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浮き島  作者: 塩辛
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第十七話 騎士とお姫様

 暁がブリストルの街と城壁を染めていく。その反対側にある湖には霧が立ち込めていて、ブリストル城の影が映し出された。


くわぁ~~~っ


 ベランダで眠りについた白いドラゴンが目を覚ます。リサも少し早く目覚めて彼の元にやってきた。ここは高い位置にあって、外はとても寒い。リサはガラス窓を開けてすぐさまホワイトに抱きついた。彼の体からは朝露の香りがする。


リサ「おはよう! 昨日ね、素敵な夢を見たの」


 ホワイトは体に埋もれる少女を包むように首を曲げて背中をさすった。


リサ「綺麗なお姫様の夢! かっこいい騎士と一緒にジュース飲んで、それからキスするの」


『キス?』


リサ「人間同士の愛の印し。愛し合う二人はキスするの」


『ほう、愛し合う』


 ホワイトは、昨日の謎が少しわかった気がした。

 まもなく部屋に昨日の老メイドがやってきて、リサの世話をしてやり、朝食があるといって大広間へ案内した。


老メイド「ふふふ、小さい頃のエリザベス様みたい。よく似合っているわ」


リサ「ありがと、ばあや」


 少女はもうすっかりお姫様のつもりでいる。それらしく優雅に歩いてみせて広間へと向かった。


ズウリエル「やあ、なんと可愛らしい! 昔のエリザベスを見ているようだ。お二人ともおはようございます」


 白いドラゴンが興味をそそったのは朝食だった。自分の知らない“料理”がそこかしこに並んでいる。昨日のメガロサウルスの肉もまだまだ余っていて、野菜もあればスープもチーズもパンもある。様々な香りが彼の鼻を刺激した。


ふしゅーーーっ!


ズウリエル「これを食べ終えて少ししたらドンの村へ出発です。護衛を…………ハハッ、そういった野暮な話は食べてからにしましょう」


 白いドラゴンもいるとなると、食卓はやや荒れた。リサもだんだん面倒になって老メイドから面倒を見られていたが、その隣ではチャーリーも飯にがっついていた。彼なりの気遣いだな、と思った全員はそれに合わせてやや汚らしく朝食を済ませていった。

 そんな騒がしい食卓に衛兵の一人が走ってやってくる。


衛兵「ズウリエル公爵、フォスター伯爵はまだ準備があって遅れるとのことです」


ズウリエル「構わぬ。ホワイト様ともう少し話してもおかなければならないのでな。こちらも直接北門へ行くから、そう伝えるように」


衛兵「ハッ! それから、湖の西側の件は本日早朝から斥候を送っております。こちらも随時報告するとのことです。」


ズウリエル「うむ。私がいない間はチャーリーが代理だ。以後は彼に報告せよ」


 衛兵は返事をしてすぐさま向こうへと行った。朝食を終えたブリストルの騎士たちも次々に自分たちの仕事を始めていく。

 お茶が運ばれてくる頃にようやくエリザベスが来るが、軽い挨拶だけしてズウリエル公爵はリサと白いドラゴンに話しをしていった。


ズウリエル「おはようエリザベス…………さて、このあとのことを話しましょう」


 今からドンの村へ自分も含めて視察しに行く。新たな支援物資もそうだが、要人を連れて行くことになるのでドラゴンの護衛があると心強いとのことだ。


『ズウリエル公爵、暁のブリストル、我が友よ。まずは、この饗応(きょうおう)に報いるだけのことをしたい』


 それを聞いて、ズウリエル公爵は打ち震えた。涙すらこぼれてきた。チャーリーもエリザベスも、その場にいた全員が唖然とした。


ズウリエル「…………では、共にドンの村へ行きましょう」


『うむ』


リサ「わたし荷物取ってくる!」


エリザベス「待ってリサ、私も行くわ。いくらかお洋服を渡したいの。もう着れない物を持っていても仕方ないもの」


 リサが目を輝かせて走って行くのを、エリザベスも老メイドも歩いて追いかけて行く。ホワイトはそれを見送って大きくあくびをした。


ズウリエル「チャーリー、私がいない間ここを任せる。」


チャーリー「はっ。しかし護衛の騎士がアビゲイルだけでは」


ズウリエル「ホワイト様もいるのだ。メガロサウルスのボスを一撃の猛者だぞ?」


チャーリー「……かしこまりました。それはいいのですが、湖の西側の攻略にも要人を割いてしまっている以上、統治者がいないのでは町民に混乱も出るのではと」


ズウリエル「私もな、後釜をいくらか考えておかねばならんのだ」


 チャーリーはハッとした。


ズウリエル「頭の固い貴様に務まるとは思っておらんが、可能性として見ておくに越したことは無い。それに、私は長くとも一週間以内で戻るのだ。少しくらい剣を降ろして民を見てみろ」


チャーリー「……かしこまりました……身に余る大役、お受けします。」


ズウリエル「さて、ばあや! あ、いないのか。衛兵、私の装備を」


 彼はその場で鎧を取り付けさせていった。革と鉄で出来ていて、装飾もある立派な鎧だ。

 その間、頭をもたげるチャーリーの近くに居たホワイトが話をした。


『チャーリー、ひとつ聞きたいことがある』


チャーリー「は、はい……。」


『愛し合う二人はキスをするとリサから聞いたのだが、キスとはどんな行為なのだ?』


チャーリー「は、はいっ?」


 突拍子も無い質問に、チャーリーは声が裏返り、その場にいた全員が聞き耳を立てた。とくに、ズウリエル公爵は着替え中の体を傾けて転びそうになっている。


『リサが夢に見たそうなのだ。騎士と姫がジュースを飲んでからキスをしたと』


 チャーリーは顔を真っ赤にしていった。


ズウリエル「…………まったく、キスごときで顔を赤くする歳でも無いだろうに。やっぱりアレじゃあダメかなぁ…………」


 ズウリエル公爵は小言を放った。そばにいる衛兵たちだけが小さく笑っている。


『愛し合っているとやると聞いたが、キスとはどんな行為だ? 貴様は、あの娘とはキスはしたのか?』


チャーリー「ほ、ほ、ほ、ほわいとさま!!」


 笑いを堪えられなくなった衛兵たちが大声で笑い始め、ズウリエルは苦笑いを浮かべた。

 チャーリーはもうそれ以上喋れなくなり、ホワイトは頭に大きな疑問符を浮かべた。

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