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呪刻印の転生冒険者 ~最強賢者、自由に生きる~  作者: すみもりさい
第二章:伝説の賢者は冒険者になる
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審査は終了したものの


 バキンッ!


 僕の頭上で木製の大剣が根元から折れた。展開した魔法陣に防がれ、ゲイズさんの腕力に剣が耐えられなかったようだ。


 でも剣を武装強化していれば折れることはなかったよね。ああ、そもそも木製の武器を使ったのは相手を殺さないように配慮してだろう。なら武装強化しなくて当然か。


「ファル、ありがとう」


「クエッ♪」


 このやり取りも慣れたもの。これで僕が防御魔法陣を展開したとは思われないはず。


「大した信頼関係だ。あの魔物が必ず守ってくれると信じているのだな」


 ゲイズさんは言いながら大きく飛び退いた。折れた大剣を投げ捨て、気絶している槍使いの槍を拾い上げる。


 あれ? 今度も武装強化しないぞ。ただの槍だと自分自身をいくら強化しても武器が耐えられないから、さっきの防御魔法陣は突破できないとわかってるはずなのに。


「あの妙なダークエルフといい、この子どもといい、末恐ろしい連中だな」


 そうつぶやくと、ゲイズさんはダンッと地を蹴った。剣士や槍使いよりずっと速い。でも俊速走法には遠く及ばなかった。


 どうして俊速走法を使わないんだろう?

 第六冠位までの魔法の組み合わせで可能だから、ゲイズさんほどの魔力ならできて当たり前なんだけど……。


 刺突を躱して距離を取った。

 ゲイズさんはすぐさま間合いを詰めつつ槍を薙ぎ、避けられても連続で攻撃を仕掛けてくる。


 無駄のない動きだ。

 相当鍛錬を積んでいるのだろう。二つ名から巨大武器の扱いに長けた人だと思ったけど、細身の槍の扱いも巧い。おそらく片手剣やナイフもそつなくこなせると感じた。


 だからこそ、もやもやする。


 違和感の正体は明らかだ。

 だってゲイズさんは、身体強化系以外の魔法を使っていない。


 そりゃあ新人相手に本気は出さないだろう。でもその段階は超えているはずだ。

 もしかして、こちらの防御を突破する術があるのかな? あ、無詠唱での魔法攻撃を狙っているのかも。


 ゲイズさんがどんな手を使うのか興味が湧き、僕は眼前に防御魔法陣を展開した。でも――。


「ふっ! はあっ! せりゃ! とりゃ! ぬぅ、硬いな」


 ただ槍で突いたり叩いたり。

 魔法を発動する素振りも魔力の流れも見せていない。

 今度はこちらから仕掛けて様子を見よう。そう思ってファルに合図しようとして、僕はぎょっとした。


「クェェ……」


 寝てる!


 相変わらず寝ててもふよふよ飛んでいるのだけど、ファルが寝ているのに魔法を発動すれば僕がやっているとバレてしまう。

 でも起こすのは気が引けた。だって気持ちよさそうに寝てるんだもん。


 まあ考えようによってはいい流れかも。

 僕は魔法陣を消し、


「む?」


 パシリ。槍を上にはたいた。

 がら空きになった懐に俊足走法で潜りこみ、


「ごぉっ!」


 お腹に掌底を叩きこむ。

 ゲイズさんは吹っ飛んで地面を背中で削っていく。


「すみません。僕はこれで打ち止めです」


 両手を挙げて降参のポーズ。


「な、なんだと……?」


 お腹を押さえて立ち上がったゲイズさんに、ファルを指差して告白する。


「ファルが疲れちゃったみたいで、僕はこれ以上戦えません」


 冗談みたいにファルが大きな鼻ちょうちんを作り、ぱちんと割れた。でも起きない。


「……そ、そうか。意外な弱点があったものだな。いや、テイマーなら当然危惧すべきことか。対策はあるのか?」


「つながりには影響ありませんから、僕自身の身体能力はファルの影響で高くなったままです。だから魔物を抱えて逃げるくらいならなんとか」


 こうして弱みを見せておけば不必要に注目されることもないだろう。

 冒険者として生きるうえで一定以上の実力は示さなくちゃいけないから、バランスが難しい。でもちょっと楽しかったり。


「よし。貴様の審査は終わりだ。だが俺だけでは等級の判断ができん。結果は明日に持ち越すが構わないか?」


「はい。僕は構いません」


「なら帰ってよし。おい、貴様らはまだだぞ。とっとと起きろ」


 いちおう合格ってことでいいのかな。明日来て『不合格』と言われたらどうしよう? なんだかんだで『魔物依存』と捉えられたら僕個人の評価は高くならないし。


 寝ているファルを抱えて広場の端に歩いていくと、


「お疲れさまでした。回復薬はいかがですか? 審査にいらした方へのサービスです」


 エミリアさんが小瓶を差し出してくる。僕は常時発動型の回復系魔法をかけているから必要ないのだけど、善意を拒否するのは気が引ける。


「ありがとうございます」


「はぅ! またも純真無垢な笑顔……はっ! いけません。公私混同、ダメ、絶対」


 妙なことを口走る彼女から小瓶を受け取ってごくりと飲む。うん、おいしいものじゃないな、これ。


「あの、すこし見学してもいいですか?」


「へ? ああ、はい。構いませんよ」


 陽が暮れないうちに済ませたい用事があるのだけど、どうにも気になるので審査を観察することにした。


 ゲイズさん対審査対象の新人三人で模擬戦をやるようだ。


 開始早々、槍使いが突進する。まるで学習してない。

剣士は彼の大振りに困りながらも側面から斬りかかった。

 ゲイズさんは木製の片手剣で二人の攻撃を軽くあしらう。実力差は一目瞭然だ。

 魔法使いの子は火球を放っているけど、こちらもあっさり避けられる。リキャスト・タイムが長くてほとんど機能していなかった。


 単調な攻防が続く。


 ゲイズさんは三人の力量を見定めようとの意図がありありなのでいいとしても、剣士と槍使いは武器による攻撃しか行っていなかった。俊速走法はできないにしても、他の魔法で牽制しようともしない。


 そして魔法使いは遠慮がちに、アタッカーに指示も出さず、なんの工夫もなく同じ魔法を放つのみ。


 おかしい。やっぱり変だ。


 担当官が手加減していることを考慮しても。

 新人ゆえに発展途上であると勘案しても。


 アタッカーが身体強化系以外の魔法をまったく使っていないのはなぜなのか?

 パーティー戦の要たる(・ ・ ・)魔法使いがまるで存在感を示せていないのはどうして?


 いずれも前世の常識とはかけ離れている。


 調べてみるか。

 アレって第二冠位魔法だから呪印があるとちょっと辛いけど仕方がない。


 僕はエミリアさんに悟られないよう、口の中で小さく高速詠唱を行い、



 ――『深層解析(ディープ・アナライズ)』を発動した。



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