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呪刻印の転生冒険者 ~最強賢者、自由に生きる~  作者: すみもりさい
序章:最強賢者は伝説を作り――未来へ転生する
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魔王をワンパンで倒す


 荒野を進む黒い巨大な物体。嵐のように霧が暴れ、周囲に呪いを巻き散らしている。

 

 ほとんどが逃げ惑う中、無謀にも立ち向かう兵士たちがいた。

 おそらく指揮官クラスが逃げる時間を稼ぐために無茶な命令を下したのだろう。律義に守っている連中から蹂躙され、不真面目な奴が生き残る。

 

 この世界の不条理を凝縮したかのようだ。

 

 俺は第三冠位魔法『聖域防壁ホーリー・ランパート』を巨大黒球の周りに展開した。

 魔法の冠位は使用難度で定められるが、攻撃と防御では防御が有利に働く場合が多い。相克関係にあればなおさら顕著だ。

 

 ゆえに第二冠位魔法『冥府の霧嵐』に対し、一段低い『聖域防壁』はある程度の効果を発揮する。

 

 黒球の進撃が止まった。

 とはいえ上位になればなるほど魔法の威力差は強くなるため、数分持ちこたえるのがやっとだろう。

 

「退け。お前たちはよく戦った。あとは俺が引き継ごう」


 空中で声を響かせる。遠方にも届くよう拡声の魔法を施した。

 

「あ、あれは!」

「賢者様だ!」

「グラメウス様!」


 俺の姿に気づいた者たちが目を輝かせる。しかし一緒にいるはずの勇者たちがいないからだろう、次第に困惑と動揺が広がっていった。

 

 退けと言ったのに退かないのならこれ以上は構っていられない。

 

 俺は黒い球体へと正対した。中からくぐもった声が発せられる。


「賢者グラメウス……、ようやく、ようやくだ。かつての敗北を清算する日が、ようやく来た!」


「久しぶりだな。姿は見えずともお前が誰だかはわかっている。ずいぶんと成長したじゃないか」


「ほう? 我が何者かを知るか、賢者よ」


「ああ。当時は一軍団長だったな」


 あのときはたまたま滞在先の村がこいつに襲われ、仕方なく返り討ちにしたのだ。

 

「ならば驚いたであろうなあ。殺したと思った相手が、生きて魔王にまで上り詰めたのだから!」


 黒霧の嵐が勢いを増す。ぎちぎちと聖なる城壁が悲鳴を上げた。

 

「いや、お前が死んだふりをしていたのは知っていたが?」


「なんだとぉ!?」


 さらに嵐が暴れ回った。

 

「ではなにゆえ我を見逃したのだ!」


「……なんとなく?」


 村に被害は出なかったし、こいつを倒したら魔族たちは逃げ帰ったのでそれ以上は面倒だったのかもしれない。よく覚えていないな。

 

「おのれ……我はあの屈辱を忘れてはいない。そなたへの復讐を誓ってここまで到達したのだ。今こそ……今こそかつて脆弱だった我と決別するとき! そなたを倒し、真なる魔王として世界を我が手に!」


 黒い霧の中心部から魔力が溢れるのを感じた。霧の嵐はひと回り大きくなり、聖なる城壁に亀裂が入る。

 

「なるほど、俺への執着がお前を育てたのか。興味深いな」


「否定はせぬ。だからといって感謝もせぬ。そなたを滅殺してのち、我はさらなる高みを目指そう」


 これまた興味深い。

 しかし残念ながら、俺は殺されてやるつもりは毛頭なかった。

 

「せめて敬意は払おう。すこし、本気を出してやるよ」


 俺は杖を掲げる。聖域防壁に魔力を注いで修復しつつ、詠唱を開始した(・・・・・・・)


「なん、だ……、この魔力は? まさか……まさかあ!」


 俺の背後、虚空が光り輝く。そのうちからづるのは、神々しくも美しい翼の生えた女性の半身。黒い球体をも超える巨大な天使だった。

 

「バカな! 〝天使〟を召喚しただと!? それは第一冠位――」


 魔王の言葉を無視し、詠唱を終えて告げる。

 

「剣の天使よ、一刀に斬り伏せろ」


 天使の手にはいつの間にか剣が握られ、上段から振り下ろされた。

 

「また我は、そなたにぃ――」


 音はない。代わりにまばゆいばかりの光が黒い霧を掻き消した。


 光が空気に溶けるように消えると、荒野にボロ雑巾のような塊がそよ風に吹かれていた。

 

 ……また死んだふりをしているな。

 

 いや、さすがに意識は途絶えているか。肉体はズタボロだし。

 にしても、あの一撃を耐えたのは評価に値する。伊達に魔王をやっていないということか。

 

 とどめをさすのは簡単だ。しかしそれではバランスが悪い。

 低位魔法だけで壊滅した勇者パーティーと第一冠位魔法に耐えた魔王では、ともに滅ぼすにはまったく釣り合わない。

 

 俺は人魔の争いの当事者になってしまったが、一方にだけ有利な手助けをするつもりがなかった。

 

 あそこまで肉体を徹底的に破壊されれば復活まで五、六十年はかかるだろう。

 その間に新たな魔王が生まれなければ、それまで魔族たちは大人しくするはずだ。

 人族の側は魔王の復活あるいは新魔王の誕生までに、今度こそ優秀な勇者たちを育て上げればよし。そうでなければ魔族に敗れる。

 ただそれだけの話だ。


 さて、残る問題は――。

 

「賢者様が、魔王を倒した……」

「天使を使役していたよな?」

「なんてすごいお方だ」

「ところで勇者様はどこに?」


 振り返ると、生き残った兵士たちが膝をついて俺を拝んでいた。

 

 あれだけの力を見せれば当然か。

 

 俺は自身の実力を人前で発揮しないよう努めていた。

 人は利用価値のある者をぞんぶんに利用しようとし、ときには自分たちの地位が脅かされると勝手に敵視する。

 加えて勇者パーティーを壊滅させてしまった。勇者を生かした以上、俺が糾弾される可能性もなくはなかった。

 

 面倒事は御免だ。

 隠れ住んだとしても、死を偽装したとしても、安穏とした生活は保障されない。

 降りかかる火の粉を払うのは簡単だが、火の粉が頻繁に飛んでくるのは実に鬱陶しい。

 

 ではどうするか?


 むろん腹は決まっていた。勇者たちを返り討ちにしたときには、すでに。

 

 

 

「よし、転生しよう」




 俺の寿命が尽きるはずのずっと未来に、生まれ変わることに決めたのだ――。


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