みんなで一緒に盗賊退治
古砦の中では十六人が広間に集まっていた。みな同じような格好をして、拘束されている様子もないから全員が盗賊だろう。
そして周囲に人はいない。いないのだけど、
「グゲゲ」
「ゴゲゴゲ」
ゴブリンたちが足音を忍ばせ、古砦に近づいていた。
「何してるの?」
先行する一匹に近寄って声をかけた。
「ゴゲッ!?」
「あ、突然ごめん。びっくりさせちゃったね」
飛び上がって驚いたゴブリンを落ち着かせ、事情を訊いてみると。
「なるほど、あそこが君たちの棲み処だったのか」
どうやら彼らは盗賊たちに追い出されてしまったらしい。
だから取り返しに来たかというと、そうでもなかった。
行く当てもなく、『もういなくなってるかな? だったらいいな』と様子を見に来たそうな。
危ないから引き返せ、と諭すのは簡単だ。
でもお腹を空かせてここまでたどり着いた彼らを放ってもおけない。
盗賊はいずれ人の手で討伐されるだろう。でもそれを待っていたら迷えるゴブリンたちは空腹で倒れてしまうかも。
それに、これはいい機会だ。僕がテイマー・ロールプレイをやる、絶好の。
だから――。
「僕も手伝うよ。一緒にあいつらを懲らしめよう」
「グゲッ!」
さっそくゴブリンたちを集めて、作戦会議を始めた――。
茂みから古砦を見やる。
見張り役はいないようで、十六名みんなが砦の中央付近にある広間に集まっていた。
広間は四方向に扉がある。そのうちのひとつに近い場所に連中は固まっていた。
「じゃ、打ち合わせ通りに頼むよ」
傍らにいたゴブリンが一体、ガサゴソと茂みを進んでいく。
僕は正面から中に入った。まっすぐ広間に向かう。
盗賊たちはごろごろしたりカードで賭け事をしたり、昼間から酒も飲んでいた。彼らから一番離れた扉を開く。
「ん? なんだテメエ」
一人が僕の存在に気づいた。
おどおどした風を装いながら彼に歩み寄る。
「女……じゃねえな。男のガキがなんでこんなとこに?」
「森で迷ったのか?」
「見ろよ、両手の甲に低級刻印があるぜ」
「農場でこき使われてたのが逃げ出してきたか?」
物珍しそうにわらわら近寄ってきた。
「あの、道に迷ってしまって……何か食べるものをいただけませんか?」
僕がそうお願いすると一瞬静まり返り、
「おいおい、俺らが教会の神父にでも見えんのか?」
「俺らはな、盗賊なの。わかる?」
「迷いこむとこ間違えたなあ」
「切り刻んで獣を誘き出すエサにしちまうか」
ゲラゲラとみんな笑い出した。
「でもよお、けっこうキレイな顔してんぜ?」
「なんだお前、そっちの趣味があったのか?」
「ちげえよ。女みてえな男のガキを好む変態ってのがいるらしいからな。そいつに高く売れるんじゃねえかって話だ」
「なるほどなあ。んじゃ、王都の闇商人に売っ払うか」
「よかったなあ、坊主。ひとまず飯にはありつけるぞ。その後の人生がどうなるかは知らねえがなあ」
男が一人、下卑た笑みを浮かべて寄ってきた。
「逃げんじゃねえぞお。こんなとこに迷いこんだテメエのマヌケさを恨み――」
突如、背後で鈍い音。
「ぎゃあ!?」
続けて悲鳴が上がる。
何事かとみながそちらへ顔を向けると。
「グゲェ!」
「ゴギャギャ!」
二匹のゴブリンがこん棒を振り回していた。
僕が注意を引いている隙に、彼らの背後の扉から押し入って奇襲を仕掛けたのだ。ちなみに扉を開いた音や足音は僕が消していた。
「ゴブリンども!」
「棲み処を取り戻しに来やがったのか」
「へ、返り討ちにしてやるぜ!」
奇襲を受けても怯まず、酔っ払いながらも剣を握る盗賊たち。
ゴブリン相手に油断しまくっている。なので――
「うぎゃっ!?」
「げはっ!?」
あちこちでまたも悲鳴が上がる。すべて盗賊たちのものだ。
ゴブリン二匹に向かった彼らの背後、僕が入ってきた扉から、こちらも音を立てずになだれ込んできたゴブリン集団。リーダーを筆頭にした主力部隊が襲いかかった。
「くそっ! なんなんだ、こいつら」
「統率が取れてやがる」
「怯むな! 所詮は棒きれを振り回してるだけだ。押し返せ!」
威勢よく叫んだ男は、こん棒で殴られてバタリと倒れた。
「バカな……。たったアレっぽっちで気絶したのかよ?」
「なんかおかしくねえか?」
「ん? なんでこいつら、こん棒ばっかり持ってんだ?」
気づいたようだけどもう遅い。
彼らが手にするこん棒は僕がついさっき作ったものだ。
生木を削ったうえで硬度を高め、ついでに『睡眠』の特殊効果を付与している。即興で作ったものだし素材は適していない。でも酔っ払った相手には十分な効果があった。
「調子に乗るなよ、くそがぁ!」
大柄な男が剣を振るう。
近くにいたゴブリンは避けられない。
しかし――。
「グゲェ!」
ゴブリンリーダーが片手を突き出して叫ぶと、火球が生まれて飛び出した。男の剣を弾き飛ばす。
「このゴブリン、魔法を使いやがるのかよ……」
呆然とする男がつぶやく。
魔法を放ったのは僕。事前に打ち合わせて、あたかもリーダーが魔法を放ったと思わせる演技をしてもらった。うん、完璧。実に自然だった。
と、その男がこちらに向いた。
「おかしな話だぜ。なんだってテメエは、無事なんだよ……?」
震える声に、僕はわずかに微笑んで。
「僕、テイマーなんです」
「な、に……? てことは、こいつらを指揮してんのテメエ――ぶべっ!」
僕に対し身構えた男は顔面にこん棒をまともに受け、白目を剥いて倒れた。
「今ので最後か。お疲れさま」
盗賊たちはみんな夢の中。こちらの被害はゼロだ。こっそり防御もしていたからね。
「「「グゲゲェッ!」」」
ゴブリンたちは手にしたこん棒を高々と掲げ、勝鬨を上げた――。