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呪刻印の転生冒険者 ~最強賢者、自由に生きる~  作者: すみもりさい
第三章:自由な冒険者生活を満喫する
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同居人が増えた


 ホーン・ハウンドに関する依頼を終えたその日は、帰宅がずいぶんと遅くなってしまった。


 僕の拠点はこの街でも一、二を争う豪商ブルモンさんの大邸宅だ。いろいろ縁があって住まわせてもらっている。

 お子様どころかみなが寝静まっている時間に、


「お邪魔いたします!」


 玄関の大扉を開けるや大音量であいさつする招かざるメイド客、レイラ。


「おかえり、クリス。それからいらっしゃい、銀髪のお姉さん」


 迎えた、というより待ち構えていたのは金髪の美しい女の子――シャーリィだった。


「こんな時間にどうして起きてるの?」


「お客さんが来そうだなって思って」


 彼女の眼がうっすら青く輝いている。


「おや? んんん~?」


 レイラがずずいとシャーリィに顔を寄せた。近いよ。鼻と鼻がくっつきそうだ。

 ぽん、と手をたたいてレイラが言う。


「よくよく見れば貴女、わたくしをこの街へ導いた占いの得意な少女ではありませんか。その節はどうも。おかげでわたくし、今とっても幸せです!」


「……知り合いだったの?」


「以前、森の中の古砦でクリスと別れたあと、道すがら出会いました。その際、わたくしが進むべきはこちらではなくあちら、とレイナークを指し示したのです」


 当時の状況を思い出してみる。

 シャーリィたちはアレスター領へ向かっていた。おそらくレイラもそちらに進み、猛スピードに違いないから当然追いつくのはわかる。


 でもレイラがあいさつ程度でも興味のない他人に話しかけるとはとても思えないし、仮に会話する状況になったとしてもシャーリィの言葉に従う道理がない。


「なんとも不思議な眼をお持ちのようでしたので、わたくしも信じざるを得ませんでした。ところでこの眼、いったいなんでしょうか?」


「〝導く者(リディア)の聖眼〟だよ。だからまあ、いろいろわかっちゃうんだよね」


 リディアの聖眼は『物事の本質を見抜く』能力だ。彼女の場合は周辺環境の膨大な情報を脳内で適切に処理し、あたかも未来を予測するような結論を導き出せる。

 まだ開眼してないのにすごい力なんだよね。


「ふむ。これはまたレアな能力ですね。では、えぇっと……、そう、シャーリィ。この館のあるじにお取次ぎを。屋敷の中から外から存分に見させていただきたい!」


 シャーリィはきょとんとして、


「あなたも、ここに住めばいいのに」


 唐突に何を言ってるの?


「はっ!? なるほどそれは盲点でした。立地よし、建物よし、すでにクリスが住んでいるのならそれもまたよし。ここを乗っ取って愛の巣にしてしまうのがもっとも効率的ですね」


 君もなに言ってるの?


「じゃあ、お爺ちゃんに言ってくる」


 シャーリィは止める間もなく駆けて行った。で――。



 応接室に連れてこられたパジャマ姿のブルモンさんは、


「うむ……、ほう……、なるほど、のう……むにゃ……、うん……採用、してもよい、かのう……むにゃ……」


 レイラの口車に乗せられている。

 一度は目が覚めつつあったけど、長々とした話に再び目がとろん。


「では今よりクリス付のメイドとしてご厄介になります。ああ、部屋は勝手に見繕って改造しますのでお気遣いなく」


「うむ……うむ? クリス付、とな……? クリスはあまり、ここにはおらぬが……」


「同じ冒険者として、依頼遂行時にも細やかなお世話ができるかと」


「ならばまあ、よいか……、ふわぁ……」


 ブルモンさんは大きく欠伸をすると、シャーリィに支えられて応接室を出ていった。


「なんだか釈然としないな」


「むろん仕事は完璧にこなします。給料以上の働きを約束いたしましょう。我が野望は横に置くとして、Win-Winの関係であると考えます」


 もっとも置いちゃいけないものを置いちゃってるけど、彼女の仕事ぶりは僕だって高く評価している。メイドだろうと言葉のとおり完璧にこなすだろう。


 なによりシャーリィがなぜかレイラをここに住まわせたがっていた様子だったので、僕としても強く反対できなかった。


 なんだかなし崩し的に、同居人(部屋は別)が増えてしまったな――。




 朝になって目が覚めると、目の前をふわふわとちびドラゴンが流れていくのが見えた。

 その背中にしがみつく、小さな女の子。


「って、シャーリィ? なんでここに……」


 ファルが寝ながら尻尾で支えてくれているので落っこちはしないようだけど……。

 僕の声に反応したのか、シャーリィの瞼が半分開いた。こしこし目を擦りながら、ぽやっとした感じで「おはよう」とあいさつする。


 もう一度、どうしてここにいるのか訊いてみた。


「夜更かしして逆に目が冴えちゃって、ファルにお願いして寝かしつけてもらったの」


 まだぽやんとしているようだし、もうすこし寝かしてあげよう。

 軽く睡眠魔法をかけると、シャーリィはゆっくり瞼を下ろして静かに寝息を立て始めた。


 ドアが勢いよく、それでいて音もなく開かれる。


「起きられた気配を感じましたのでまかり越しました! おはようございます!」


 元気いっぱいの小声で、レイラが入ってくる。

 シャーリィを起こさないよう気を遣ってくれたらしい。


「朝食の準備はできております。ささ、お着替えを」


 優雅にお辞儀したかと思うとすぐさま服を取り出し、にじり寄ってくる。


「ありがとう、レイラさん。でも一人でできるから大丈夫だよ」


 がっくーんと肩を落とす彼女を見て、そんなにやりたかったのかと呆れたものの。

 そうだった。思い出した。


「ごめん、レイラ『お姉ちゃん』」


 ぱあっとレイラが笑みを咲かせる。

 やれやれと苦笑いしつつ自分で着替える。じぃっと見られていると落ち着かないな。


 食堂ではブルモンさんと一緒に食事をとった。

 昨夜のことはやっぱりあまり記憶がはっきりしていないらしく、それでも改めてレイラに説明されて納得したとのこと。


 部屋に戻ると、まだシャーリィは寝ていた。


「クェ~」


 ファルは起きていて、どうしたものかと困惑している様子。

 ひとまずシャーリィを僕のベッドに寝かせる。


「クリス、今日のご予定はお決まりですか?」


「いつも通りかな。ギルドへ行って適当に依頼を受けるよ」


 そういえばCランクへの等級審査を受けてみてはとエミリアさんに言われていたな。ま、昨日の今日で審査ができるとは思えないし、やっぱり依頼を受けておこう。


「ではクリス、わたくしと一緒にこちらなどいかがでしょう?」


 レイラが紙を一枚、どこかから取り出す。

 依頼票だ。

 張り出されたのは昨日のようだけど、受付日は今日のものだから、朝食の間に走って取ってきたのか。


 渡された依頼票を眺める。僕は首を捻った。


「ウィップ・ラットの尾の回収、か。Dランク相当の依頼だね」


 ネズミ型の魔物で、硬く長い尻尾が特徴だ。穀物を食い荒らすことがあるので害獣扱いされているけど、性格は臆病であまり人里には降りてこない。


「貴方好みの依頼かと思いまして」


 僕は基本、素材集めで魔物を倒すような依頼は受けない。たんに可哀そうというだけの、甘い考えがゆえだ。けれど、


「そうだね。僕ならこれは自分で受けたいと思うよ」


 尻尾を斬り落とすのは可哀そうに思うけど、痛くしないようにはできる。彼らも尻尾がなくて困ることはほとんどない。

 というか、実のところ硬くて長い尻尾は地中で生活する彼らにはけっこう邪魔らしい。


 他の冒険者が受けたら、手っ取り早く殺して回収という事態になりかねなかった。

 この依頼は昨日発行されたもの。複数の受付が可能とあるので、もうどこかの冒険者パーティーが向かっているかもしれない。


「いいよ、一緒に行こう」


 レイラがぐっとこぶしを握りこむ。


「……真意を聞かせてほしい」


「絶対に断らない依頼を提示し、ともに依頼をこなしたという既成事実を積み上げながら、なし崩し的にコンビを組む感じにしたいな、と」


 正直でよろしい。


「べつに君と組むのを嫌がりはしないよ。打算的なことを言ってしまえば、僕自身を目立たなくするには君という存在はうってつけだからね」


 レイラは大きな胸に手を当てて天井を仰いだ。なんか感動してるらしい。


「とはいえ気になることもございます。その意味で、クリスにご同行願いたく」


 それを先に言えばいいのに。

 僕が必要ってことは全方位監視(ゴッド・ビジョン)深層解析(ディープ・アナライズ)を使いたいのかな?


 僕らはシャーリィを起こさないよう静かに、部屋を後にした――。



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