表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
呪刻印の転生冒険者 ~最強賢者、自由に生きる~  作者: すみもりさい
第二章:伝説の賢者は冒険者になる
32/67

初めての依頼を受けた


 受付ロビーにもエミリアさんはいない。

 しばらく待っても現れなかった。さすがに生活空間で全方位監視は使えない。プライベートを覗き見してしまうからね。


 仕方なく空いている受付に行ってみた。


「ようこそ冒険者ギルドへ。あれ? 君ってたしか……へえ」


 黒髪で褐色肌のお姉さんがちょっとにやけて応対する。

 エミリアさんと同じような耳をしているから、ハーフダークエルフだとわかった。こちらもエミリアさんに引けをとらない盛り上がった胸には『ノエル』との名札があった。


 僕が首からさげた冒険者証を見てにっこり笑みに変わる。


「Dランクになったんですねー。おめでとうございます。どのような依頼をお探しですか?」


 気さくな感じのお姉さんだな。


「初めてなので低いランクの依頼で様子を見たいんですけど」


「えー? 君の初めてもらっちゃっていいのかなー?」


 またもにやけた次の瞬間。


「いいわけないです!」


 ずばびゅん、とエミリアさんが飛んできた。いっぱいの紙束を抱えて。


「ノエルさん、ひどいです。クリスさんの依頼は私が最初に担当したいのに」


「あはは、ごめんごめん。もちろんエミリアちゃんに譲るつもりだったよー? だってほら、『お気に』だもんね♪」


「い、いえそんな、私は公私混同するつもりはまったくなくて、ですね。ただ登録を担当した方には責任をもって最初の依頼も担当したいと考えている次第でしてごにょごにょ……」


「はいはい。んじゃ、あとはよろしくー。あ、テイマーの君もまたねー」


 黒髪のお姉さん――ノエルさんは手をひらひらさせて別の受付へ移動した。

 対するエミリアさんは紙束を抱えたまま耳まで真っ赤にしてうつむいている。

 なんだか気まずい。


「クエッ!」


 ファルの鳴き声で我に返ったらしいエミリアさんが、「す、すみません!」と紙束を受付カウンターに置いた。


「クリスさんにふさわしい依頼をいろいろ探してきたんです。ちょっとたくさん持ってきちゃいましたけど、ええっと……まずはこれなんかどうでしょうか?」


 エミリアさんは焦りながらも紙を一枚差し出した。

依頼票だ。受け取って目を通す。その間にエミリアさんが解説してくれた。


「最初は魔物と戦うものより、調査任務なんていかがでしょうか。アレスター領に近い森に盗賊団の根城があるようなんですけど、なかなか見つからなくて……。でもファルちゃんは空を飛べますし、人が住めそうな場所を探すのは得意なんじゃないかなって」


「クエッ♪」


 ファルが『任せてよ』と言わんばかりに返事をした。

 冒険者の特徴を把握して依頼を提案してくれるなんて嬉しい限り。ただ、これってアレだよね?


「でも三十人規模の盗賊団らしいのでくれぐれも戦闘は回避して――」


「その盗賊団はもういませんよ」


「へ?」


「僕、そっち方面から来たんですけど、古い砦を根城にしていた盗賊団がいました。でも――」


 どこからか現れた巨大ドラゴンが半数を、もう半数はゴブリンの群れに襲われて壊滅したと伝えた。

 捕まえた盗賊たちはアレスター領へ送られたはずだけど、まだ情報が届いていないのかな?


「ドラゴン、ですか? この地域に? ゴブリンが人を殺さずに拘束するのもちょっと信じがたいと言いますか……。ちょ、ちょっと待っていてくださいね。確認してきます」


 エミリアさんが奥へ引っこもうとすると、ちょうどさっきの黒髪で褐色のお姉さんが出てきて二人で話をする。やがてエミリアさんがぱたぱたと戻ってきた。


「ありました! 超巨大ドラゴンの目撃情報が!」


 どうやらブルモンさんを護衛していたのはこのギルドに登録している冒険者たちのパーティーだったらしい。彼らがこの街に戻ってきてギルドに報告したものの、あまりに想定外なので事実確認ができずギルド内で情報共有ができていなかったようだ。


 ところで見た感じ、ノエルさんはエミリアさんより先輩っぽいな。


「ゴブリンの件は報告がありませんけど、十数名の縛られた人たちがアレスター領内で発見されたそうです。今は彼らの身元を調べている段階ですね」


 てことは、今日明日にでも情報は届くかもね。


「でも、クリスさんはどうして『ゴブリンの群れに襲われた』とおっしゃるんですか?」


「一部始終を見てましたから。アレスター領に彼らが運ばれたのは、僕がゴブリンのリーダーにお願いしたからです」


 エミリアさんは目をぱちくりさせる。


「ゴブリンを、使役テイムしたんですか?」


「ちゃんとした契約じゃなくて、その場だけの共闘です。といっても僕は囮役でほぼ何もしてませんけど」


「へえ、テイマーってそんなこともできるんですね」


 少なくとも前世でのテイマーたちは近いことができたはず。


「ちなみに、その古砦はどのあたりですか?」


「えっと……」


 僕は紙とペンを借り、ざっくりと地図を描いた。

 嘘は書かない。仮に調査隊が赴いてもゴブリンたちは身を潜めていれば見つからないからだ。もっとも、すでにアレスター家の部隊が確認済みだろう。


「情報提供、ありがとうございます。事実確認ができましたら、少額ですが報奨金が支払われます。では続きまして――」


 エミリアさんは別の依頼票を見て眉をしかめた。


「これはゴブリン退治ですね。アレスター家からの依頼です。でも、これって……」


「盗賊を捕まえたゴブリンたちでしょうね」


「う、うーん……。これ、どうしましょう?」


 いや僕に訊かれても。とはいえ助け舟は出しておこう。ゴブリンたちにね。


「彼らはもうあの辺りにはいませんよ。もともと古砦で暮らしていましたけど、人に見つかったから棲み処は移したはずです」


「なるほど。ただ盗賊団の件もありますし、念のためその古砦には調査隊を派遣したほうがよさそうですね」


 そこで古砦にゴブリンがいないと判断されれば、以降あの場所へ人が立ち入ることは滅多になくなるだろう。


「えーとでは次に……こちらなんてどうでしょう?」


 次に渡された依頼票には『アーミー・アントの巣の駆除』とあった。巨大な蟻の魔物だね。


「個体のランクはFですけど、巣を丸ごと相手にするにはかなり大変で危険が伴います。でもファルちゃんの攻撃力と防御力なら集団で襲われる前に巣を破壊して分断できると思うんですよね」


「クエッ♪」


「推奨冒険者ランクはDですか」


「実は巣を見つけるのが大変なんですよね。アーミー・アントは巣が見つからないように連携して襲ってきます。だから消耗戦になっちゃうんです。でもファルちゃんなら戦闘を回避して巣を見つけられると思うんですよ」


「クエッ♪」


 さっきから褒められてファルも上機嫌だ。

 まあファルに頼らなくてもだいたいの位置がわかっていればゴッド・ビジョンで発見は容易い。


「あくまで『巣の駆除』ですから、全滅までは求めていません。アーミー・アントは巣を破壊されたら別の離れた場所にコミュニティーごと移住します。ですから今現在、被害が出ている地域の安全が確保されれば依頼は完了です」


 全滅させなくていいのか。難易度はかなり下がったな。

 実のところ、最初の依頼はもっとランクが低いものにしたい。でもキラキラした瞳で見つめられたら断れないな。


「これでお願いします」


「わかりました! さっそく手続きしますね♪ あ、その間にこちらも見ておいてください」


 せっせと書類に何か記載し始めたエミリアさん。


 僕は渡された用紙を眺めた。

 アーミー・アントの特性や、今回の依頼で駆除する地域の地図とおおよその巣の推測位置が記されている。

 依頼票だけじゃなく、必要な情報もまとめて持ってきてくれたのか。


「ふつうはそこまでサービスしないんだけどねー」


 ノエルさんがカウンターの向こうでひょいと顔を出す。


「な、なんですかいきなり!?」


「ちょっと贔屓しすぎなんじゃない?」


 窘めるというよりはからかっているような感じだ。


「まだ右も左もわからない新人さんなんですから、これくらい当然です」


「ふぅん、へぇー」


 黙々と書類にペンを走らせるエミリアさんが不憫に思えて僕から話題を振った。


「こういった情報はギルドに訊けば教えてくれるんですか?」


「あっちの扉の向こうに資料室があるの。冒険者登録をしてれば自由に入れるから、基本はそこで冒険者さん自身に調べてもらうのね。ま、必要な資料を探すのはお手伝いしますけど」


 ぱちんとウィンクしたノエルさんをエミリアさんがジト目でにらむ。


 ふむ、資料室か。

 僕はこの世界のことをよく知らない。なにせ最近まで生家の地下で軟禁されてたから。情報を得るにはもってこいだな。


「資料室を見せてもらってもいいですか?」


「それは構いませんけど、アーミー・アントの資料はそれがすべてでして……」


「いえ、ちょっとした興味で」


 ノエルさんがまたも横から入ってくる。


「面白いものいっぱいあるからねー。でも、あまり時間をかけると依頼を今日中にこなせなくなるよ?」


「すこし見学する程度にとどめておきます」


「わかりました。登録は完了しましたので、ご自由にどうぞ。何かあれば声をかけてくださいね」


 僕は二人にお礼を言ってから、資料室へと向かった――。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このお話はいかがでしたか?
上にある『☆☆☆☆☆』を
押して評価を入れてください。

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ