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呪刻印の転生冒険者 ~最強賢者、自由に生きる~  作者: すみもりさい
第三章:自由な冒険者生活を満喫する
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そうだ、呪印を解放しよう


 全方位監視ゴッド・ビジョンで向かう先の様子が僕の頭の中に流れてくる。


 三人の新人冒険者はアサルト・ボアーが喰われる様を呆然と眺めていた。

 蔓に囚われた剣士は無理にしても、残る二人はさっさと逃げてくれればいいのに……恐怖で竦んでしまったんだね。


 巨大猪の姿が完全になくなると、花開いた大口はそのままに、今度は剣士が持ち上げられた。

 食事はまだ終わっていないらしい。


「くっ、この! 硬い……」


 剣で斬りつけるも傷ひとつ付けられない。

 

「き、君たちは逃げろ! 早く!」


 剣士は目に涙を浮かべて叫ぶ。

 死を覚悟していても恐怖が消えるわけじゃない。それでも仲間を逃がそうと、無駄な攻撃を続けて魔物の注意を引きつけようと必死だった。


「ぐ、ぅ、ふぅ……」


 しかし槍使いは涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにしたまま、カチカチ歯を鳴らして動けない。度胸だけはあると思っていたのに残念だ。

 魔法使いの少女もそんな彼にあてられたのか、こちらも震えるだけだ。

 そうなると当然――。


「きゃっ!?」


 地を這うように蔓の一本が迫り、魔法使いに絡みついた。


「ひぃ!? ぐっ、痛い、痛いよぉ……」


 鋭い棘が体に刺さる。こうなってはもう逃れられないだろう。

 一方の槍使いは腰を抜かしてしゃがみこんだ。自身にも迫りくる別の蔓を呆然と見やり、震えた声を絞り出す。


「なんだよ、これは……? どう見てもAランク……下手すりゃSランクじゃねえのか? ネズミ退治の楽な仕事だと思ったのによぉ……」


「たしかに不思議だね。けどそれ以前に君たちがここにいる理由を、後で聞かせてもらいたいな」


「ッ!? かはっ!」


 首筋に軽く手刀を打ちこむと、槍使いは白目を剥いて倒れた。念のため睡眠魔法をかけておく。

 僕は彼の前に立ちはだかり防御魔法壁を展開。蔓を弾き返した。


「二人の救出をお願い」


「承知しました」


 レイラが僕のすぐ横を駆け抜ける。

 大岩を飛び越えてアルラウネの前に躍り出ると槍の尖った切っ先を向けた。巨大な刀身が切り離され、撃ち出される。

 刃は弧を描くような軌道で二人に絡む蔓を引き裂いた。


 どさりと地面に落ちる二人。しかしまったく反応がない。

 剣士の少年は抵抗が災いしたのか胸辺りを握りつぶされ、魔法使いの少女は動脈に棘が刺さって失血が多く意識を失っていた。


 僕は少女に駆け寄りすぐさま止血。並行して治癒魔法を施す。

 傷は治った。でも目は虚ろでぴくりともしない。


「クリス、アルラウネ(あちら)の処理はお任せいただいても?」


 アルラウネの蕾の上に乗っかっている女性はたんなる飾りで、それが本体じゃない。

 ただ話ができるくらいの知性は持ち合わせていた。


「できればあの子がここにいる理由を訊いてみたい」


「承知しました。ではその目でとくとご覧あれ。わたくしの勇姿を!」


 刀身が戻ってきて自動的に本体にくっつく。レイラは嬉々として槍をくるりとひと回し。ダンと地を蹴った。


「ゥゥ、アアァアァァアアッ!」


 魔物の雄叫び。無数の蔓がレイラに迫る。それを軽やかに掻い潜り、レイラは太い幹へ肉薄すると。


「接敵必殺!」


 先が丸みを帯びた刃で斬りつけた。炎が奔る。火炎は即座に燃え広がり、魔物の全身を包みこんだ。

 

「ォォアアアッ!」


 慟哭にも似た叫びを上げて、巨体が大地に倒れた。


「いやなんで倒しちゃうの!?」


 話が訊きたいって言ったよね?

 レイラは燃え盛る炎を背に、ふふんと得意げな顔で指を鳴らした。


 パチン。

 炎が消え去る。


「ゥ、ゥゥゥ……」


 どうやら死んではいないらしいけど、かなりの重傷だ。


「この手の魔物は実力差を明確にしませんと話し合いには応じません」


 一理あるけど乱暴すぎないかな?


「とりあえずご苦労様。一撃で倒したのはさすがだね」


「ふふ、あの程度なら本気を出さずとも一撃です。ええ、本気を出さずとも!」


「そこ重要なんだ」


 僕は話ながら剣士と魔法使いを並べていた。

 

「埋葬なさるのですか?」


「いや、助けよう(・・・・)かと思って」


 彼らを助ける義理はない。けど見捨てるのは気が引けた。前世の僕なら燃やしてお終いだったろうな。

 レイラが押し黙る。むむむっと眉根を寄せてしばらく。

 

「ではわたくしは周囲を警戒してまいります。ついでに目標をいくつか手に入れておきましょう」


 言うや軽やかに駆けていった。


「わたくしの目の前で本気を(・・・)出され(・・・)ては困るのですよねー」


 そんなつぶやきを耳にしながら、僕は横たわる二人を見下ろす。

 少年は内臓をつぶされてすでに息絶えていた。少女は脳が血液不足で一部壊死している。

 前者はもちろん、いずれも治癒魔法でどうにかなる状態じゃなかった。


 彼らを救うには、神域に手を伸ばす必要がある。

 僕は両手の甲を上に向けた。右目に魔力を集める。




 そうして、『解呪の聖眼』を発動した――。




ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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