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呪刻印の転生冒険者 ~最強賢者、自由に生きる~  作者: すみもりさい
第一章:貴族に転生したけど自由に生きたい
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パートナーが見つかった


 前世の僕はあまり人を信用しなかったので、信頼のおける人造人間を作り上げた。


 中でも僕の参謀的位置づけだったのが彼女――ダークエルフのレイラだ。


 転生前の記憶が戻ったその日に、まさか前世の僕を知る者に出会うとは。これって偶然? それとも……。


「わたくしは誰何したのですが? 返答なしとはいかなる理由でしょう? 『慎重に』との言葉に従っているのなら失礼しました。撤回しますのでとっとと答えなさい」


 うん、気づいてなかった。

 そもそも僕、いつどこの誰に転生するなんて言ってなかったからね。そこは運任せだったし。呪印があれば気づくだろうと考えていたけど、今の時代は呪印を宿す者だらけ。


 むしろどう説明してもかつての賢者だと信じてはもらえないかも。ま、彼女たちには『自由に生きろ』と言った手前、正体を明かす気は今のところないけどね。


「僕はクリスっていいます」


「名乗って終わりとお考えで? どこの誰ぞやをわたくしは問うているとしつこく言わねばなりませんか?」


「実は僕、記憶がおぼろげで……」


 彼女たちに嘘を言うのはなんとなく嫌なので、ギリギリのラインで回答する。


「ふむ、信じるかどうかはいったん保留で。では別の問いをば。ここで何をしていましたか?」


 さて、どう答えようか。

 彼女はここが盗賊の根城だと知っている。そして今現在、中にまだ盗賊たちがいることも。もしかしたら熟睡しているとも気づいているかも。


 そして僕の呪印を目にしてなお警戒しているのは、僕からあふれ出る魔力を感知しているからだ。


 下手なことを言えば問答無用で襲ってくるね。彼女はそういう性格だ。

 ここは正直に話そう。


「棲み処を奪われたゴブリンたちと協力して、盗賊たちをやっつけました」


「ほう? 魔物と共闘、ですか」


「なんとなく意思疎通ができたので、僕が盗賊たちの注意を引いている間に彼らが奇襲して、盗賊たちをみんな昏倒させました」


 レイラがじぃーっと僕を観察する。


「即興の嘘にしては淀みなく、動揺も感じ取れません。実に肝が据わっていますね、貴方」


「嘘じゃないです」


「ええ、そのようですね。かといって不可解な点が拭えたわけではありません。むしろ増えました」


 警戒の色を濃くした彼女だったけど、『ん?』と僕の手に視線が移った。正確には、僕が持っている角笛に、だ。


「……『魔召喚の角笛』ですか。それで付近のゴブリンを従わせる何かを呼び出したのですか? そういえば、ここに至るまでに強大な魔力を感知しましたが」


 ここも正直に話しておくか。


「これを吹いたのは、ここから少し離れた街道近くです。ドラゴンが現れて、そこにいた盗賊たちをやっつけてくれました。その後すぐ、ドラゴンは帰っていきました」


「ふむ。違う場所で異なる魔物を使役して、それぞれで盗賊を討伐した、と。見た目はお子様ですが高い魔力をお持ちですね。なるほど。ええ、なるほどなるほど」


 納得してくれたかな、と思ったのも束の間。

 ギラン、とメガネの奥の瞳を光らせて、


「ツッコみどころが多々ありますのに、なぜか指摘できないこのモヤモヤはなんでしょうか!? わたくしがかように言葉を受け入れるのは、あのお方に対してだけですのにぃ!」


 銀髪をかきむしりながら喚き散らしたぞ?

 本能レベルで僕の正体を見破ってるんじゃないかな、これ。


「あり得ません。ですのでわたくし、メンタルを鋼と化してわずかながら抗います」


 相変わらず切り替えが早い。


「一点のみ検証を。本当にドラゴンを召喚したのか、もう一度その角笛を吹いてみなさい」


 そうきたかー。

 同じ魔物が召喚されるとは限らないんだよね。でもやらなきゃ信じてもらえないだろうし、同格の魔物なら言い訳もできるか。


 僕は仕方なく魔召喚の角笛を吹いた。

 上空にさっきと同じくらいの魔法陣が現れる。そこからぬぬっと現れたのは、カオス・エンシェントドラゴン――さっきと同じっぽい。


 ずずぅんと古砦の外壁を破壊して降り立ったドラゴンは、『また会ったね』という感じで目を細めて僕を見た。


「信じましょう。低級刻印を二つも宿してなおその魔力。驚愕に値しますが脅威とまでは言えません。むろん望まれるのならりますが?」


「いえ、けっこうです」


「そうですか。助かります。これまた不可解なことになぜか正直に告白してしまいますと、貴方とドラゴンを同時に相手しては敗北必至な気がしてなりませんでした」


 なのに煽ってきたのか。これまた相変わらずだな。


 僕は角笛を口に当てる。ドラゴンさん、用事もないのに呼び出してごめんなさい。心の中で謝りながら息を吐き出した直後。


 ビキッ。

 角笛にヒビが……。


 ビキビキ、バキンッ!

 ついに割れてしまった。


「……」(僕)

「……」(レイラ)

「……」(ドラゴン)


 えっ、これどうしよう? ドラゴンを元の場所に戻せなくなったぞ。


「魔召喚の角笛が、流入した魔力に耐えきれなかったようですね」


 単なる劣化じゃないかな? 呪印二つで抑えているんだし……そうだよね?


「あれほどのアイテムを破壊するほどとなれば、やはり世界の脅威に認定すべきでしょうか? いや、しかし……」


 勘弁してください。僕は世界をどうこうする気はないです。


「なんでしょうかこの違和感は。ひとたび気になってしまうと、なんだかこのお子様がまるであのお方のように………………まさか!?」


 レイラは突然目を見開いて叫ぶと、僕を上からも下からも舐めるように見やる。


「いえ、しかし、そんな、ですが……」


 ぶつぶつ言いながら僕の周りをぐるぐる回り、じろじろ眺めてきた。


「くんくん……この香しい匂いは!? ご主人様のもの!」


 匂いでわかるの? あ、もしかして。 

 僕はわざとらしくポケットにねじ込んだノートに手をかけた。位置を直すふりをして半分まで引き抜く。


「ん? それは……そそそそれはぁ!」


 僕の股間辺りにぐぐっと顔を寄せるレイラ。近いよ。


「あ、これですか? 古砦の中に落ちていたのを拾ったんです」


 僕がノートを差し出すと、レイラは震える手で受け取り、ぺらぺらとめくった。


「ああ、この芸術的な筆致は間違いなくあのお方の聖遺物。よもやこのような場所で出会えるとは思いませんでした……」


 はらはらと涙を流し、大きな胸にノートを抱く。


「いえ、いいえ。きっとわたくしはこの香りに誘われてこの地にやってきたのでしょう。これぞ運命! 愛の! 奇跡!」


 今度はノートを高々と掲げてくるくる回る。


「よかったら差し上げますけど」


「本当ですか!?」


 ずびゅんと飛んできて顔がくっつくほど接近する。だから近いよ。


「ああ、なんて心清き少年でしょう。わたくし感動しました。なでなでしてあげます」


 頭をなでなでされる僕。


「ところで、お姉さんはここへ何をしに来たんですか?」


「わたくしはこの世界を守る者。いつかあのお方が再び目覚めるときのため、世界の脅威をつぶして回っているのです。まあ、そんなものはほぼほぼいませんので、暇つぶしに小悪党どもをぶちのめしながら旅をしています」


「へえ……」


「しかしわたくし確信しました。聖遺物を手にしたのは吉兆に違いありません。あのお方の復活は間近。それすなわち愛するお方との再会も間近……うふ、うふふふふふ……」


 痛いです。頭をわしゃわしゃしないで。


「では、わたくしはそのときに備えて愛の巣を定めにまいります。貴方も道中お気を付けて」


「ありがとうございます」


「よいお返事です。貴方なら一人旅を苦もなくこなすでしょう。ではこれにて失礼。再び会えたなら、また頭を撫でて差し上げましょう」


 レイラは優雅に一礼すると、ひゅーんと木々を越え、街道へ向かい飛んでいった。話を聞く間もなかったな。


 でも元気そうでよかった。

 ずっと待たせているのは心苦しいけど、今さら僕が名乗り出ても彼女たちを束縛するだけだ。僕がまた『自由に生きろ』といえば従うだろうけど、心の奥では僕の存在に縛られてしまう。まあ、今もそうなのかもしれないけど。


 さて、僕も出発したいところだけど。

 じーっと僕を見下ろす巨大ドラゴン。この子をどうしよう?


「棲み処に戻れる?」


 ぶおんぶおんと長い首が横に振られた。

 ここに残していくのは気が引ける。人里の近くにいれば、見つかって討伐の対象になってしまうから。


「せめてサイズが小さければ……」


 言った直後、ぴかっとまばゆい光が辺りを白く染めた。

 光が治まると――。


「クエーッ」


 僕の膝くらいまでの大きさの、小型ドラゴンがそこにいた。

厳つい姿がずんぐりした可愛らしいものになっている。背中には小さな羽。色は真っ黒だったのがファンシーなピンク色になっていた。


「サイズを変えられるのか。君、もしかして二千年くらい生きてない?」


 長く生きたドラゴンは魔法とは違う不思議な力を持っている。思った以上に格の高いドラゴンだったらしい。


 首は長いのでドラゴンに見えなくもないけど、このサイズと愛らしい姿ならそう怖がられはしないだろう。ドラゴンの幼体なんて資料にもほとんどない。この時代はどうか知らないけど。


「一緒に行く?」


 僕が尋ねると、


「クエッ♪」


 なんだか楽しそうに鳴き声を上げた。


 とにかく、偶然にもパートナーに出会えた。これでテイマーとしてやっていけるぞ。



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