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呪刻印の転生冒険者 ~最強賢者、自由に生きる~  作者: すみもりさい
第二章:伝説の賢者は冒険者になる
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不思議な少女の特殊な眼


 やたら大きなお風呂に入り、その間に用意された部屋へ通された。

 ここもまた広い。

 クイーンサイズのベッドに、ソファーが二つのくつろぎスペースまであった。


「必要なものがあったら、言ってね」


 ここへ案内してくれたシャーリィはなぜか部屋の中に入ってベッドにバフン。


「クエ~♪」


 お風呂でぽかぽかになったファルは上機嫌で部屋の中を飛び回る。


「僕たち二人には広すぎるよ」


「今はそうでも、そのうちまた増えるもの」


 可能性の話ではなく、まるで確定した未来を語るように彼女は言う。やっぱりこの子は……。


「ねえ、シャーリィ」


 僕の呼びかけに、女の子はむくりと上体を起こしてベッドに腰かけた。


「君の目について、聞いてもいいかな?」


「目?」


 シャーリィは不思議そうに小首を傾げる。

 そうか。視覚的に〝視えてる〟わけじゃないんだね。


「君は勘がいいって話だったよね。それってどういう風に〝わかる〟ものなのかな?」


 小首を傾げたまま何やら考えてのち、


「なんとなく」


 ただそれだけを答えた。

 まだ『開眼』――聖眼が真に覚醒していないからか、本人にも漠然とした感覚なんだな。


「シャーリィ、君は特殊な眼を持っている。できれば詳しく調べたいんだけど、いいかな?」


 神にも迫る規格外の聖眼――〝未来視の聖眼〟だとすれば大変なことだ。今はまだ周囲が『勘がいい』くらいの認識でも、無自覚のまま開眼したら隠し通すことはできない。


 彼女を巡って国が争う事態にもなりかねなかった。

 いや、それ以前に未来視が完全に開眼すれば、前世の僕ならまだしも人の身では耐えられない。脳が焼き切れてしまうだろう。


「いいよ」


 わりと軽いな。

 あまりに無垢なので気が引けるけど、正確な情報は彼女のためでもある。


 僕は『深層解析(ディープ・アナライズ)』を発動した。

 彼女の周囲にいくつものウィンドウが現れる。僕にしか視えないものだ。


 プライベートに触れる部分は無視。その〝眼〟にのみ着目する。

 それでも情報量が半端ない。

 高速で文字が流れていった。その膨大な情報を探っていく。


 深く。もっと深く――「ッ!」


 僕が険しい顔をしたからだろうか、シャーリィがびくっと肩を跳ねさせた。

 珍しいな。盗賊にもドラゴンにも動じなかったのに……って、なるほどね。


「だいたいわかったよ。さすがに〝未来視〟じゃなかったか」


 ホッとしたものの、だからといって安心はできない。

 なにせ彼女の眼は――。


「君が持っているのは〝導く者(リディア)の聖眼〟と呼ばれているものだ。かつて実際に持っていたエルフの王の名が由来になっていて、簡単に言えば『物事の本質を見抜く能力』だね」


「?」


 よくわかってない風な彼女に説明を続ける。


「初めて会う人の人となり、その言葉に偽りがないかどうか、骨董品の真贋、商品の質。君は今まで、そういったものを『なんとなく』把握してお爺さんに助言してきたよね?」


「感じたことを、伝えただけ」


 考えなしか。だからこそ危険なんだよね。


「それだけじゃない。ふつうは視界で捉えたものしか対象にならないのに、君の場合は周辺環境の情報も視界の外から受け取っている。しかもそれらを脳内で適切に処理し、あたかも『未来を予測』するような結論を導き出していた」


 天気予報はお手の物。もちろん、それだけにとどまらない。

 盗賊に襲われても近くにいた僕の存在から『必ず助かる』との確信があったのだろう。ファル――巨大ドラゴンのすべてを焼き尽くす攻撃も、森に潜んでいた僕がなんとかすると結論付けた。

 だからまったく動じなかったのだ。


「君の力は現時点で〝リディアの聖眼〟を上回っている。はっきり言って未来視レベルだよ、これ」


 驚くべきは、聖眼に付随する処理能力の凄まじさだ。常人なら今この段階で脳が焼け焦げてしまうよ。


 説明の間、シャーリィは頭の上に疑問符を乗っけていた。

 十歳の彼女には難しかったかな。聖眼の情報処理能力はそれに特化したものだから、まだ難しい言葉は理解できないようだ。


「わたしは、どうすればいいの?」


 すこし不安そうに僕の瞳を覗きこむ彼女に、優しく告げる。


「僕に任せてくれればいいよ」


 彼女の聖眼は強力だ。

 いずれ開眼すれば、彼女の体では耐えきれなくなる懸念がある。それを含めて僕がなんとかしよう。


「うん、そうする」


 シャーリィには言葉足らずなほうが、意図が伝わりやすいらしい。


「いちおう言っておくと、僕にも打算がある。君の眼は興味深くて、魔法の研究に役立てたいんだ」


 今発動している『深層解析』は、〝リディアの聖眼〟をもとに僕が開発した魔法だ。この魔法を改良するためにも、彼女は利用させてもらおう。


 と、シャーリィがくすくす笑った。


「それは、半分うそ」


 む、本心を語ったつもりなんだけどな。何が『半分』なんだろう?

 にしても、こんな風に無邪気に笑えたんだね。表情が乏しい子だと思ってたよ。


「クリスは、物知りだね」


「なんとなくわかってると思うけど、できればみんなには秘密にしておいてほしい」


 シャーリィはじっと僕を見つめる。


「うん、わかった」


 満面の笑みの彼女を、守りたいと思った。

 うん、そうだね。

 彼女がこうなってしまったのは、僕の責任なのだから――。



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