格子状の氷河の上を
Chet Baker Quartet – No Problem (1980)
を 聴きながら
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『格子状の氷河の上を』
格子状の氷河の上をぺんぎんの足で歩くの。皆でふよふよの身体を寄せ合ってむわむわに。なるわ。南極の宙に浮かぶ満月の月。逆さのそれは、春のそれなの。次々に冷たい海に滑り込もうとした幼少の頃、私は、遠い昔を思い出していたの。昔の私は、ぺんぎんでむわむわじゃなかったの。女の子だったわ。でも大した悩みなんて持ってなかった。せいぜい、今日の海は冷たいかしら。ってそれくらいなの。
――それくらいなら、ぺんぎん の今。むわむわしているのと変わりないわ。そう。変わりないの。
さかさまの満月の光を見つめてむわむわのぺんぎんのお腹を寄せ合って。寒さを体温で紛らわすの。
むわむわの今に、不満なんてないの。ほんとう。ただ、ほんのすこし、不思議な夢を見るのだわ。
――それは、奇妙なお願いごとなの。私は女の子になって、ずっと、いるはずもないどこかの神さまにお祈りしているのだわ。それは、遠くの星の向こうのもしかしたらさかさじゃない満月の丸いひかりのむこうにあるお祈りかもしれないの。
むわむわのぺんぎんになった今もこうして時折思い出すの。
そのお願いごとのなかみなんて思い出せないのに。
むわむわのぺんぎんらしからぬ涙が出そうになるの。
――なぜかしら。よくわからない。むわむわのぺんぎんの今に不満なんてないのに。ほんとう




