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呪刻印の転生冒険者 ~最強賢者、自由に生きる~  作者: すみもりさい
第二章:伝説の賢者は冒険者になる
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初回審査が始まった


 冒険者ギルドの裏手は広場になっていた。でも大魔法を撃ち合うような広さじゃない。隣接する建物に防護魔法もかけられていないし、ちょっと不安だな。


「よく来たなひよっこども! 俺が貴様らの初回審査を担当するゲイズだ!」


 広場には筋骨隆々でスキンヘッドのおじさんがいた。顔や体に無数の傷跡がある。

 その名に反応したのは剣士の少年だ。


「ゲイズ!? もしかして『破砕斧のゲイズ』さんですか!?」


「なんだよ? 有名な奴なのか?」とは槍使いの青年。


「十年前の『ハンプソン・スタンピード』で大活躍したのは有名ですよ」


「ああ、王都に魔物の大群が迫ったって話か。けど今は冒険者を辞めて試験官に落ちたんだろ? 大したことねえんじゃね?」


「はっはっは、威勢がいいのがいるな。俺が大したことないかは直にわかるとして、ひとつ忠告してやる。冒険者に必要なのは慎重さだ。自身の力を過信し、相手を過小評価する者から死んでいく」


 ぐぬぬと槍使いが押し黙る。


 それにしてもクリスの記憶にはない話だ。十年前の、おそらく国を揺るがす大事件すら教えられていないのか。いや、マルコ兄さんは僕を怖がらせないよう配慮したのかも。

 ちなみにゲイズさんの魔力はけっこう高い。低級刻印が消えたマルコ兄さんと同等くらいか。


 魔力といえば、さっきからずっと気になっていることがあった。


 魔法使いの彼女だ。

 実は彼女、他の二人に比べて魔力が低い。どうがんばっても第五冠位の壁は突破できないレベルだ。なのに、どうして魔法使いを選択したんだろう?


 彼女はむしろ、剣士や槍使いみたいなアタッカーとしてがんばるべきだと思う。

 なぜならそういった職業は、第七や第六冠位に位置する魔法を主体としても十分に立ち回れるからだ。


 まずは低冠位で使える身体強化系魔法を覚え、戦闘に耐えうる体を作り技術を磨く。それから属性に合わせた攻撃魔法や支援魔法を習得し、それらを絡めて戦う術を練り上げる。

 ゆえに魔力が低い人は物理攻撃主体のアタッカーになるのが、前世での常識だ。

 もちろんベースとなる自身の肉体を鍛えなくちゃならないけどね。


 というか、彼女の属性って〝水〟だよね。魔法使いより治癒系の神官とかのがいいような?

 なんだかもやもやする。


 そういえばさっき、槍使いが『たかが魔法使い』って言ってたよね。魔法使いは戦闘において重要なポジションじゃないのかな? いや、そんなバカな話があるとは思えないんだけど……。


「では審査を開始する。四人なら全員まとめて俺との模擬戦、にするところだが――」


 ゲイズさんはなぜか僕をちらりと見た。


「テイマー対残り三人で模擬戦をやってみろ」


「「はあ!?」」


 声を合わせたのはエミリアさんと槍使いだ。


「ゲイズさん、それじゃあ、あまりにもクリスさんが不利ですよ」

「そうだぜ。オレと残りの雑魚どもの間違いじゃねえのか?」


 なんで僕だけ特別扱いなのか、という意味では二人に同意だ。


「テイマーの貴様は、昨日西門で警備隊長とひと悶着あったそうじゃないか」


 あー、素手で吹っ飛ばしたアレかー。


「アサルト・ボアーを一撃で倒したとも聞いているぞ? なに、魔物付きだから実質は二対三だ。実力差があるようなら俺が劣勢側に入る。それなら文句ないだろう?」


「それなら、まあ……」

「へっ、速攻で片づけておっさんを引きずり出してやるぜ」


 妙な展開になったな。

 でも審査担当官のゲイズさんが昨日の騒ぎを知っていたのはよかったかも。いちいち『格闘能力が高い』のを説明しなくてよさそうだ。


 槍使いはやる気満々で、他の二人は渋々ながら反論はない様子。で、横を向けばファルの目がキラキラ輝いていた。


「殺しちゃダメだからね?」


「クエェ?」


 いやだから、『どうしてダメなの?』って顔をしないでよ。さっき槍の切っ先を向けられたことを根に持ってるのかな?


「準備はいいか? では始め!」


 距離を開けて対峙した直後、ゲイズさんが開始の合図をした。


「どりゃぁ!」


 真っ先に突っこんでくる槍使い。筋力と俊敏をわずかに強化しているけど、肉体硬化や耐魔法といった防御はまったくしていない。本気なの?


 側面に回りこんだ剣士も同様だ。

 そして後方の魔法使いはファイヤーボールの詠唱を始めた。よりにもよって自身の属性と相克する属性の魔法をなんでまた選ぶかなあ。


 マルコ兄さんが不思議がっていたけど、やっぱり今の時代は属性に無知すぎる。


 さて、僕はどうすべきだろう?


 ファルは自分でやりたそうにしているけど、防御がおろそかな相手では殺してしまいかねない。今までどおり僕が力加減を調整して対処するか。


 ああ、でも一撃で倒しちゃうと三人の審査ができなくなるよね。

 何もできずに彼らが初回審査に落ちてしまう事態は避けたい。


 ファルには後方で待機してもらい、僕は槍使いと剣士を待ち構えた。


 槍をやたらめったら振り回し、最終的には刺突が僕の胸に迫る。殺す気満々だけどまあいいや。てか無駄な動きが多すぎるよ。腰の剣を抜くまでもない。


 ひらりと避けたところに剣が振り下ろされた。こちらはある程度の基本はできている。でも僕は楽々紙一重で躱し、彼らの背後へ。


 ひと呼吸待ってようやく魔法使いが火球を放った。そちらへは目を向けずにファルへ合図。「クエッ」と鳴いたのを確認してから防御魔法陣を展開した。


 火球は魔法陣に打ち消される。やっぱり威力は大したことない。まともに食らっても耐魔法効果がパッシブで発動中だから無傷だったな。


 これで彼らの力量はある程度つかめただろう。

 僕は攻撃に転じた。


 ファルの周囲に三つの魔法陣を作る。そこから小さな光弾を撃ち放った。


「ごぼっ!」

「ぐっ」

「きゃあ!」


 三人は光弾を食らって吹っ飛ぶ。剣士と魔法使いは手にした武器でどうにか直撃は免れたものの、槍使いはお腹にモロに……泡を吹いて一人気絶した。


 この人たち、本当に冒険者としてやっていけるのかな?

 サイクロプスやアサルト・ボアーは言うに及ばず、ゴブリン相手でも数で負ければ対処できないぞ。


「す、すごいです……」


 見物していたエミリアさんが目をぱちくりさせている。

 そしてもう一人、審査担当官のゲイズさんはといえば。


「まだ審査は終わっていないぞ」


 ぶおん。

 いつの間にか手にしていた木製の大剣で僕に襲いかかってきた。

 僕にとっては、ここから本番だ――。



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