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呪刻印の転生冒険者 ~最強賢者、自由に生きる~  作者: すみもりさい
第一章:貴族に転生したけど自由に生きたい
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村で歓迎された


 のんびりと街道を行く。

 僕のすぐ隣では、小さな羽をパタパタさせてふわふわ浮くちびドラゴン。


「その姿だとかなり魔力が抑えられてるね。強い力も出せないのかな?」

「クエッ」

「やっぱりそうか。元の姿には戻れるの?」

「クエッ。クエクエェ」

「戻れるけどそう頻繁には無理、なんだね」

「クエッ」

「食事はどうしよう? さっき捌いた肉は持ってるけど」

「クエエ」

「お肉は嫌いなの? じゃあ何が食べたい?」

「クエッ」


 ちびドラゴンはパタパタ飛んで、茂みにかぶりついた。もしゃもしゃ葉っぱを食べている。なるほど、草食なのか。


 こんな感じで会話はできている。僕の言葉は理解しているようで、僕も鳴き声や表情でなんとなくこの子の伝えたいことがわかった。

 腰を落ち着けたら本格的に魔物と意思疎通できる魔法を完成させよう。


「そういえば、僕は君をなんて呼べばいいのかな?」


 テイマーとして活動する以上、パートナーの名づけは重要だ。


「クエクエッ♪」


 尻尾をふりふり。どうやら僕が名前を決めていいらしい。


「アレックス」

「クエエ」

「ダメ? それじゃあロドマン」

「クエエッ」

「これもダメか。うーん……リリステア」

「クエエ」


 男の子っぽい名前から女の子っぽい名前に変えたけどお気に召さない。ドラゴンって明確な雌雄がなかったっけ。中性的な名前がいいのかな。

 いくつか案を出したけどちびドラゴンが満足するものは出なかった。


「……じゃあ、ファルプリアス」


「クエッ! クエクエクエェ!!」


 そこらを飛び回って喜んでいる。よほど気に入ったらしい。でもこの名前、前世の僕が退治した悪竜の名前なんだけどな。

 まあ、気に入ったならいいか。


「長いから『ファル』って呼んでいい?」


 ファルプリアスは空中でふわふわ上下に揺れてから、「クエ」と静かに鳴いた。ちょっとご不満だけど妥協してくれたらしい。じゃあ、ファルプリアスは魔物の種類ってことにしよう。


 そうこうするうち陽が落ちかけていたので、僕は急いで村へと走った――。




 けっきょく夜になってしまった。

 粗末な木の柵で囲まれた、五十人足らずの小さな村だ。


 村の中には畑があり、小さな家が点在している。村の中心部には数件が軒を連ねていた。ひとつだけ明るい建物は宿屋兼酒場のようだ。

 中には男性客が十人ほど。おばさんがお酒や料理を運んでいた。

 でもなんだかみんな、どんよりしている。


「これからどうすりゃいいんだ……」

「もうこの村はお終いだ」


 さっそくトラブルの予感。どうしてこうも行く先々で見舞われてしまうのか。


「もっと深くは掘れないのかねえ?」


 お店のおばさんの言葉に『おや?』と僕は首をひねる。


「ダメだな。岩盤に邪魔されて俺たちじゃお手上げだ」



「べつのとこを掘りまくるしかねえよ」


「それで出てくりゃいいけどな」


「毎日川までの往復を考えりゃあ、やるだけやってみるのもいいだろ?」


「そう言って今日で五つ目だ。で、ことごとく岩盤に邪魔されてるじゃねえか。きっとこの村の下にはでっかい岩が横たわってんだよ。ちくしょうめ!」


 なるほど。井戸が枯れて困っているのか。


「せめて魔法が使えりゃあな……」

「へっ、低級民の寄せ集めの俺らにできるわけないだろ」


 いっそうどんよりしてしまった。

 以上、全方位監視で確認した状況だ。


 トラブルに関わりたくはない。でも情報は得ておきたい。それに、困っている人たちを放っておけなかった。


 僕はファルを連れて村の閉ざされた入り口に近寄る。


「おい、お前」


 五メートルほどの高さにある櫓から声が降ってきた。おじさんが身を乗り出し、ランプを掲げて僕を見下ろす。


「村じゃ見ない子どもだな。それに……足元にいるのはなんだ? 魔物……なのか?」


「僕はクリスっていいます。旅をしているテイマーで、こっちは『ファル』です」


「テイマー? ああ、魔物使いか。やっぱりそいつは魔物なんだな」


「よく懐いていますから人に危害は加えません。ひと晩だけでも休ませてもらえませんか?」


 返事が途絶える。でもしばらくすると入り口がギギギと開いた。


「ここは低級民ばかりの村だ。もてなしは期待しないでくれよ……って、お前も低級民かよ。そんなんで魔物を使役できるのか?」


「安心してください。契約はきちんとできてます」


 実際のところ召喚アイテムが壊れても緩やかな使役状態は保たれている。本気でファルが反逆すれば力づくで止めなきゃだけど。ま、大丈夫だよね。


 おじさんは胡散臭そうなものを見るような表情ながらも、僕たちを村に入れてくれた。

 僕が子どもでファルは弱そうだと考えたのかも。ただなんとなくだけど、諦めの気持ちに支配されているように思う。


「まっすぐ進めば宿屋がある。金がなくても納屋でよけりゃ泊めてくれるだろうよ」


「ありがとうございました」


 僕はぺこりと礼をしてから、ファルを連れて宿屋へ向かった。


 入るなり不審者を見るような視線を浴びる。主にファルに対するものだ。同じ話をしても入り口のおじさんのようにはいかなかった。

 そんな中、お店のおばさんが興味津々で寄ってきた。


「よく見りゃ愛嬌あるじゃないか。なんて魔物なんだい?」


「ええっと……ファルプリアスって珍しい種類で、僕は『ファル』って呼んでいます」


「へえ、聞いたことない魔物だねえ」


 お店のおばさんがぺたぺた触ると、ファルはくすぐったそうにするだけで大人しかった。おかげで男の人たちも警戒を緩めてくれた。


「刻印を二つも持ってるのにテイマーをやってんのかい。子どもなのにすごいもんだねえ」


「特殊なアイテムで幸運にも契約できたんです。それだと以降も魔力はいらないですから。それより、深刻なお話をしていたようですけど何かあったんですか?」


「ん? ああ、実はさ――」


 僕はすでに知っている話を聞き終わると、


「井戸、ですか。この子なら、なんとかなるかもしれません」


「「「本当か!?」」」


 ものすごい食いつきだ。藁にもすがる思いだったんだろう。


 案内されたのは宿屋の裏手。

 ちょっと開けた場所に、直径三メートルほどの大きな石積みの井戸があった。雨避けの屋根が付いていて、ロープの付いた木桶を巻き上げる装置もいくつか設置されていた。


 僕はひょいと中を覗きこむ。夜で暗いのもあるけどまったく底が見えない。二十メートルはあるな。


「ファル、お願いできる?」


「クエッ」


 ちびドラゴンのファルは小さな羽をパタパタさせ、井戸の真ん中に浮いた。大きな口を開けて下を向く。


「クエーッ!」


 雄叫びを上げたその瞬間。

 みなの注目がファルに向けられたのを確認し、僕は魔法を発動した。


 ゴゴゴゴゴォンッ! と轟音が鳴り響く。


 分厚い岩盤をがりがりと削る土属性魔法だ。井戸の底の中心部がどんどん掘られていき、やがてその下にある水脈へ達した。


 ブシャーッと水柱が立つ。井戸の屋根を貫くほどの勢いだった。ファルはずぶ濡れ。


「す、すみません! 井戸の屋根を壊してしまって……」


 ファルは水を浴びてなんだか楽しそうなのでいいとしても、村の施設を破壊してしまった。


「いやいやいや! 謝ることねえよ」

「屋根なんて作り直せばいい」

「ありがとう!」

「これで村は救われる……」


 小躍りしたり号泣したり水を浴びたり、とにかくみんなは喜んでくれたようだ。

 さすがに水が噴き出しっぱなしは問題だろうからと、こっそり穴をちょうどよい大きさに埋めておいた。水柱が消え、井戸の水面が三メートルほど下に溜まる。


「本当にすごいな、君は」


「いえ、僕じゃなくてファルがすごいんですよ」


「その魔物を使いこなしているのはあんたじゃないか。十分にすごいよ」


 うん、今回も上手くいった。

 ファルに何かさせたように見せかければ人前で僕が魔法を使っても怪しまれないな。刻印を持っていてもテイマーなら疑われることはないみたいだし。


 その晩は、村の人たちから盛大なもてなしを受けた――。



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