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呪刻印の転生冒険者 ~最強賢者、自由に生きる~  作者: すみもりさい
第一章:貴族に転生したけど自由に生きたい
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召喚アイテムを使ってみた


 飛翔魔法を使えば一週間程度の道のりなんて数時間だ。


 でもせっかく自由になったのに、そう簡単に目的地にたどり着いては面白くない。

 前世ではあちこち旅したりもしていたけど、今の僕――クリス・アレスターはようやく自由を手にして敷地内から出られたのだ。


 旅を思いきり楽しみたかった。


 ひとまず約束どおりにアレスター家の領内から出た、と思う。境目がよくわからないけど、けっこう走ったから大丈夫なはず。

 ようやく腹ごしらえできそうだよ。


 付近を探索して小川を見つける。

 調理器具と食器を、そこらの木を切って作った。風の刃でちょちょいのちょいだ。火熾しも魔法なら簡単。魚や獣を狩って捌いて焼いて食べ、草や木の実を持ってきては貪った。今の僕の知識にはないもので、前世の記憶のおかげだ。


「ふぅ、やっと落ち着いたな」


 お腹をさすりながら今後を考える。

 いまだクリス・アレスターとしての記憶があやふやだ。

 思い出そうとすればなんとか思い出せるけど、それも知っていることだけだ。当然ながら。


 僕は今の時代でいうところの『低級刻印』を二つも宿し、魔法の才能がまったくないと思われている。

 貴族の家に生まれた僕は家族から疎まれ、自室に軟禁された状態で十二年近くを過ごした。家名を剥奪されて使用人にされると、こき使われて半年が過ぎ、十二歳の誕生日を迎えたのだ。

 ほとんど家から出ず、書物も読めず、他者ともまともに会話してこなかった。だから一般に知り得る知識が大きく欠けているように思う。


 マルコ兄さんが他の家族の目を盗んで読み書きや計算は教えてくれたけど、その程度だ。


 けっきょく人魔の争いってどうなったんだろう?

 今の時代の状況は?

 低級刻印はいつからこの世界に広まったの?


 うーん……ダメだ。頭が疲れるばかりで何も掘り当てられない。常識すら教えられていないってものすごい虐待だよなあ。


 とにかく情報を得ることが先決だ。

 年代や場所なんかは、とある魔法ですぐにわかるんだけど……疲れるからやめておこう。


 まずは人を見つけて情報収集だね。


 兄さんの話では森を抜ければ村があるらしい。そこで情報を集めるか。途中で旅人にでも出会えれば尚いい。

 小さな村だと目立つから、情報を得たら兄さんの提案に従って『レイナーク』という街へ向かおう。


 レイナークは冒険者を目指すにはよい街らしい。


 冒険者の自由な生き方に憧れはある。ただ、あまりに目立ってしまうのは避けたい。実力を隠したまま、冒険者としてそこそこの位置で活動する方法はあるだろうか?


「あ、そうだ」


 僕はポケットをまさぐって、手のひらサイズのアイテムを取り出した。


「この『魔召喚の角笛』で、魔物を使役したらどうだろう?」


 これを吹くと魔物が召喚される。召喚した魔物は呼び出した者の命令に従う。

 で、使役した魔物が強力な魔法を使ったように見せかければいい。


 つまり僕は魔物使い(テイマー)になるのだ。


 特殊アイテムで使役したと言えば(嘘じゃないし)、刻印を二つ持つ僕でも信じてもらえるんじゃないかな?


「でもこれ、呼び出す対象は選べないんだよね」


 何が召喚されるかはランダムで、吹いた者の魔力に応じて強さが決まる、だったかな。


「何度か試して、ふさわしいのが呼び出されるまで繰り返す手もあるけど……ま、のんびりやればいいか」


 時間はたっぷりあるのだから。


 そういえば、あの館はどうなっているんだろう? 僕の人造人間(子ども)たちは残っているのかな?

 みんなに会いたい気持ちはあるけど、『自由に生きろ』と言った手前、干渉はしないほうがいいよね。ちょっと寂しいけれど。


 考えてたら疲れちゃったな。


 まだ陽は高いけど僕はごろりと横になって眠りについた――『ギャーーッ!』――でも五分もせずに起き上がる。


 今、悲鳴が聞こえたよね。

 寝ている間に周囲を警戒するクセが(前世から)ついていたから、かなり遠くからなのに聞こえてしまった。

 聞こえた以上、気になって寝ていられない。


 ともかく様子を見るか、と僕は駆けた――。




 森の中で立ち止まる。全方位監視(ゴッド・ビジョン)を拡張して状況は把握できた。


 荷馬車が二台、立ち往生している。その周囲では武装した男たちが斬り合っていた。

 小汚い身なりの集団が十五人ほどで、傭兵風の逞しい男たちは六人。双方にケガ人が出ていて現状は九対三。一方的な展開になりつつある。


 そして荷馬車のひとつでは、恰幅のよいお爺さんが小さな女の子を抱きしめて震えていた。さっきの悲鳴は女の子……ではなく、お爺さんのものだ。


「いい加減、諦めたらどうだ? この数に勝てると思ってんのかよ?」と小汚い誰か。


「荷を置いていきゃあ命までは取らねえ」とこっちも小汚い人。


「に、荷はくれてやる。じゃがこの子だけは見逃してくれ……」とお爺さんが懇願するも、


「そいつは聞けねえ。俺らの好みじゃねえが、見てくれのいいガキンチョは高く買ってくれる奴がいるんでなあ」


 お爺さんはこの世の終わりのように顔を青くした。

 女の子は完全なる無表情。たしかに金色の髪と青い瞳がきれいな可愛い女の子だけど、まだ十歳くらいだぞ? そんな子どもを売り飛ばそうなんて……。


 ともあれ、旅商人が盗賊に襲われているとみて間違いなさそうだ。


 そう言えばマルコ兄さんも言ってたっけ。森を進むと盗賊に出くわすかもって。

 傭兵風の人たちは『風』じゃなくて傭兵そのものか。個々の能力では盗賊たちより優れているけど、数の差には抗えない。たぶん最初に奇襲を受けたのだろうし、全滅は時間の問題だった。


 にしても、前世の記憶が戻った初日からどうしてこうもトラブルばかりに見舞われるのか。愚痴を言っても仕方がないか。


助けたいところだけど、十二歳の子どもが盗賊をやっつけたらびっくりするよね。目立ちたくはない。ひとまず盗賊の注意を引くか追い払うくらいできれば……そうだ!


 僕はゴブリンから入手した『魔召喚の角笛』をポケットから取り出した。


 こいつで魔物を呼び出そう。

 テイマーとして誤魔化せるか、いい機会だから試すのだ。


 さっそく吹いてみる。

 実際に試すのは初めてだ。前世でも未経験。今は両手の甲にそれぞれ四画の『抑止の呪印』があるから、そんなに強い魔物は呼べないかも。


 人の聴覚では拾えない高音が鳴り響くと、


「ん? 上?」


 上空に五十メートルはあろうかという巨大な魔法陣が現れた。

 そこから、ぬぬぅっと姿を現したのは――。


「お、おい、なんだよあれ!?」

「ば、化け物!?」

「あれは……」


 街道にいた彼らにも気づかれた。魔法陣がぴかーって光ってるから当たり前なんだけど……盗賊たちの何人かが声を合わせる。



「「「「ドラゴンだ!!」」」」



 正確には『混沌の古竜』――カオス・エンシェントドラゴンだ。竜種の中でも最高位のひとつである巨大ドラゴンだった。

 いや君、ちょっと大物すぎるでしょ。こんなの使役してると知られたら、それだけで目立っちゃうよ。




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