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呪刻印の転生冒険者 ~最強賢者、自由に生きる~  作者: すみもりさい
第二章:伝説の賢者は冒険者になる

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初めての依頼を完了した


 街へ着いたのはお昼ちょっと過ぎだった。

 遅い昼食がてら、指定の報告書を書き終える。


 冒険者ギルドの受付ロビーに入ると、エミリアさんが依頼票を張り出すボードで作業していた。邪魔をしては悪いかな、と思い遠巻きに見ていると。


「あれ? テイマー君、どうかしましたかー? 忘れ物?」


 褐色肌のお姉さんが受付カウンターの向こうから声をかけてきた。ノエルさんだ。

 僕が応じる前に、


「クリスさん!? どうしましたか? 忘れ物ですか?」


 作業を中断してエミリアさんが寄ってくる。


「それアタシも聞いたよー。てかエミリアちゃんは仕事してー」


「うぐっ……ノエルさん、代わってください」


「真面目だったエミリアちゃんが壊れていく……」


「壊れてません!」


「はいはい。んじゃ二人ともこっちおいでー」


 ノエルさんが手招きしたので受付カウンターへ移動した。

 エミリアさんがカウンターの向こうに入ってもノエルさんはそこに居続ける。


「それで、どうされましたか? もしかしてアーミー・アントの情報が不足していたでしょうか。それとも地図が正確でなかったとか?」


「いえ、そういうのではなく、依頼が完了したので報告に――」


「「えっ?」」


「ですから、アーミー・アントの巣を破壊してきたので報告に――」


「「ええっ!?」」


 二人は同時に驚くと、カウンターに身を乗り出した。


「もう終わったんですか!?」

「まだ昼を過ぎたばかりじゃない!?」


 二人とも顔が近いです。


「クエッ」


 ファルが僕の頭上に飛んできて、口をぱかっと開いた。すかさず僕は魔法陣を出現させると、そこから透明な翅がカウンターの上に落ちる。


「ファルちゃん、収納魔法も使えるんですか……」

「魔物でも使えるものなの……?」


 珍しくはあるけど魔物でも使える種類はいる。でも認知は低いみたいだね。


「た、たしかにアーミー・アントの女王蟻の翅ですね」

「状態もいいねー。根元からスパッて感じ」


 しげしげと翅を眺めるノエルさんはしかし、怪訝そうにエミリアさんに耳打ちする。

 何かやらかしてしまっただろうかと思わず耳をそばだてた。


「ねえ、おかしくない? 往復時間くらいしか経ってないのに」

「馬以上の速度で移動したとしか……」

「でも発見が難しい巣を見つけて、破壊して帰ってきたんだよ?」


 どうやら早すぎたから疑われているらしい。お昼は街で食べたかったから、移動はたしかに速く走ったんだよね。でも僕、お昼も済ませてきたんだけど。


「クリスさんは嘘をついてませんよ。ここに証拠があるじゃないですか!」

「じゃなくてさ、これもうDランクの仕事じゃなくない?」

「そう、ですね。Cランクでも収まりませんよね」


 二人はくるっと同時に僕に向き直り、叫んだ。


「クリスさん、すごいです!」

「早いとこCでもBでも等級審査受けちゃいなさい!」


 そんな簡単に昇級できるものなのかな?


「とりあえず今回の依頼の報告をしたいんですけど」


「はっ! そうでした。ええっと、完了報告書はお持ちですか?」


 お昼を食べながら書いた報告書を差し出す。


「へえ、こんな風に罠を張るんですね」

「アーミー・アントってこんな特性があったんだー」


 虚偽は厳罰。後で嘘がバレたら冒険者証の剥奪もあり得るし、最悪は檻の中だ。

 でも魔剣のレプリカで斬ったとか第三冠位魔法で巣をつぶしたとかはさすがに書けないので、そこそこの魔法を使えば実現できるやり方を記載しておいた。

 事細やかに書く必要はないと事前に説明を受けていたんだけど、最初だしちょっと丁寧にね。


「って、『引っ越し』? アーミー・アントを説得して、丸ごと南方面に移動させたんですか!?」


 そこは嘘をついていいとこじゃないと判断し、正直に書いた。


「いちおう僕、テイマーですし。穏便に済ませられるならそれに越したことはありません。魔物だって生きてるんですから、なるべく共存できる方法を取りたかったんです」


 二人は目をぱちくりさせて、


「す、素晴らしいお考えです!」

「えー? 倒せば素材が手に入るし、もったいなくない?」


 両者異なる反応は、それぞれの性格がよく出ている気がした。


「たしかに冒険者としては特殊な考え方かもしれませんけど、私は立派だと思います。下手に魔物を乱獲して生態系を崩したら、より大きな弊害が生まれかねませんよ。クリスさんはそこまで考えて――」


「エミリアちゃん落ち着こ? てかほら、お仕事お仕事。テイマー君が待ってるよ?」


 熱っぽく語っていたエミリアさんはノエルさんに指摘されてぴたりと止まる。顔とともに真っ赤になった耳をぴこぴこ。この人って感情が耳に出るんだよね。


「し、失礼しました。報告書に問題はありません。こちらが報酬になります」


 どさっと布袋が置かれた。中には金貨や銀貨が入っている。


「念のため巣の破壊が為されたかギルド側で確認をしますけど、問題なければこちらからは何も言いません。むしろ今回は対象となった魔物の特性やその対処法について新たな情報を提供していただきましたから、追加で報奨金が出るかもしれませんね」


 魔物の説得は他の人じゃ無理な気がする。期待せずにおくか。



 エミリアさんと別れ、ギルドの外へ出た。


 見上げると真っ青な空。

 冒険者登録をして、装備を整え、依頼もこなした。

 これで名実ともに僕は冒険者生活をスタートさせたのだ。


 それは同時に、前世ではできなかった自由気ままな生活の、第一歩を踏み出したことでもあった――なんて。


 感慨にふけるのは後回しだ。

 僕にはまだ、やるべきことがある。


 それは過去の清算。

 一人の少女を、救うことだ――。




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