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呪刻印の転生冒険者 ~最強賢者、自由に生きる~  作者: すみもりさい
第二章:伝説の賢者は冒険者になる
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道具は大事に使おうね


 レイラは僕の正体に気づいた、と思う。


 それでいて僕が呪印をそのままにしてテイマーだと偽っている理由を察し、合わせてくれるようだ。


 彼女は昔から、あえて僕に真意を訊かずに考えを推し量って行動することがあった。

 たいていの場合は的確で、だから僕は彼女を参謀にするほど信頼していた。でも実のところちょっと過剰に想像を膨らませることもあったから心配ではある。


 近いうちにいろいろ話をしたほうがいいかもね。

 ま、今日のところは冒険者らしい装備を整えよう。


 エミリアさんに聞いた武具屋を見て回る。最初は大通り沿いにある大店に入った。所狭しと並ぶ武器や防具を眺め見る。


 なんだか、微妙。

 稀有な素材を使っているものはほとんどなく、素材をうまく組み合わせているものもなく、加工技術が際立っているとも言えなかった。


 ほとんどが魔法効果を付与してないってどういうことだ?

 しかも効果が付与されているものは、素材の特性で必然宿るようなものばかり。アイテムを強化する魔法や、魔石での加工がまったく見られなかった。


 何軒か回ったけど結果は同じ。冒険者の街と言いながらお粗末な武具やアイテムばかりだ。


せめて見てくれだけは良くしようと、あまり期待せず、入り組んだ路地を抜けてすこし広い通りに出た。


 小さな武具屋の扉を開いたら。


「だからよぉ、なまくらを売りつけた責任をどう取るのかって訊いてんだよ!」


 またもトラブルの予感。


 冒険者風の男が怒声を張り上げていた。他にも軽鎧姿の似たような男たちが二人。

 三人とも頬に布をあてがったり頭や手首に包帯を巻いたりとケガをしているようだ。冒険者ならとっとと治癒魔法で治せばいいのに。


「はんっ。テメエの腕が悪いのを武器のせいにしちゃなんねえ。冒険者ならまず腕を磨けってんだ」


 対峙するのは小さな男性。ひげもじゃの彼はドワーフかな。

 男三人に迫られても委縮せず立ち向かっている。その手には中ほどからぽっきり折れた片手剣が握られていた。


「んだとテメエ!」

「もっといいの寄越すか金を返しやがれ!」

「ぶっとばすぞ!」


 両者の言い分からどちらに非があるかはまだ判断できない。

 でも一方的に恫喝するのはいただけないな。


「あの、すみません。中を見させてもらっていいですか?」


 仲裁する気はないけど、第三者の登場でちょっとでも冷静になってくれればと空気を読まない発言で店の中に入った。


「なんだテメエ?」

「今取りこみ中だ」

「帰れ帰れ」


 失礼な人たちだなあ。


「ん? なんだそりゃ? 魔物か?」

「テイマー、なのか? けど冒険者にしちゃあ、プレートを付けちゃいねえし」

「見ろよ、両手に低級刻印があるぜ」


 警戒したのは一瞬で、僕の刻印を見てせせら笑う。


「おいガキ、邪魔だからとっとと帰んな」


 一人に凄まれる。これもう介入するしかなさそうだな。


「何かあったんですか?」


 冒険者の一人が面倒くさそうに、それでいてドワーフの店主さんに自身の正当性を主張する感じで僕に説明する。


 まとめると。

 彼らがここで買った剣が何かの拍子にぽきっと折れたそうだ。質の悪い武器を買わされ、それが原因でケガをしたから賠償しろとも言っている。


「半年も前に買ったもんにケチ付けるんじゃねえよ。これまで一度だって補修に来なかったくせによぉ」


 店主さんも負けてはいない。


「だいたい、素手の女に折られるってどういう状況だってんだ。大方空振りして岩にでも叩きつけたんだろうよ」


「んだとぉ!?」


 互いに譲る気はないらしい。


 にしても、半年も補修ナシ? 素手の女に折られた? 僕への説明と違うね。

 ふむ。ケガをした複数の冒険者。みな男性で、見るからにガラが悪い。……レイラに絡んでこっぴどくやられた人たちだったりして。


「もしかして素手の女性ってダークエルフの――」


「おいガキ、まさかテメエあの女の仲間じゃねえよな!?」


 やっぱりそうか。


「ちょっとその剣、見せてもらってもいいですか?」


 僕は無視してドワーフの店主さんから折れた剣を受け取った。

 なんの加護も呪いも付与されていない鋼の剣だ。でも物自体は実によくできている。合金具合もいいし、芯はしっかりしていた。ただ劣化が激しくはある。


 元の値段を訊いてみると、むしろ他店より良心的に思えた。


「その女性はこの剣について何かコメントしてませんでした?」


「……っ」


 押し黙ったってことはコメントがあったんだな。


「おそらくですけど、『剣が哀れ』とかそんな感じのことを――」


「テメエ! やっぱりあいつの仲間かよ!」


 当たったらしい。


 僕でも同じ感想を抱く。

 ろくにメンテナンスもされずに酷使され、きっとレイラも受け止めた程度で意図せず折ってしまったのだろう。


「この痛み具体でも、うまく扱っていれば折れることはなかったと思います」


「……上等だ。つまり俺らにケンカ売ってんだな」


 なんでそうなるの?


「じゃあそいつで俺の剣を受け止めてみろよ。へ、買ったばかりの業物でもう一回ぶったぎってやるぜ」


 だからなんでそうなるのさ?


「冒険者が一般人を相手に揉め事を起こすんですか?」


「剣の具合を確かめるだけだ。勢い余って腕が斬り落とされるかも知れねえがな」


 三人ともケタケタ笑ってるけどそれ、確実に怒られると思うよ?


 けどもう後には引けないらしい。これみよがしに青いプレートを指でこすっている。レイラとは色違いか。色でランクを表わすとしたらC以外……魔力量的にFな気がする。


「兄ちゃん、すまねえな。妙なことに巻きこんじまって……」


 しゅんとする店主さんに「気にしないでください」と笑みを返し、僕たちは店の外に出た。

 通りに人はまばら。それでも何事かと集まってきた。


「いくぞオラ!」


 いろいろ鬱憤が溜まってるのかなあ。問答無用で襲いかかってきた。なるほど。剣自体は新しいのもあってそこそこだ。


 でも扱う側がいただけない。パワーはそこそこ。でも動きは直線的で大振りだ。やたら威勢がいいけど、最低のFランクと考えて間違いなさそうだ。いるよね、こういう駆け出しって。


 上段から力任せに振り下ろされた剣をぼんやり眺める。

 折れた剣であっちの剣を叩き折るのは簡単だ。武装強化するまでもない。剣の弱い部分にこちらの強い部分を合わせ、相手の力を利用すれば楽に破壊できる。


 でもそれだとあっちの剣が可哀そうだし、きっとこの人たちは新しい剣を買った店に因縁をつけにいく。


 だから僕は――。


 肩口に迫った刀身の横腹に折れた剣を押し当てた。軽い力で軌道を逸らし、半歩前へ。喉元に刃をあてがった。


「なっ!?」


 驚く間に一足飛びに距離を開け、相手が体勢を整えるのを待ってから地を蹴った。一瞬にして再び接近する。


「ひぃ!」


 相手はむやみやたらに剣を振り回すも、僕はそれを掻い潜って懐へ。腹に折れた剣を突き立てた。切っ先がなくなっているので、まるで相手のお腹に突き刺さったように見える。


「ぐっ、うぉおっ!」


 蹴りを避け、その足をぺしりと剣の腹で叩き上げる。


「ぐべっ!」


 相手はぐるんと後方へ一回転してうつ伏せに地に落ちた。


「貴方は力に頼り過ぎです。だから剣の損耗が早くて簡単に折れてしまうんですよ。力任せではなく、剣技を磨いたほうがいいですね」


 それ以前に身体強化系の魔法が雑過ぎる。門にいた衛兵隊長もこんな感じだったな。


 わっと歓声が上がる。

 いつの間にか見物人が二十人くらいに増えていた。


「あの子、すごいな」

「相手はDランクの冒険者だぞ」

「それを一瞬で……」


 えっ、あの人たちってDランクなの? Fより二つも上の等級か。


 いや、うん。攻撃魔法ナシの斬り合いなんて、純粋な戦闘能力とは言えないもんな。さすがの彼らも街中で魔法をぶっ放すなんて非常識はしなかったみたいだ。でも彼らの魔力量じゃ……なんか、変だな。


 さすがに『その程度でどうしてDランクなんですか?』なんて煽るようなことは訊けない。


「ぐ、ぐぞぉ……覚えてやがれ!」


 けっきょく仲間の二人ともども、冒険者たちは見物人を押しのけて去っていった。


「すげえな兄ちゃん。見たところ子どもなのに大したもんだ。それからありがとよ。兄ちゃんみたいなのに買ってもらえたら、そいつも幸せだったんだろうが……」


 ドワーフの店主さんに折れた剣を渡すと、哀しそうに太い眉尻を下げた。


「装備を整えたいんですけど、中を見せてもらっていいですか?」


「おうよ! ついでに見ながら待っててくれねえか。いいモンがあるんだよ」


 店主さんはそう言って店の奥へ駆けていった。

 いいものってなんだろう? 掘り出しものかな? 僕はウキウキして店の中に入った――。



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