上体を跳ね起こして辺りをきょろきょろ。僕と目が合うと、怯えたように仰け反った。


「魔物は対処しました。貴方には訊きたいことが――」


「あいつらは!? アベルとフラビアはどうなった!?」


 まだ恐怖で足元が覚束ないのか、彼は這うように寄ってきて僕の足をつかむ。

 アベルさんとフラビアさんはそれぞれ剣士と魔法使いの名前だ。


「二人は無事です。どうにか治療が間に合いました」


「そ、そうか……」


 安堵から脱力したようで、僕から手を放してへなへなと突っ伏す。


「貴方たちはウィップ・ラットの尻尾を獲りに来たんですよね?」


「あ、ああ。そうだ……」


 槍使いは突っ伏したまま答える。


「でもDランクの依頼を、Fランクの貴方たちは受けられないはずです」


「……依頼は、受けてねえ。受けなくても素材をたんまり持ってかえりゃ、金は手に入るし、実績にもなると、思ったんだ」


 やっぱりそうか。にしてもこの人、やたら正直に話してくれるな。素行のよくない人だけど、さすがに罪悪感があるのかな。


「二人には、そのことを隠して連れてきたんですね」


 こくりと力なくうなずく。


「これに懲りたら、もう分不相応な行為は慎んでください。ただ冒険者ギルドには報告させてもらいます」


「ああ、わかって――ぐがっ!?」


 唐突に飛んできたレイラが彼の後頭部を踏みつけた。

 槍使いは打ちどころが悪かったのか気絶している。


「一時の仲間とはいえ、彼らを危険に晒しておきながら何もせず、ただ震え怯えていただけの虫けらに情けは無用。処断すべきではありませんか? と具申いたしますが」


 うわー、ものすごく怒ってるなあ。


 僕は人造人間こどもたちに『みんな仲良く』とのお願い(命令にあらず)をしていた。だから仲間意識はとても強い。ただ彼女は他の者たちより仲間を想う気持ちが強かった。

 生前の記憶はないはずだけど、彼女の心根に深く刻まれている性質なのだろう。


「気持ちはわかるけど、さすがに殺す理由にはならないよ。ウィップ・ラットの相手だけなら徒労に終わっていた程度だろうしね。運が悪かったのは彼も同じだよ」


「ギルドへ報告したところで、厳重注意がせいぜいでしょう。また同じ過ちを繰り返すのがオチでは?」


「どうかな? 彼はもう、ダメだ(・・・)と思う」


 初回審査のときはあれだけ血気盛んだったのに、アルラウネと対峙した彼は見る影もなかった。

 アルラウネの圧倒的な力を目の当たりにして、自分のせいで二人が囚われたのを見ることしかできなかったんだ。

 無力な自分に打ちのめされた彼は、きっと心が折れている。冒険者としてやっていけるとは思えなかった。


「彼はもう十分な罰を受けてるよ。一生消えないだろうトラウマを刻まれたんだからね。それでいいんじゃないかな?」


 レイラが大きな胸に手を当てて天を仰いだ。


「なんと慈悲深い……。わたくし、とても感動いたしました。おい、何を寝ている? 今クリスが貴様ごとき虫けらに寛容を示してくださったのだぞ?」


 げしげしと後頭部を踏みつける。もうやめてあげて。


 さて、ひとまずこちらは終わったので。


「ごめんね、待たせちゃって」


 レイラの所業におどおどびくびくしていたアルラウネに微笑んだ。

 この魔物がどうしてここに現れたのか、調べなくちゃね。



次回、アルラウネちゃんをどうするか?


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