ランクが決まった
一夜明け、僕はブルモンさんの屋敷を出た。
冒険者ギルドへ向かう道中で考える。
シャーリィの不思議な力が判明した。
そして彼女には語っていない事実も。
破格の〝眼〟を持つ少女。けれどそれは、生来のものではなかったのだ。
「まさか後天的に植え付けられたものだったとはね」
となるとその犯人は、彼女の観測範囲に入らない位置で監視しているはずだ。彼女が開眼したら即座に、その聖眼ごと喰らうために。
開眼するまでに対策したいところだけど、実は時間的な余裕がない。
なにせそいつは当然、僕というイレギュラーを認識したはずだからだ。
僕が一緒に暮らすことになった時点で、強硬手段に出てくる可能性があった。
全方位監視の範囲にも入ってこないから、僕をかなり警戒している。ならそれを利用させてもらおう。
念のため彼女には出かける前、魔法術式を刻んだメモを渡しておいた。『お守りみたいなもの』だと説明したら、大事そうにぎゅっと胸に抱いていたのが思い出される。
てくてく歩いてギルドに到着。受付ロビーに入ると、
「クリスさん! お待ちしていました」
受付カウンターの向こうでエミリアさんが大きく手を振る。が、注目を浴びてしまい、ややとがった耳を真っ赤にしてうつむいた。
僕はまっすぐ彼女の下へ行く。
「すみません、早く来たつもりだったんですけど」
「い、いえ、たんに私が待ちきれなかったと言いますか……ともかく! こちらへ来てください」
案内されたのは二階の応接室だ。
ギルド長とゲイズさんがソファーに座っている。
等級審査の結果報告ってこんなに物々しいのかな? 僕は不思議に思いつつ対面のソファーに腰かけた。
ギルド長がピンと尖ったひげを撫でながら告げる。
「君は『D』ランクと認定する」
「ええっ!?」
驚いたような声はエミリアさん。僕の後ろに控えていた彼女は慌てて自分で口を手でふさぐ。
新人が最初の等級審査で認められるのは例外を除けばEランクまで。その例外として認められたようだ。エミリアさんも高い評価に驚いたのかな?
「俺はCでもまったく問題ないと思うがな」
「つい最近までDですら前例がなかったのだぞ? この短期間にCなんて認めてみろ、ギルドの品位に関わる」
「そう言っておいて、あのダークエルフは翌日にCにしたではないか」
「あああれは別格だ。あの女の戦闘力は貴公も認めていたではないか!」
「こいつとて引けは取らんよ。こちらの都合で割を食うのはこいつだぞ」
なんだか揉め始めた。
「僕はDランクでも十分に評価してもらったと感じています」
「貴様が納得しているのならよいが……」
「う、うむ。魔物が疲れると力を最大限発揮できない問題もある。その辺りは依頼をこなす中で見極めさせてもらおう」
ギルド長がポケットから何か取り出した。青い金属製の小さなプレートに細い鎖が付いている。
エミリアさんが解説する。
「そちらは冒険者証となります。ギルドで管理しているクリスさんの登録用紙に記載されている番号が彫られていて、貴方本人であることを証明してくれるものです。常に身に着けて、失くさないようにしてくださいね」
なるほど。もし死んでしまったときは本人確認に使うのか。
「色で等級を表わしていて、Fランクから順にホワイト、グリーン、Dランクはブルー。それからレッド、シルバー、ゴールド、ブラックと続きます」
この辺りのシステムは前世の冒険者ギルドと似たようなものかな。実は関わりが薄くてよく知らないのだけど。
「話は以上だ。今後の活躍を期待しているよ」
あれ? もう終わりなのか。まあ早く済むならそれに越したことはない。
「ありがとうございました」
僕は立ち上がって礼をする。
エミリアさんと連れ立って部屋を出た。
ところで、どうして彼女は頬を膨らませてるんだろう?
「ギルド長が直々に等級審査の結果報告をするというから期待したのに……。ゲイズさんもおっしゃってましたけど、クリスさんはCランクでも十分にやっていけると思います」
ぷんすかと不満を吐き出す彼女は続けて僕に尋ねる。
「今日から依頼を受けられますか?」
「はい、そのつもりです」
僕が答えると、ぱぁっと笑みを咲かせて「わかりました!」と元気よく駆けて行ったぞ?
ぽつんと残される僕。
戻ってくる気配がないので、僕は一階に降りた。




