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呪刻印の転生冒険者 ~最強賢者、自由に生きる~  作者: すみもりさい
第二章:伝説の賢者は冒険者になる
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世界が変わった理由はとても――


 ファルが眠気眼で天井付近をふよふよ漂う中、資料室の一画が異様に変化する。


 テーブルが寄せられ、空いたスペースにシステムキッチンがどーんと置かれた。ふかふかの絨毯にダイニングテーブルとイス、食器類も高級感が漂っていた。収納魔法の無駄遣いでは?


「軽く食事をしながら腰を据えてお話ししましょう」


 とのことで、下ごしらえは終えているらしく、てきぱきとレイラは調理を進めた。


「さあ、存分に召し上がれ♪」


 真っ白いテーブルクロスの上に並べられた豪華な料理。メインは極厚のステーキだ。ぜんぜん軽い食事じゃなかった。

 でも美味しい。レイラって料理ができたんだな。知らなかったよ。


 肉厚のステーキを味わいつつレイラに尋ねた。

 気になるのはやっぱり『抑止の呪印』についてだ。


「今からおよそ二百年前、とある大賢者様がお隠れになって三年ほど経ったころでしょうか。一部を除く全世界の人々に『低級刻印』が宿りました。免れた者に共通する特徴はいっさいありません。人も魔族も例外なく、以降は世代を経てもおおよそ七割の者に刻印は刻まれています」


 にわかには信じられない話だ。

 世界規模の呪いを実行するには万単位の高位術者でも足りない。でも直接見た彼女が言うなら間違いないし、現実がそうなっているのだから疑いようがなかった。


 実現し得る方法はいくつかある。

 でもそのすべてが『万にひとつ』の小さな可能性に過ぎなかった。そのうちもっとも可能性が高いとすれば――。


「魔界からの干渉、か」


 ここではないどこか。

 とてつもない化け物たちが跋扈する世界が存在する。その世界は『魔界』と呼ばれ、ときどきこちらの世界と『穴』――僕は『魔界門』と呼んでいる――でつながることがあった。


 ちらりと上を見る。

 ファルが鼻ちょうちんを膨らませて宙を流れていった。


 あの子――カオス・エンシェントドラゴンも元は魔界の住人だ。

 いわゆる魔族や魔物たちは門を通ってこちらにやってきた者かその末裔なのだ。


 門は自然発生してはしばらくして消えてなくなる。

 でも消えずに残った小さな門はやがて大きく口を開け、強力な化け物が通れるほどになった。


「全部つぶしたはずだったんだけどな……」


 思わず漏らしたつぶやきをレイラは素知らぬ顔で流した。


 前世の僕は人魔の争いに無関心だった一方、大きな『門』をつぶして回るのには積極的だった。魔界の強力な化け物は世界を滅ぼしかねないのもいたからね。


 そもそも人魔の争いだって魔界からの干渉で勃発したものだ。

 魔界の膨大な魔力を使えるほど大きな『門』が開いていたなら、少数でも世界規模の呪いを発動させることが可能だ。


 漏れがあった……はずはない。となれば考えられるのは、ただひとつ。


「こちらから無理にこじ開けたのか」


 それはそれで大変な作業ではあるけど、やってやれないことはない。僕も一度やったことあるし。


 人魔の争いの元凶たる超巨大悪魔(デーモン)を退治するにあたり、無理やりこっちに引っ張り出したんだよね。


「おそらくはそうでしょう。ただ首謀者および実行者はいまだに不明です」


「妙な宗教組織が嘘の歴史を吹聴しているようだけど、そっちは?」


「彼らはむしろ必要に迫られて事後に組織化し、世の混乱を最小限にとどめることに貢献しています」


 なるほど。『ぜんぶ神様のせい』にして人心を落ち着かせたのか。

 うん、だんだん見えてきたぞ。


「人だけじゃなく魔族にも刻印が現れたから争ってる場合じゃなくなったんだね」


 人魔の争いを歴史から消し去ったのは後の世代に禍根を残さないためか。


「はい。特に魔族側は魔王を失って内部で対立があったらしく、幹部連中の多くが姿を消していました。そこで人と魔族、双方から『その姿に似て非なる者たち』が手を挙げて調停役を務めました。今の世では『十勇士』と呼ばれています」


 似て非なる……ってまさか、いやレイラの得意げな顔を見る限り確実に、彼女たちと共に僕が残した人造人間(ぼくのこども)たちだな。


 状況から考えて、人魔が歩み寄るには表面上は第三者的立ち位置がいないから、双方から代表者を出して話し合ったとするのが一番落ち着く。


 レイラたちは実質的に第三者の立場で両陣営の利害をまるっと無視もできるし、力で黙らせることもできたろう。彼女単身でも当時の魔王より強かったからね。


 うまくやってくれたと、生みの親としては誇らしい。


「そしてその十勇士を導いたお方こそ、救世の英雄にして史上もっとも気高く強く超絶イケてる大賢者グラメウス様――」


「ぶふっ」


「――ということにしております」


 ちょっとむせちゃったじゃないか。

 そこは人族の僕を持ち上げるべきじゃなかったと思うよ? まあ終わったことだから今さらだけどさ。


「ありがとう、事情はだいたい理解したよ」


「いえ、力不足で首謀者の特定には至っておりませんので、胸を張れるものではございません」


「そうでもないさ。すくなくとも実行犯は魔族陣営(・・・・)だってのはわかったからね」


「えっ……?」

「クェッ?」


 レイラが目をぱちくりさせる。

 ついでにファルがようやく目を覚ましたのか、目の前に棚があるのに気づいて驚いた。


「魔王が倒されて呪いが発動するまでの三年、その間に姿を消した魔族の幹部たちが主要な実行犯だろうね」


「魔族の幹部が、どうして同胞の力さえも弱める呪いを?」


「簡単な話さ。失敗したんだよ」


 魔界からの干渉を引き出しての、世界規模の超巨大魔法術式だ。

 失敗すれば命の危険があって当然。そして実際に何かしらのトラブルがあって失敗し、彼らは命を落とした。

 加えて人にだけ呪いをかけようとしたのに、自分たちの同胞まで対象に含まれてしまったのだ。


 当時の状況を考えればそれで説明がつく。

 全人口の七割。しかも不特定なんて中途半端な呪いなのもその証左だ。


「なるほど。思い返してみれば、彼らは調停案にまるで文句をつけてきませんでした。むしろ人の側にイライラしたものでげふんげふん――と、伝えられていますね。魔族側に負い目があったからと考えれば妥当なところでしょう」


 なら確定だ。

 二百年で世界が大きく変わってしまった理由が、なんともお粗末な結果からだったとは。

 でも――。


「素晴らしい洞察力ですね。お姉ちゃん、感動しました! ここは『さすが』と言わせていただきましょう。さすが!」


 褒められているところ申し訳ないのだけど、実のところ『首謀者』が魔族側との確証がない。

 魔族をそそのかしたのが人陣営の誰かである可能性もなくはないんだよね。


 誰かこの件を追跡調査してないかな?

 僕の子どもたちの中でやりそうなのは――。


「レイラお姉ちゃんは、『セイバル』さんが今どこで何をしているか知ってる?」


「執事長、ですか。この百ね――日ほどは見かけませんね。他の同胞ともしばらく顔を合わせていないのです」


 他の子どもたちもレイラみたく何らかの『プレイ』をしたがるんだろうか?

 彼女だけの特性だと思いたい。


「クエェ~」


 ファルがパタパタと寄ってきた。

 長々と話していたら怪しまれるし、依頼も今日中にこなしたい。この辺りでいったんお開きにするか。あ、でも最後にひとつ。


「レイラお姉ちゃんは今日、何か依頼を受けて街を出たりする?」


「ええ、少々遠方になりますが、昼前にはここを発ち、夕方には帰ってまいります。命じられるならばもっと早くにも可能ですが?」


「いや、ならいい」


「……かしこまりました」


 さて、僕も初の依頼をこなしにいくかな。


「そろそろ僕は行くよ。また話を聞かせてもらえると嬉しいな」


「もちろんです。次はデザートまでお召し上がりいただきますので!」


 今の分量でもお腹いっぱいなんだけどなあ。でも哀しそうな顔をされるのは確定的に明らかなので黙っておいた――。



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