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呪刻印の転生冒険者 ~最強賢者、自由に生きる~  作者: すみもりさい
序章:最強賢者は伝説を作り――未来へ転生する
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勇者パーティーに見切りをつけた

数ある作品の中からお越しいただき、ありがとうございます。

お楽しみいただければ幸いです。



 ――もういい加減、面倒だな。

 

 研究者気質が幸いしてか災いしてか、俺は賢者と呼ばれるまでになった。

 くしくも魔族たちとの戦時下で、俺は勇者パーティーに引きこまれる。

 

 当事者にはなりたくはなかったが、人族である俺は魔法研究でそこそこ各国に借りがあったので仕方なく、だ。

 

 しかしその勇者どもがいただけない。

 実力は確かにそこそこあるのだが、周囲からもてはやされて舞い上がった奴らは傍若無人でイキりまくり。

 それでいてようやく魔王との最終決戦に挑まんとした今この瞬間。

 

「いや無理だろコレ」

「人の軍勢が蟻のようですわね」

「あれが魔王……なのか?」

「そもそもあの姿はいったい……」

「攻略の糸口が見えぬな」


 魔王が人族の軍勢を蹂躙している様を目の当たりにして萎縮しきっていた。

 

 深い森の中。日中だと言うのに薄暗い。

 画面を映すにはちょうどいいな、と俺は自身が開発した『遠見魔法クレアボヤンス』で虚空に画面を表示させていた。

 そこには、魔王と人族の軍勢との戦いをリアルタイムに映し出していた。

 

 荒野の只中をゆるりと進む巨大な影。黒い霧が球形になった、三十メートルはあろうかという物体だ。霧は高速に旋回してまるで嵐のように暴れている。

 矢も魔法も、爆薬を投じてもびくともしなかった。

 

 俺は淡々と説明する。

 

「あれは『冥府の霧嵐』だな。黒い霧は高位の呪いで触れただけで大ダメージを負う。高速回転しているから攻撃も楽に跳ね返す。鉄壁の守りを維持したまま進むだけで周囲を蹂躙する、攻防一体の第二冠位魔法だ」


「なっ!? 第二冠位だって? 第三より上位の魔法を扱える奴がいるのかよ!」


 まだ十代ながら勇者に選ばれた少年が叫ぶ。腰には金色に輝く聖剣を差していた。

 

「魔王だからな。アレもずいぶんと成長したものだ」


 十五年ほど前に会ったときはまだ一軍団長になりたてだったか。それが魔族でも困難な第三冠位を突破するまでになるとは驚きだ。

 当時を思い返せば、今の勇者たちより見込みがあったのは確かだった。

 

「冗談じゃありませんわ。あんな化け物、わたくしたちだけでどうにかできるとは思えません」


 金の刺繍が施された神官服に身を包む美少女――癒しの聖女が苦々しく吐き出す。

 

「近寄れば呪われ、その危険を冒しても攻撃が届かないのでは……」


 凛とした声は全身鎧の女性から。兜を脱いで整った顔を晒す彼女は、盾役の聖騎士の女性だ。

 

「僕でも第四冠位魔法がやっとです。あんな高位魔法を攻略する手立てはありません」


 黒いローブを着た青年は大魔導士だ。

 

「みな、どうするのだ?」


 二振りの剣を左右の腰に携えた男が細目を開く。二十代半ばで剣聖の称号を得た男だ。

 

 五人はみな十代から二十代後半の若者たち。四十路に足を突っこんだ俺よりもはるかに血気盛ん、なはずなのだが。

 

「んなもん決まってんだろ」

「今は時期尚早。撤退すべきですわ」

「異議はない」

「面倒ですけど、修行しないとダメっぽいですよね」


 勇者たちの言葉に剣聖もうなずいた。

 みなが踵を返し、来た道を戻るその背へ向け、

 

「逃げるのか」


 俺がつぶやきを放ると、ぴたりと彼らの足が止まった。

 勇者の少年がぎろりと睨みを寄越す。

 

「賢者さんよぉ、なんか引っかかる言い方だよなあ。これは戦略的撤退ってヤツだ。そうだろ? みんな」


「そうですわ。まるでわたくしたちが恐れをなしているかのような言い方は――」


「違うのか?」


 俺が言葉を遮ると、聖女は美しい顔を歪めた。

 聖騎士が一歩前に出て怒声を上げる。

 

「老いたか賢者よ! 敵わぬ相手に無策で挑むのはただの蛮勇だ」

 

「策はある」


 全員が眉をひそめる中、俺は淡々と説明した。

 

 いかに第二冠位魔法であっても聖剣ならば隙間を作れるだろう。高位の魔法に注力せざるを得ない魔王自身の防御は疎かだ。わずかな隙間から中にいる魔王を狙えば大きなダメージを与えられる。

 集中が切れれば魔法も維持できず、魔王は丸裸になるだろう。

 

「簡単に言ってくれるぜ。切りこむってことは俺が呪いを浴びちまうって意味だろうがよ」


「お前の鎧には聖なる加護が付与されている。事前に聖女から呪いに抗する魔法をかければ数秒は耐えられるさ」


「数秒って……勇者様にそんな危険を冒せとおっしゃるのですか!」

「万一のことがあったらどうするのだ!」


 女性たちが憤慨する。

 大魔導士も及び腰だし、剣聖もやれやれと肩を竦めていた。

 

「頭でっかちでろくに戦えもしねえあんたにはいい加減うんざりだぜ」


 勇者が聖剣に手をかける。

 

「これまであんたの策は重宝したけどよ、もう俺たちには必要ねえ。変な噂を立てられちゃ困るし、ここで死んでくれや」


 聖騎士が勇者の前に進み出る。

 

「勇者様自らが手を汚す必要はない。ここは私にお任せあれ」


 兜も被らず大剣を抜く。

 他の者たちも止める素振りは見せず、むしろなぶり殺しを見物しようとニヤついていた。

 

「そうだな。俺はもう、お前たちには必要ないようだ」


 俺は手にした木製の杖を掲げた。

 

「なんだよ、抵抗すんのか? 裸んなって土下座して命乞いするなら考えてやってもいいぜ?」

「あら、考えてあげるだけですの?」

「詠唱の時間を稼ごうとするのがオチだ。問答無用で斬り伏せる」


 ガチャン、と聖騎士が鎧を鳴らした、次の瞬間。

 

 閃光が杖の先から放たれる。さまざまな加護と魔法防御が施された堅牢な大盾と鎧を光線が貫いた。

 

「な、にを……? げふっ……」


 聖騎士は膝からくずおれて血を吐き出し、絶命した。

 

 これで俺は完全に当事者になってしまったわけだ。人魔の争いに興味などなかったが、まさか味方から命を狙われるとは思いもしなかった。

 

 どのみちこいつらは、今後も言い訳を重ねて魔王との対決から逃げ続けるだろう。

 その間にどれほどの血が流れようとも。

 

 ならば――。

 

「お前たちに勇者パーティーを名乗る資格はない」


 いっそ壊滅させたほうが世のためだ。


「死にたくなければ全力で抗ってみろ」


 俺は無感情に告げて、杖をくるくると回した――。


途中まででも読み終わったところでブクマや評価を入れていただければ嬉しいです。嬉しみ。

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